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異世界へ召喚された女子高生の話-74-

▼騎士と花の妖精

騎士団の幕舎ばくしゃの中、隊長クラスの会議が静かに進められていた。
高山での黒鴉くろがらすの戦団の検分の結果と、カラドール伯爵からの秘密の任務についての話し合いだ。

中央のテーブルには、祭りの会場から持ち込まれた色とりどりの料理が並べられている。

騎士の名誉のために言っておくが、これは祭りの雰囲気に浮かれた結果ではない。
殺伐とした空気を和らげ、理性的で落ち着いた話し合いを続けるための措置そちに過ぎない。

当然、この中には数量限定のわさび飯はない。
すでに食材切れだ。

エレナ・バレンタイン副団長は、団長と第一隊長の二人からの検分内容を聞いても、やはり信じがたい様子だった。

「とても信じられません。あの子にそんな芸当ができるなんて……」
彼女の言葉に、他の隊長たちも静かに頷くうなずく

誰もが同意見のようで、場には重い沈黙が漂っていた。

その中、工兵のオーウェン・ブラックスミスが口を開いた。

「あのおじょうちゃんの使った得物えものを見てみたいねぇ。きっとかなりの業物わざものだよ。そう思わないかい?」
彼の意見は的を射ていた。

第一隊長のガレス・ストーンブリッジは、腹が減ったのか無心で料理をかき込んでいる。

サイラス団長はオーウェンの言葉に頷きながら、フィオナ通信士から差し入れられたファルファッレの塩味スナックを味わい、エールを飲んでいる。

中世ヨーロッパでは、水の衛生状態が悪く、ビールやエールが安全な飲み物として一般的だった。
これも彼の名誉のために付け加えておく。

「そうなると、やはり……」

サイラスが言いかけたその時、幕舎ばくしゃすみから少女の声が響いたひびいた

「英雄ケイリー様を連れて行くと、おっしゃるのですかぁ?」

場にそぐわない甲高い声かんだかいこえに、一瞬で全員の背筋が凍るこおる

全員が声の主に視線を向けると、灯りの中に進み出たのは、シンプルなチュニックとエプロンを身に纏ったまとった小さな少女だった。
その愛らしい姿に、張り詰めていた緊張が少し緩むゆるむ

しかし、ジーナ・ホークアイ第二小隊隊長は油断しなかった。

「娘よ、なぜこんなところに居る?祭りで迷ったなどとは言わせんぞ?」

彼女は腰の小剣を抜き放ち、少女の目の前に突きつける。
刃先が微かかすかに揺れ、少女のひとみに映り込む。

「私の主人あるじの話が聞こえてきたので、気になったのですよぉ。」
少女は刃先をものともせず、穏やかに答えた。

その無垢むくひとみと落ち着いた態度に、ジーナも少し戸惑いとまどいを見せる。

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一方、広場では山田つよしが白米を堪能たんのうし、その余韻よいんに浸るかわいらしい姿に高橋美咲みさきは満足していた。

その後、美咲みさきは広場の一角でベルトラン村長と、午後の打ち合わせをする。
ベルトラン村長は祭りに関して、美咲みさきを全面的に信頼し、何かと彼女に頼っていた。
美咲みさきは苦笑いしつつも、その期待に応えようと懸命けんめいに対応していた。

