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異世界へ召喚された女子高生の話-66-

▼もう見てなんていられないよ

男性たちは、突如主役に抜擢ばってきされた美咲みさきとは異なり、特に目立った役割はなかった。

当初の予定通り、美咲みさきの料理――「おもてなしショートパスタ」作りの材料集めに精を出していた。

エドガーは馬を引き、買い物の荷物持ちを担当している。

レオンは材料が手に入りそうな場所を検討し、交渉も引き受けてくれるので最適な人材だった。

「レオンが行くなら、俺もついて行くぜ!」
とリュークが意気込むと、弟のカインも
「面白そうだから僕も!」
と、買い出しメンバーに加わった。

若い問題児が集まった感があるので、山田つよしも保護者として参加することにした。

市場の様子も異世界とあって興味深く、50歳になるが年甲斐としがいもなく胸が高鳴っていた。

「思いがけなく、なんだか楽しいことになってきたなぁ。」
と、少年たちに混じって通りを歩く山田。

カインは、大きくて安心感のある山田に寄り添い
「人がたくさんいて楽しいね。」
と、笑顔を見せる。

リュークは美咲みさきが話していた食材を、レオンを出し抜いて一番に見つけるつもりで先頭を歩いている。

レオンはそれを知りつつ、余裕の表情で後からついていく。

しかし、祭り前でごった返す通りは、彼らの思い通りには進まなかった。

一方、ゼルギウスは力仕事がしたいと、祭りの中心となる広場の舞台設営の手伝いに向かった。

フィリップは、皆が出かけた後もストーンハースト亭のテーブルに座ったままだった。
エリナはそばで、甲斐甲斐かいがいしく世話を焼いていたが、フィリップは何か思い詰めた様子で悩んでいた。

「フィリップ、そろそろ私たちも、どこか出かけましょうよ?」
と、エリナは本日、何度目かのお誘いをしてみる。

ーーーその忍耐力には感心させられる。

ついにフィリップも考えがまとまったようで
「エリナ、決めたよ。気に食わないが、やはり僕はリリスに師事することに決めた。」
と、突然の表明をした。

「朝からそんなこと考えてたの?本気で言ってるの?」
エリナはリリスが胡散臭うさんくさすぎて、素直に賛同できない。

「どうしても、今以上の魔術の力を得たいんだ。僕もエリナと同意見だけど、彼女しか該当する人物がいないんだ。」
と、フィリップは答えるが、自分でも納得しきれていない様子だ。

「もう少しすれば、お義父とうさん――エドウィンさんが帰ってくるじゃない。それまで辛抱しんぼうしようよ、ねぇ?」
と、エリナは必死に彼を止めようとする。

「…父さんは戻らないよ。…二度とね。」
と、フィリップは伏し目がちに話す。

「え?…そんな、何言ってるのよ。そんな知らせはないでしょ?」
エリナは、彼の信じがたい発言を否定する。

「事実だよ。父の召喚術を他人が使用し、玲奈れいな美咲みさきを呼び出し、父の所有していたミミングを美咲みさきが持っている。それを聞いたら…わかるだろう?」
淡々とフィリップは事実を述べる。

「そんな…だって、…それでも生きてるって、信じたっていいじゃないっ!」
エリナは、義理の父となるエドウィンを慕っしたっていたので、そんな事実を受け入れられない。

「ごめんね。エリナを傷つけるつもりはなかった。でも、受け入れなければならないんだ。父の死と、父の遺したのこした召喚者と呪いの剣のろいのつるぎを…」
そう言って、フィリップは立ち上がり二階の宿泊部屋へと向かう。

ーーーリリスは待っている。
おそらく、こうなることを予想していたのだろう。

「フィリップは美咲みさきのこと、そんな風に見てたの?エドウィンさんの形見かたみとか遺児いじだなんて、考えてるの?」
エリナは思ったことを口にする。

フィリップは立ち止まり
「…妹さ。そう、美咲みさきは家族なんだ。だから、父さんの意思をがなきゃ。」
と言い、再び階段を上がっていく。

エリナは彼を追いかけ、
「ちょっと、思い詰めすぎてない?」
と心配する。

フィリップは振り返り
「二日前に召喚再契約の儀式を施したほどこした。あれで、ロウェンとかいう奴が、父の召喚術に加えた改良を排除しておいた。初期化だ。今の彼女は、父のオリジナル召喚術『ケイリー』そのもの、父の望んだ姿だ。僕は彼女と、父の意思をぐんだ。」
と、一息ひといきにまくし立てた。

エリナは彼の覚悟を感じ取り、何も言わずについていく。
今はそばで見守るほかないと思った。

「やあ、遅かったな。待ちくたびれたぞ…なんじゃ、保護者同伴か?」
フィリップが部屋の扉を開けると、リリスがこちらを見て話しかけた。

「エリナは見学だ。気にしないでください。僕はあなたに師事することに決めました。ご指導をよろしくお願いします。」
と、フィリップが恭しくうやうやしく頭を下げて挨拶する。

エリナはその光景を苦々しく思いながらも、恋人の決意を察してただ見守っていた。

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