見出し画像

異世界へ召喚された女子高生の話-88-

▼この身は何処いずこ

城も城下の街も、至るところ全てに石や土塊つちくれでできたゴーレムが配備されていた。

ゴーレムは、ロウェンの開発した「特別なエネルギー」が使用されており、その自動防衛機能でなんとか凌いしのいでいる。
ゴーレムをサポートする弟子たちもおり、数が多かろうが、城門すら突破できないだろう。

ーーロウェンは考えた。

敵の目的である「高橋美咲みさき」を完全に掌握しょうあくし、彼らを絶望させるのが最善の手だ。

1番弟子のダナン・ティーマスには、防衛の状況を見極めて対処するように指示。

以前のような隠蔽いんぺい魔法を使った、玲奈れいなたちの書斎のポータルからの侵入には、朝比奈九散あさひな くちるをあたらせた。

ーーー地下へ降りると、部屋の中から騒がしい音が聞こえてきた。

ロウェンは焦ってあせって鍵を使い扉を開ける。

美咲みさきは部屋の中で、踊るようにステップを踏み、何かを振り回す動きをしていた。

「あっ、おはようございます、ロウェンさん。」
美咲みさきは、こちらを向いて明るく微笑ほほえむ。

逃げる算段をしていたかと勘繰かんぐったロウェンは、体調も良く元気そうな彼女の姿に驚いたおどろいた

「暴れているようで驚いたおどろいたが、元気そうで安心した…」
ロウェンは呼吸を整えながら話した。

「毎日、こうやって体を動かしていたのよ。…でも、もう帰れないんだよね。飛び散った血液からお花が生えてくるようじゃ、普通に生活できないし、仕方ないか…」

美咲みさきも息を整えてベッドに座る。
薄らうっすらと汗をかき、花のような香りが漂い、適度な運動で顔を紅潮させた美咲みさきは、実に魅力的に映る。

「お前の身体からだは、私が手を加え、内臓から変化している。循環する体液から骨や神経、毛髪に至るまで特別な存在だ。死しても、全てを大切に扱ってやる。」

ロウェンは美咲みさきの前に跪きひざまずき、彼女の手を取る。

「…その時は、リリスさんみたいに、私を食べるの?」
美咲みさきは少し哀しそうに微笑ほほえみながら尋ねた。

「そうだ。他の誰にも渡さん。私が、お前の全てを取り込む。」

ロウェンは、しっかりと美咲みさきを見つめて応えるこたえる

「それは、私を愛してるから?それとも、ただの魔術の実験体だからなの?」
美咲みさきも目を合わせて聞く。

「ふふふ…っ、両方だよ。私が愛してるなんて言うのは、嘘っぽくて信憑性しんぴょうせいがないだろう?」
と言い、掴んだつかんだ美咲みさきの手をベッドに押さえ付けて、美咲みさきを押し倒す。

「あははっ、そうね。そう言えば…母さんが昔、言ってたわ。愛するより、愛される方が幸せなのよって…」
美咲みさきは遠くを見つめるように呟いたつぶやいた

そう言った母は想い人ーー山田つよし諦めあきらめて、父と結婚したんだと、美咲みさきは今、感じた。
そして、私も彼を想うことを諦めあきらめて、別の男の愛を受け入れるんだ…。

---

城を見下ろす上空に、藤井玲奈れいなは風の使いに跨りまたがり、巫女装束で決戦に加わっていた。
リュークとカインの二人を伴い、彼らは手にアルテミス特製の魔術玉「ディスラプト・オーブ」を持ち、ゴーレムへの空爆を開始する。

ゴーレムに当たると、魔力の流れを阻害そがい麻痺まひさせる効果がある。

小型の土塊つちくれのゴーレムは、核となる部位の破壊は騎士の攻撃でも容易だが、大型の石のゴーレムは、硬い身体を攻撃するだけでも厄介やっかいで、弱点の核を狙うのは困難だった。

