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異世界へ召喚された女子高生の話-21-
▼悪夢と共に消えよ!
美咲と玲奈は数時間の休息を取り、少しずつ意識を取り戻した。
体力も幾分か回復し、何とか動けるようになったが、まだ完全に戦える状態ではない。
「…玲奈ちゃん、大丈夫?」
美咲が隣で目覚めた玲奈に声をかける。
「…。ごめん、美咲。私が不甲斐ないばかりに、貴女を酷い目に遭わせてしまって…。」
目覚めた玲奈は即座に美咲に抱きつき許しを請うた。
「やだな。玲奈ちゃん、謝ることなんてないのに。私もお喋りに夢中になってて、あのタコの触手に気付かなかったからイケナイのよね。戦うって自覚が足りてないのよ、私は…。カインくんが来るまで『山田さん助けて』って思ってて、どうにも他力本願なのね。すぐ人を頼っちゃう。」
努めて明るく振る舞って、玲奈を元気付けようと戯ける美咲。
「山田さんって、そんなに頼りになる人なの?」
玲奈にはあの風体の男に、信頼を寄せる美咲が不思議に思えた。
「山田さんは良い人だから…、きっと玲奈ちゃんの力にもなってくれるよ。」
無垢な美咲の瞳には山田剛への特別な感情が感じられ、玲奈は嫉妬する。
「次は任せて、美咲。清風神社の巫女として、唯一無二の貴女の力になるわ。」
「ふふ、いいねーっ。その意気込みだよ、玲奈ちゃん。」
「お姉ちゃんたち、あの豚の魔物をやっつけてくれたんだろ?アイツが居なくなってくれて助かったよ。どうにも相性が悪くってね…、へへへ。」
とリーダーのリュークくんが言ってくれ、美咲は、あの時の命を奪った罪悪感が軽くなった。
「そうなの?お役に立てて嬉しいわ。そうだ。これから、あの足がたくさんあるタコの魔物のローパーを退治しないといけないんだけど、手伝ってくれないかな?」
図々しいと思いながらも、少年たちの生活にも関わる事だ、悪い話じゃない。
「や、やるよ。僕たちも!だってアイツが来てから、狩場が荒らされて大変なんだよ。」と少し臆病なノアくんが、真っ先に賛同してくれた。
「僕も手を貸すよ。僕たちは襲われないけど、薬草の採取の邪魔だからなあ。」
エイルくんは薬草などの近隣の植物に詳しい子だ。
そうだ、何故、ローパーは彼らを捕食しようとしないのだろう。
ロウェンの実験場から逃げたという話は本当だったのだろうか。
実は、最初から私たち、いや召喚された私から養分を吸い取り魔術素材とするか、倒されれば丸ごと余さず素材とする腹積もりだったんじゃないかと憶測する。
「手伝うのは構わないけど、何か算段はあんのかよ?」
流石のリーダーのリュークは仲間を無策で危険に晒したくないようだ。
「う〜ん、…特にないわっ!でも、前とは違う、迷いが消えたの。後は、何処かに落としたミミングさえあれば。」
美咲の正直すぎる発言に、すぐには誰も賛同できなかったが、二人だけで行かせるのは、やはり気がひける。
再び美咲と玲奈、心配でリュークたち森の少年も、あの森へとやって来た。
美咲の胸の奥にはチリチリと、何かに引き寄せられる感覚が強くなってきた。
(できる、今度はできる、そんな気がする。)
美咲の手には、ラケット型の武器、モカリンキラーが握られていて、山田剛も見守ってくれているようだった。
「美咲、上よっ!気をつけて!!」
玲奈の悲痛な叫び声が聞こえ、地に伏せ、仰向けになって上を見ると大木のコブに見えた場所から伸びた触手が空を切り裂いた。
間一髪で避けることができた。
「加護をっ!」
玲奈が叫び、巫術を使って美咲の背に札を当てる。
何の効果があるのかわからなかったが、美咲は身軽になった気がして、擬態を解いて樹木から滑り降りて距離を取ろうとするローパーに向かって行く。
触手を伸ばして、以前のように美咲を捕えようとするが、ラケットを握った彼女には迫り来るシャトルのように見える。
「全部、打ち返してやる。」
弾き飛ばした触手は本体と思われる、左右に突き出した目のある肉の塊のような中心部まで飛んで行き、本当にバドミントンでもプレイしている感覚だった。
森の少年たちも石を投げて、援護してくれているが、このままでは決め手に欠ける。美咲は手にしたモカリンキラーで触手を叩き払いながら、剣を探し続ける。
「ミミング、…どこにいるの!?」
不意に触手を払ったモカリンキラーが折れる。
「…打撃を受け流す事は出来ない」と言ったゼルギウスの言葉が過った。
(しまった、どうしたらいいの??)
ローパーの触手がここぞと美咲に向かって伸びる!
美咲に触れたその時、触手が飛び跳ねた。
美咲も驚いて尻餅をつく。
カインがスリングを使ってローパーに石を投げ、動きを妨害している。
「美咲姉ちゃん、逃げろ!」
立ちあがろうと手を伸ばすと、美咲は懐かしい金属に触れた。
「見つけた…!」
自分の半身を手にした思いだ。
モカリンキラーよりも、それは美咲の思いをより具現化してくれる。
ミミングを手にした美咲は、ローパーに向かって再び立ち上がる。
久しぶりに手にしたミミングは、美咲の思うような軌道で白刃を描く。
向かってきた触手も斬り伏せる。
(ミミングが力をくれてる!)
「これで終わりにする…!」
美咲は力強くミミングを振り下ろし、為す術の無いローパーの中心を一撃で貫いた。
ローパーは激しくもがきながら、そのまま動きを止め、崩れ落ちた。
「玲奈ちゃん、これをロウェンたちが使えないように出来ない?」
美咲の言葉を察した玲奈は
「この不浄のモノを浄化するわ。…土に還りなさい!」
札を貼り付けられたローパーの身体は、青白い炎を上げて消失していった。
嫌な思い出と共に…。
少年たちは大喜びで駆け寄り
「お姉さんたち、やったね!」と声をかけた。
美咲と玲奈は疲れきった体でありながらも、笑顔を交わした。
森の中に再び異次元の気配が漂い、二人は現代に戻るための魔法が発動された。
「帰れるんだね、美咲…」
玲奈は、美咲の手をしっかりと握りしめた。
「うん、玲奈ちゃん、私たちやり遂げたよ…」
美咲もその手を握り返し、夜空を見上げた。
光の中に包まれ、二人は現代に戻った。
日曜の夜、公園のベンチに座る二人は、ボロボロになった姿でお互いを見つめ、無事に帰れたことに感謝しつつスマホで時間を確認した。
「明日の学校には間に合いそうだね。」
美咲が安心したように微笑む。
玲奈も同じく微笑み返し
「うん、また明日、学校でね、美咲。」
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