異世界へ召喚された女子高生の話-50-
▼エリナの帰還
「父さん、姉さんが帰って来たよ!」
エドガー・フィッツジェラルドが興奮気味にリビングへ駆け込み、ようやく落ち着いたロバートに知らせた。
ロバートはゆっくり立ち上がり、リビングの入り口を見つめると、淡いピンク色の花柄ワンピースを着た娘エリナが顔を覗かせた。
「父さん、ごめんなさい。色々と事情があって、フィリップとちょっと出かけてたの…」
エリナは何から話せばいいのか頭の中で整理しながら、ためらいがちに話し始めた。
しかし、ロバートは彼女の言葉に答える前に、娘の装いに目を奪われ、感激していた。
「ああ、なんて美しい服だ。マーカスに切り刻まれた服なんて着ていられるものじゃないよな…」
と、ロバートは元気な娘が着飾って戻ってきたことに感極まり、涙を流し始めた。
「まっ、マーカスのこと、聞いたの?」
とエリナは、忘れていた嫌な出来事を思い出し、動揺した。
エドガーが横から口を挟む。
「フィリップさんとケイリーさんを逃すために、オリバーさんの行商を利用したんだろ?アルステッド家に行って聞いたよ。」
と、状況を説明したため、エリナは少し気が楽になった。
「なんだ、もうバレてたのね。オリバーさんの行商もグレイロック村で行き詰まってるし、世の中って本当に上手くいかないわ…」
エリナは小さくため息をつき、皮肉っぽく呟いた。
「どうしたの?オリバーさん、怪我でもしたのかしら?」
と、エリナの母キャサリンが奥から出てきて会話に加わる。
エリナは笑いながら
「信じられる?昨晩、グレイロック村を占拠していたお尋ね者たちと、大決戦を繰り広げたのよっ!」
と誇張して話し始めた。
フィリップの魔術とケイリーの剣技、そして知恵で、20名の騎士崩れを生け捕りにし、カラドール騎士団への引き渡しが終わるまでフィリップとケイリーが村に滞在することになっていると説明した。
ロバートは感情的になり、涙ながらに娘の英雄的行動を聞きながら
「お前がそんなことをしている間、私は取り乱していたのか…」
と、彼女の成長に感動していた。
キャサリンも同じく、夫の手を握りながら感激し、笑顔を浮かべていた。
エドガーも、姉の冒険譚と、敬愛するフィリップの勇姿に感銘を受けていた。
「いいな、姉さん。フィリップさんと楽しくしてさ。俺もフィリップさんと昔みたいに、集落で遊びたいのになぁ。」
と、少し拗ねた様子で言った。
エリナはその言葉に
「もう、話を聞くだけだと、簡単だって思ってるでしょうけど、あの時は生きた心地がしなかったのよ。それに、ケイリーさんって、いまだによくわからないし…」
と不安げに言いながら、フィリップとケイリーがどうしているか気にかけ始めた。
するとロバートがふと思い出したように
「そうだ。そのケイリーさんを探している人たちが、今アルステッド家に集結してるんだよな、エドガー?」
と尋ねた。
「ああ、そうだよ。異世界から来た東洋人2人と、エドウィンさんの先生、あとは野生児の少年2人、強面のおじさん、そして笑顔が可愛いソナちゃんが来てたよ。」
と、偏りのある紹介をするエドガーに、エリナは少し驚いた。
「まさか、ケイリーさんを狙ってる悪い魔法使いとか…?」
とエリナは心配そうに尋ねるが、エドガーは
「いいや、エリザベス叔母さんやリナちゃんとも楽しくやってるみたいで、情報を待ってるって感じだよ。」
と語った。
エリナはその話を聞いて
「じゃあ、私が行って、挨拶してこないといけないわねっ!」
と言った瞬間、父ロバート、母キャサリン、そしてエドガーまでもが吹き出した。
「何よ、失礼ね!そんなに笑うことないでしょ?!」
とエリナは憤ったが、家族の幸せそうな笑顔を見ているうちに、自然と自分も笑い出してしまった。
フィッツジェラルド家はその日、笑いに満ち溢れていた。
やがてエリナとエドガーは、馬に乗ってアルステッド家へと向かい、ケイリーの状況を伝えるために急いだ。