その時、サイラス騎士団長が静かに現れた。

「ケイリー殿、こちらにおられましたか。」
彼の低く落ち着いた声に、美咲みさきは振り向く。

「サイラス騎士団長、お祭りを楽しんでいただけていますか?」
美咲みさきは優雅にカーテシーの姿勢をとり、微笑ほほえむ。

「もちろんです。素晴らしい歌声に、美味しい料理まで堪能たんのうさせていただきました。」
サイラスは満足そうに頷き、それからベルトラン村長に視線を移した。

「ベルトラン村長、英雄ケイリー殿をお借りしてもよろしいでしょうか?」

突然の申し出に、村長は一瞬戸惑ったが、騎士団長の頼みを断ることはできない。

「ああ……もちろん、騎士団長のお頼みとあらば。ケイリー様、また後ほどよろしくお願いします。」
村長は軽く頭を下げ、その場を後にした。

美咲みさきはサイラスの後について歩き出す。
彼の背中には鎖帷子くさりかたびらとマント、そして紋章入りのタブレットが揺れている。

途中、フィリップとエリナとすれ違い、二人に手を振って挨拶した。

「まるで、騎士が花の妖精を捕まえたみたいね。」
エリナが小声で呟くつぶやくと、フィリップは微笑ほほえんで頷いたうなずいた

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幕舎ばくしゃの近くに差し掛かった時、美咲みさきは見覚えのある三人の男が、騎士たちの取り調べを受けているのを見つけた。

カラン、サム、ローク――かつて彼女を誘拐した男たちだ。

「サイラス騎士団長、あの人たちも連れて行かれるのですか?」
美咲みさきは不安げに尋ねた。

「ん?黒鴉くろがらすの仲間ではないようだが…」
サイラスはまゆをひそめ、取り調べをしている騎士たちに話を聞く。

「どうやら、報告のあったリストに名前がなく、困っているようだ。」
彼は美咲みさきにそう伝えた。

「それならば、彼らを解放してください。先おとといに、私を誘拐したのですが、ご覧の通りすっかり改心しています。任務外なら問題ございませんよね?」
美咲みさきは穏やかな口調で主張した。

「誘拐?あなたを……彼らが?それを許すと……」
サイラスは驚きおどろきのあまり言葉を失い、美咲みさきの顔をじっと見つめた。

隣にいた騎士も目を見開いている。

馬車のスペースも限られているため、美咲みさきの提案は都合が良かったが、それでも納得しきれない様子だ。

(なぜ、自分を傷つけようとした者たちを、こんなにも簡単に許せるのか。このおじょうさんは一体、何者なのだ?)

サイラスはしばし考えた後、深く息を吐いて頷いたうなずいた
「分かりました。彼らは鉱山に戻し、その後は村の判断に任せます。」

「ありがとうございます。」
美咲みさきはほっとした表情で頭を下げた。

誘拐犯たちは、四肢の切断や絞首刑を免れたのだから、これ以上の幸運はないだろう。

その後、美咲みさきはサイラスと共に馬車に乗り込んだ。
騎士団は幕舎ばくしゃ畳みたたみ黒鴉くろがらすの戦団の収容も終えて、出発の準備を整えていた。

(え……これはどういうこと?私、お持ち帰りされてる?)

馬車が揺れ始め、グレイロック村が徐々に遠ざかっていく。
美咲みさきの胸に不安が募るつのる

「どちらまで行かれるのですか?」
彼女は思い切ってサイラスに尋ねた。

向かいの席に座る彼は、にこやかに答える。
「半日ほどの場所に出城がありまして、そちらで我が主人カラドール伯爵と謁見えっけんしていただきたい。」

「夜になりますよね。帰りはどうすれば……」
美咲みさきの声に心配が滲むにじむ

サイラスは優しく微笑ほほえんだ。
「お帰りは明日になります。心配はいりません。責任を持ってお送りしますよ。」

玲奈れいなちゃん、これはあなたの言っていた二回目ってことなのかな……)

美咲みさきは友人の忠告を思い出し、胸の奥がざわつく。

その時、隣から小さな声が聞こえた。
「ケイリー様、私がついていますのでご安心ください!」

振り向くと、小さな少女、ソナが微笑ほほえんでいた。

「ソナちゃんも……どうして?」

美咲みさき驚きおどろき安堵あんどで胸がいっぱいになる。

カストルムの城塞都市じょうさいとしまでは、まだ道のりは長い。窓の外には広大な草原が広がり、夕陽が赤く染めていた。

馬車の中、美咲みさきは不安と期待の入り混じった気持ちで、これから起こる出来事に思いを巡らせていた。

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