異世界へ召喚された女子高生の話-59-
▼廃教会の女神
「畜生っ!がまんならねえなあっ!」
小柄なロークは焦りと苛立ちのピークに達し、教会の外に出ると、窓越しに囚われた少女の姿を見つめた。
ラブ・ポーションの影響で全身が火照り、悶えるように苦しむ少女
――その姿をオカズに、ロークは自分を慰め始める。
「ちっ、あの鴉め。小娘をからかって楽しんでやがるぜ。」
祭壇裏の控え室から革鎧を着たサムが覗き込み、そう吐き捨てる。
少女の足や腕を啄む鴉は、彼女をさらに消耗させようとしているようだった。
手下の2人のそんな様子を見て限界を感じ、リーダーのカランも焦りを募らせていた。
強気の姿勢を崩さない少女に対して、彼は不安を感じ始めていた。
「もう限界だ…」
カランは、焦燥感に駆られ、不意に立ち上がった。
「奴らが来る前に、決定的な事実を突きつけてやるんだっ!」
と決心し、彼女を屈伏させるべく動き出した。
カランが動き出すと、少女を揶揄っていた鴉が騒ぎ立て
「ヨセ…チマヨッタカ…カラン…ハナレロ…」
と、異様な声で制止しようとする。
しかし、カランは鴉を鬱陶しそうに手で払いのけ
「五月蝿え。黙ってみてろ!」
と、怒鳴りながら少女に近づいた。
「まだ助かると思ってるのかい、英雄さん?」
カランは少女の顎を掴み、冷たい笑みを浮かべて威圧する。
「私は、自分の友人たちを信じてるわ!」
少女は強気なまま、はっきりとした口調で言い返す。
「じゃあ、これを知っても平気でいられるか?」
とカランは、少女の旗袍の襟元に手をかけ、大襟の釈迦結びを無造作に解き始めた。
「何するつもり?!やめて!」
少女は声を上げたが、カランはそれを無視して動作を続ける。
「大人しくしてろ。助平なことをするわけじゃねえ。」
カランはそう言いながら、旗袍の隙間に小さなカップを滑り込ませた。
カップが彼女の胸元に当たると、体の中から何かが押し出されるような圧迫感が走る。
敏感になった胸がビクンと反応し、彼女は思わず声が漏れそうになる。
やがて、胸の奥から何かが溢れ出す感覚に襲われた。
カランはカップを取り出し、それを少女の顔の前に差し出した。
「ほら、これを飲んでみな。」
「え…これは?」
少女は驚きと困惑で戸惑ったが、カランに押し付けられるようにしてカップの中身を口に含んだ。
「…甘い。それに、何だか元気が出るような…?」
と彼女は素直に感想を漏らし、唇をペロリと舐めた。
「そうだろう?それはお前のミルクだ。英雄様の特製ミルクだからな。美味いに決まってる。」
カランは笑みを浮かべた。
「ロウェンが言ってたぜ。お前には以前、身体的な改良を施す薬草料理を食わせたんだ。つまり、アンタはロウェンの玩具ってわけさ。よーく理解して、子猫ちゃんとして可愛がって貰うんだな。」
そう言い放つと、カランは残りのミルクを自ら飲み干した。
「おおっ!?こりゃ美味い!サムやロークにも分けてやるか?」
と、カランが言った瞬間、少女は怒りで燃え上がり、渾身の力を込めて立ち上がった。
「それは…私の夢が詰まったものなのに…!」
少女は声を震わせた。
「私が愛する人と築く家族のためのもの…こんな風に扱われるなんて、絶対に許せない…!」
彼女の叫びに、カランは思わず怯んだ。
鴉も驚いて飛び退いた。
「ロウェン、あなたが以前言ったことを思い出したわ。」
少女は、まるで別人のように落ち着いて話し始めた。
「異世界から来た私の持ち物は『御物』として特別な力があるって。この服、旗袍も、この2つに分たれた真珠のイヤリングもね。」
少女はそう言い、カランや鴉に向けて鋭い目を向けた。
そして突然、歌を歌い出した。
「清らかに吹く、乙女の風よ
誇り高く生きる、我らが証
強く正しく、心を守り
清風の下、歩み続けん〜♪」
カランは何が起きているのか理解できず、呆然と立ち尽くしていた。
ロークやサムもその様子を窓から覗き見ていたが、誰もが少女の変化に驚いていた。
小さな鴉さえも、ロウェンからの支配を失い、ただの鴉として、何が起きているのか理解できずにその場を見つめていた。
手を後ろ手に拘束されたまま、青白く光り輝く旗袍をまとった少女は、まるで神の化身のように祭壇の前で立っていた。
「清風の学び舎に集いし我ら、誓いを胸に、今日も生きん
清らかに、正しく、美しく
乙女の風よ、永久に吹け〜♪」
その瞬間、夜の帷が森に降り、廃教会は彼女の放つ青白い光に包まれた。
森の木々もその光に揺られ、まるで大地そのものが彼女の力に共鳴しているかのようだった。
カランも手下たちも、ただ立ち尽くすしかなかった。
彼らの前には、光り輝く女神のような少女が立っていたからだ。