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異世界へ召喚された女子高生の話-55-

▼風に揺れる紫の藤白い藤

朝のストーンハースト亭は大賑わいだった。

それもそのはず、黒い髪の英雄ケイリーが店の手伝いをして、客席と厨房を駆け回っていた。

今日のケイリーの衣装は「旗袍チーパオ」と呼ばれる中国風の衣服。
詰襟つめえりで両サイドに腰までのスリットが入ったボディコン型のワンピースだ。
白を基調に青やピンクの花柄が描かれ、腰には青いシルクの帯を結び、いつもの巾着袋を下げている。
髪はクルリと巻いてアップにし、藤の花が揺れるかんざしを刺してまとめていた。
耳元では小さな真珠のイヤリングが輝いている。

スリットが意外と深いため、ケイリーは黒のショートパンツを履いている。
足元には黒のショートブーツ。

彼女はなぜこんな服を買ったのか、召喚前の自分の行動に少し疑問を持ちながらも、お店に立つにはこの装いよそおいがピッタリだと感じた。

昨日、フィリップときずなを強めるまじないを行ったが、緊張や異性として意識したせいで気絶してしまい、ストーンハースト亭まで運ばれる失態を犯してしまった。
だから今日は、その埋め合わせとして、より頑張っている。
ご主人のウィルフレッドや奥さんのメイベルにも好評で、お客さんの反応も上々だ。

フィリップがどう反応するか、ケイリーは密かに楽しみにしていた。

「メイベルさん、お塩やバターが減ってたから補充しておきますね。」
と、ケイリーはサービスとして置いてある調味料の減りをメイベルに告げた。

「ああ、そうしておくれ。それと、そろそろあのパンが焼けてると思うから、確認して持って行ってくれ。」
と、メイベルが鍋の調子を見ながら答えた。

「は~い。」
と元気よく返事をして、ケイリーはオーブンを見に行った。

今日はサポート役にてっしているケイリーだが、プロの仕事を見るのが楽しくて仕方ない。

日がすっかり昇り、フィリップが2階からホールに降りてきた。

「フィリップ、おはよう! 昨日は倒れちゃってごめんなさい。」
と、ケイリーはフィリップの元へ駆け寄った。

フィリップはケイリーの姿を見て顔を赤らめた。
「お、おはよう、ケイリー。今日は大胆で素敵な装いよそおいだね。」
と、少しぎこちなく返事をした。

「どう? 昨日はきずなを強めたのに倒れちゃったでしょ。今日はその埋め合わせに、一緒にどこかへ出かけましょうよ。」
と、ケイリーは笑顔を見せた。

彼女の髪に揺れる白と紫の藤の花のかんざしが光を受けて輝く。
その紫の藤の、花言葉は「君の愛に酔う」だ。
まさに今、ケイリーは愛に酔っているようだった。

「わかったよ。じゃあ、メイベルさんの美味しいスープとパンを味わってからにしようかな。お願いね、可愛いウェイトレスさん。」
と、フィリップは笑いながらオーダーした。

その時、例の4人が店に到着した。

「いらっしゃいませ。空いている席へどうぞ。」
と、ケイリーが駆け寄る。

「あら、レオン君、おかえり。」

「おはようって、なんでウェイトレスやってんの?」
とレオンは驚くおどろく

美咲みさき様! ご無沙汰しておりました!」
と、ソナがケイリーに抱きつく。

美咲みさき姉ちゃん、綺麗な服だな?!」
と、リュークが服を見回して言った。

「えーっと、ちょっと待ってね……あなたはそらちゃん?」
とケイリーが言うと、ソナは慌てて手を振った。

「違います! ソ・ナです!」
と、怒ったように答える。

「ごめんね、まだ記憶と現実がしっくりこないのよ。」
と、ケイリーは舌を出して笑った。

「でも、君のことはわかってるつもり。ライト君よね?」
と言うと、リュークも不機嫌そうに
「全然違うよ!…ふざけてるだろ?」
と、不審な目で見る。

「まあまあ、スマホに日記をつけてたおかげで、全部覚えてるんだけど、まだ完全には繋がっていない感じなの。ゴメンね。」
と、舌を出してケイリーは笑う。

それで、もう1人突っ立ってる男を見て
「あ、あなたは…誰だろ?」
と、ケイリーは頭を抱える。

「彼はエドガー、エリナの弟で次期エルヴァーナの代表さ。やあ、エリナの代わりかい?」とフィリップが横から入って来て言う。

義兄おにいさん、おはようございます。ご活躍、伺いました。美咲みさきさんも、お噂通りおうわさどおりの美人さんで、何よりです。」
と、エドガーは揉み手をしながらケイリーを上から下までジロジロ見る。

「アハハ。初めまして、エドガー君。じゃあ、みんなフィリップと相席でいいよね。」
とケイリーは4人を席に案内したが、心の中では別の思いが渦巻いていた。

(なぜあの人は来てくれないの?私のことを心配していないのかしら?いいもん、フィリップにたっぷり甘えてやるんだから。)
と、ケイリーの心は熱く煮えたぎった鍋のように熱くなっていた。

そんな中、店の片隅では肩に鳥を乗せた無精ひげの男が、じっとケイリーを見つめていた。

彼の肩の黒い鳥はケイリーから視線を離さない。
その視覚は遠く離れた、東の彼方かなたの主人、魔法使いロウェンへと繋がっている。


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