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異世界へ召喚された女子高生の話-11-

▼山田の苦労は続く

美咲みさきは、自宅に向かいながら周囲を見回していた。

「山田さーん!」

と何度か呼びかけてみたものの、彼の姿は見えなかった。
もしかしたら彼は自宅にいるかもしれないと考えたが、彼の連絡先を知らないことに気づいて落胆らくたんした。

「しまった……私、自分の話ばかりで、山田さんに全く気遣きづかいしてなかったかも……」
彼がいるとつい嬉しくなって甘えてしまうようだ。

美咲みさき自己嫌悪じこけんおおちいった。

リリス・ヴァレンティーヌが言っていたように、勇者は一回の依頼で元の世界に戻れるが、もしかすると山田が召喚された理由は別の依頼だったのかもしれない。
彼が寂しげに見つめていたことを思い出すと、涙があふれ出しそうになった。

「山田さんのバカぁっ!」

夜の街を歩きながら、美咲みさきは自宅を目指した。

荷物も、リリスが言っていた「ミミング」と呼ばれるつるぎも、すべて学校に置いたままだった。

自宅に着くと、やはり誰もいなかった。

寂しさを感じるよりも、それが美咲みさきにとっての普通の家の雰囲気だった。

部屋に入り、スマホを取り出して画面を見ると、召喚された日の午後11時だった。
向こうの世界では日をまたいだはずだが、こちらとは時間の流れが違うのか、あるいは何かルールがあるのか、美咲みさきにはわからなかった。

ふと鏡を見つめると、リリスからもらった巾着袋が映り込んでいた。
その中には、異空間に保管された「モカリンキラー」が確かに存在している。
山田の機転を思い出すと、美咲みさきの頬に涙が伝った。

「明日、学校に行ったらミミングもこの袋に納めておこう。できるだけ早く……」

そう決意した美咲みさきは、急いで服を脱ぎ、シャワーを浴びてベッドに入った。
そして、いつ再び召喚されるかわからない不安をいだきながらも、眠りについた。

翌朝、美咲みさきは早朝の始発に乗り、学校へと向かった。途中、いつもの公園を通り、山田さんがジョギングしていないか確認したが、やはり彼の姿はなかった。

少し落胆しながらも、学校に着くと守衛さんがおどろいた表情で迎えてくれた。

「高橋さん、今朝は随分ずいぶんと早いね。ご苦労さん。」

「無理言ってごめんなさい。早く来て朝練の準備をしないといけなくって。わがまま聞いてくれてありがとうございます。」

美咲みさきは礼を言い、急いで校舎の中へと向かった。

「高橋美咲みさきちゃん、本当に可愛らしい子だなあ。この仕事やってると、役得だよな。」

守衛さんが相方に話しかけるのを背に、美咲みさきは一目散に校舎のロッカーへ向かった。

ロッカーには、異世界移動の際に落とした通学鞄も入っていた。
おそらく、モカリンが届けてくれたのだろうと考え、後でお礼を言おうと思った。
そして、お目当てのつるぎが入った図面ケースを見つけ、ミミングを取り出して巾着袋に納めた。

ロッカーを閉め、一息ついた美咲みさき。しかし、背後に人影を感じて振り向くと、同じ学年の藤井玲奈れいなが立っていた。

彼女はクールで無表情なことで知られており、こんな時間に自分の後ろに立っていることに美咲みさきおどろいた。

「…藤井玲奈れいなさん…よね?どうしたの?藤井さんも朝練があるの?」

美咲みさきは思いつく限りの会話を試みたが、玲奈れいなの反応はかんばしくなかった。
玲奈れいなは制服のジャケットの下、スカートの腰のところに結えた巾着袋を指し示し、自分の懐からも巾着袋を取り出して見せた。

「あら、藤井さんも、巾着袋派なのね。可愛いよね〜。」

美咲みさきは合わせてみたが、玲奈れいなは何か言いたいことが伝わったのか、無言のまま去っていった。

「私のは特注品なんだけどね……」

美咲みさきは藤井に聞かせるわけでもなく、そっと呟いた。

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時を戻して、現代に戻った直後の異世界では、ダナン・ティーマスと極悪三人衆、そして山田つよしとゼルギウスが、死亡したオークをはさんで向かい合っていた。

流石さすがは我が師ロウェン様のつかわした勇者殿、実に見事。そうは思わんかね?」

ダナンが皮肉混じりに言った。

山田は得体の知れないダナンに取りえず、敵意がないことを伝えようと努めた。

美咲みさきさんのことをめているのでしたら、私も同意しますよ。」

しかし、山田はゼルギウスがどう思っているのかを心配していた。
2人で4人を相手にするのは厳しいと感じていたのだ。

一方、ゼルギウスは美咲みさきの華麗なスマッシュに魅了されていた。
勇者をその気にさせるために言ったおだてのつもりが、見事にオークの急所を突いたのだ。

その余韻よいんがゼルギウスを高揚こうようさせていた。

「…今、とても心地良い気分なんだ。お前らのおしゃべりで台無しにしないでくれよ。」

ゼルギウスはうっとりとした表情で、心はすで彼方かなたへと向かっていた。
普段は論理的で無駄のないプロの戦士である彼が、明らかに様子がおかしい。

山田は一瞬で敵対的な雰囲気に変わったこの場を、何とか元に戻そうと努力した。

「あはは、ゼルギウスさん、余りの勇者殿の活躍に心ここに在らずと言った感じですね。流石さすがロウェン様の勇者殿!」

山田はダナンを気持ちよくさせるために言葉を選び、ゼルギウスの異常な振る舞いを何とかごまかそうとした。

「早く、私もリリスさんの依頼を終えて帰らないと」
と心の中で祈りながら、山田はその場の空気を和らげようと奮闘ふんとうした。

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