それを麻痺まひさせて動きを制限できるのだ。

その間にメイスなどの打撃武器で、核を探して殴打おうだし続ける。

ーーーあとは、根性でなんとかなる。

フィリップは、アルテミスのサポートでワイバーンの召喚に成功し、無理やりついて来たエリナと一緒に、空から玲奈れいなを援護している。

弓矢や、ロウェンの弟子たちの魔法から守るのだから大変だ。
爆撃している風の使いは無防備なので、放っておけない。

小型飛竜ワイバーンとはいえ、竜の眷属けんぞく
パワーは、並の魔物を圧倒している。

楼閣ろうかくから狙ってくるロウェンの弟子たちへ、先端に鉤爪かぎづめのある尾や翼の風圧で対抗する。

アルテミスの操った霧でできた、思いの場所へ抜け出せる「フォグ・パスウェイ」で移動させたカラドール騎士団と、どこからか集まった志願者――名もなき戦士たちをサポートせねばならない。

さらには、第一隊、書斎のポータルから強襲する精鋭たちを、美咲みさきの元へ送る陽動ようどうをするのだ。

---

限られた空間での戦いはお手のものと、ゼルギウスは待ち伏せに注意しながら、ロウェンの書斎に侵入した。
安全を確保すると、ポータルから付き合いの長くなりつつある相棒の山田つよし、そしてソナも城内に詳しいため飛び出してくる。

「以前にいた尖塔せんとうのお部屋は、向こうになります。」
ソナが指差す方向へ、三人は進む。

ゼルギウスはゴーレム対策でメイスを使い、もう一方に片手剣を補助で持っている。
山田は相変わらず短槍を持ち、ゴーレム対策に腰に手斧を持って来ている。
…使う気はしないけど。
後は「ディスラプト・オーブ」をいくつか持って来ている。

警戒した待ち伏せはなく、第三隊のカラドール騎士団の活躍で城内も混乱しているようだ。
石のゴーレムも出払っているようだ。

土塊つちくれのゴーレムを倒しながら進み、扉を開けるも、以前に幽閉ゆうへいされていた部屋には、使用の痕跡こんせきもなく誰もいない。

此処ここじゃないみたいです。ああ、どうしよう?どこかしら…うーん。」ソナは戸惑とまどって悩む。

山田は窓を見つけると、外を見てみた。

風の使いの藤井玲奈れいなと目が合う。

かなり高い位置にいた風の使いから、玲奈れいなが飛び降りてきた。
山田は焦ってあせってバルコニーへ飛び出し、その体で玲奈れいなの衝撃を受け止める。

「ぶほっ!だ、大丈夫?藤井さん?げほっげほっ…、飛ぶなんて無茶してどうしたの??」

しくも玲奈れいなに押し倒される形になった山田は、き込みながら尋ねた。

玲奈れいなは険しい表情で山田を見つめながら…
「…美咲みさきが…暗い狭い部屋のベッドで…
あの、クソ野郎に…はあっ…ふうっ…」
と予知したイメージに憤りいきどおり、興奮し震えていた。

山田は玲奈れいな掴んでつかんで起き上がると、叫んだ。

美咲みさきちゃんが危ない。暗いぃ…地下ぁ…地下室だっ?!
ソナちゃん、地下室ってあるかな?」

「あるにはありますが…一つじゃないですよ? うーん、そういえば、絶対に入っちゃダメだって言われてた、曰くいわくつきの地下室が…」
悩んだソナは、思い当たることを述べる。

「それだっ! そういう場所がうってつけだよ。」
と、いう山田に言われて、三人と玲奈れいなは、ソナの言う場所へと向かった。

風の使いはリュークに任せてあるので大丈夫だ。

「やはりな…」

ゼルギウスは、ソナが言う地下への門に来るなり、それを守る人物を見て舌打ちした。

「遅かったね。今頃、二人は濃密な愛を語り合ってるわよっ♪」
朝比奈九散あさひな くちるはティルヴィングを構えて立ち上がる。

ゼルギウスと山田も武器を構えて、ソナと玲奈れいなを後ろに下がらせた。

玲奈れいな幻視げんしが本当なら、残された時間は少なそうだ。
焦るあせる気持ちを抑えて、この強敵に冷静に当たらねばと、山田つよしは槍を握りにぎり直した。

いいなと思ったら応援しよう!

えとん
よろしければ応援お願いします。 いただいたチップは、自作への活動資金として使用させて頂きます。