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異世界へ召喚された女子高生の話-56-
▼真珠に託された願い
ストーンハースト亭は朝から大賑わいだった。
店内には活気が満ち溢れ、ケイリーは忙しくオーダーをとり、料理を運び、配膳を下げて駆け回っていた。
今日の衣装の白い旗袍は、腰まで入ったスリットから黒のショートパンツがちらりと覗き、その彼女の姿に注目が集まっていた。ケイリーはお洒落に気を配りながらも、忙しい仕事に集中していたが、心の中ではフィリップのことを考えていた。
(あぁ、フィリップが取られちゃった…せっかくお洒落したのに…)
と、ケイリーは少し寂しさを感じていた。
フィリップは、アルステッド家から来た4人に囲まれて楽しそうにしている。
彼らが「美咲」と呼ぶたびに、ケイリーの胸には何とも言えない感情が広がった。
フィリップとレオンは「美咲」と呼ぶべきか迷っている。
彼女はまだ自分が「美咲」なのか「ケイリー」なのか、はっきりしないままに過ごしていた。
そしてその呼び方が、フィリップとの距離を感じさせるものに思えて悲しくなった。
やがて、人々が活動的になる頃、メイベルさんの嫁いだ娘メアリーが店にやって来てウェイトレスを交代してくれることになった。
ケイリーは、ほっと一息つき、ようやく休憩の時間を得た。
(よし、何とかしてフィリップを連れ出して、今日はデートにしようっ!)
と考えていたところ、細身の茶髪の男が近づいてきた。
「お姉さん、休憩かい?良かったらこれ、コイツが飲めないって余っちゃったんだ。良かったらどうぞ。」
と、彼はハーブティのカップを差し出した。
「ありがとうございます。ちょうど汗をかいて喉が渇いてたんです。」
と、ケイリーは嬉しそうにカップを受け取り、一息に飲み干した。
その後、ケイリーは厨房に空いたカップを置き、化粧直しをしようと裏口へと向かった。
しかし、体に異変が起きていることに気づいた。
(何だかおかしい…)
彼女の体にじわじわとハーブティが広がり、胸の奥がざわつき始めた。
足が重く、視界がぼやけてくる。
立っていることさえ難しく、やっとのことで支えながら歩いていた。
「これって…一体、何…?」
体が熱を帯び、感覚が過剰に鋭敏になっていく中、ケイリーは倒れ込みそうになった。
その瞬間、3人の男たちが現れた。
ハーブティをくれた細身の茶髪の男もいた。
肩に小さな鴉を乗せた、背の高いがっしりした無精髭の男が、冷静に指示を飛ばす。
「今がチャンスだ、彼女を連れて行け。」
男たちはケイリーに近づき、彼女を無理やり持ち上げようとした。
ケイリーは必死に抵抗しようとしたが、体が動かず、もがく力さえ失われていった。
「あなた…一体、私に何を飲ませたの?」
ケイリーは、か細い声で茶髪の男に問いかけた。
男はニヤリと笑い
「ラブ・ポーションさ。魔術師の特別製だから、命に別状はないが、恥ずかしい目に遭わせてやるよ。」
と、答えた。
「卑怯者…こんなことして、何が楽しいの…?」
ケイリーは精一杯の力で言い返したが、その声はかすれていた。
ラブ・ポーションの効果で、体が火照り、肩に触れられるだけでビクンと敏感に反応してしまう。
動きたくても体が思うように動かず、ケイリーは無力感に打ちひしがれた。
「フィリップぅーっ!」
と、ケイリーは最後の力を振り絞って叫んだ。
しかし、すぐに男たちに口を押さえられ、猿轡をかまされてしまう。
「くそっ、手間取るな。」
と男たちは苛立ちながらも、ケイリーを馬車に乗せるために抱え上げた。
その時、ケイリーは手の中にあった真珠のイヤリングをそっと地面に落とした。
(お願い、フィリップに届いて…)
と心の中で祈った。
「イヤだっ!やめて…」
ケイリーは、かすれた声で抵抗しようとしたが、ラブ・ポーションの影響で体が言うことを聞かず、力なく男たちに連れ去られていった。
彼女は裏手の馬小屋に止めてあった馬車に乗せらる。
そして助けの来ないまま、ケイリーは何処かへと運ばれてゆくのであった。
真珠に込められた願いは、果たしてフィリップに届くのだろうか。
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