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異世界へ召喚された女子高生の話-20-

蠢くうごめ触手

リリスの小屋を後にした高橋美咲みさきと藤井玲奈れいなは、ローパーの討伐の為に、以前にも来た西の森の中へ向かった。

そしてローパーと出会った二人はれ木|に擬態していたローパーの不意打ちを受ける。

美咲みさき玲奈れいなは、ローパーとの戦いの後、森の中で力尽ちからつきて倒れていた。

戦いの最中さなか、彼女たちはローパーの触手に捕まり、必死に抵抗したが、その身の毛もよだつ搦め手からめてに圧倒されてしまった。
ローパーは彼女たちからエネルギーを吸い取ると満足し、命までは奪わずに解放した。

高橋美咲みさきは、乱れた呼吸を整えながら、重く感じる体を動かそうとしたが、全身に広がる疲労感にはばまれてほとんど動けなかった。
地面に横たわるローパーの体液で濡れた彼女の体は冷たく、周囲の森の暗闇が一層その冷たさを引き立てていた。

玲奈れいなはどうしたのか心配だったが、美咲みさきも触手から離された時の、落下の衝撃が全身にひびあたりを見回す余裕もない。

戦いの前、美咲みさきはロウェンに渡されたドレスを少しでも動きやすくしようと、ナイフですそ膝丈ひざたけまで切り、動きやすいように改良していた。
しかし、その努力もむなしく、ローパーの触手に翻弄ほんろうされ、肌に張り付いた時の不快感は想像を絶した。
応戦したミミングと呼ばれる勇者のつるぎは、触手を何度か触手を切り払ったが、今は吊り上げられた時に落としたので手元にない。
彼女は今、武器もなく、ただ森の地面に横たわっているだけだった。

玲奈れいなちゃん…」

美咲みさきは、かすれた声で玲奈れいなを呼んだが、返事はなかった。彼女の視界には、玲奈れいなの姿が見えない。
恐怖と不安が胸の中で膨らむが、動くことすらままならない自分に苛立ちいらだちを感じていた。

一方、藤井玲奈れいなは、草むらに倒れ込んでいた。
美咲みさきからは見えない谷底まで滑り落ちていた。

彼女はパーカーと膝丈ひざたけのスカートという現代的な服装をしていたが、ローパーの触手に捕まった際、その肌に張り付き身体をい上がってくる感触に恐怖した。
過去の男性たちから受けた嫌な記憶がよみがえり、その強い恐怖に襲われて気を失っていた。

彼女もまた、触手にしばり上げられた時に唯一の武器であるナイフを落としてしまい、今はただ息をするのが精一杯の状態だった。

玲奈は清風せいふう神社の生まれで、この世界に召喚されてからは巫女みことしての能力が覚醒かくせいしたらしくお札で巫術ふじゅつを使う事が出来た。
しかし、サポート的な効能の上に、美咲みさきと引き離されて役に立てなかった。
高い霊感による予知もできるのだが、今回はそれが働かなかった。

いつも精度の高い予知ができるわけでは無いのだ。

森の冷たい風が、二人の間を吹き抜け、静けさと暗闇が彼女たちを包み込んでいた。

「…やっぱり、山田さんやゼルギウスさんに頼むべきだったのかな…」
美咲みさきは、弱々しい声でつぶやいた。

しかし、すぐに玲奈れいなのことを思い出し、その考えを押し込めた。
玲奈れいなが男性を怖がっていることは知っていたからこそ、二人でこの討伐に挑むことを選んだのだ。

二人の間に沈黙が流れる。
風の音と木々のざわめきが、彼女たちの不安をあおるるようにひびいていた。

(まだローパーは近くにいて、私たちが動き出したらまた、触手を伸ばしてエネルギーを吸い取るのだろう。…私たちが完全に息絶いきたえるまでだ。)

美咲みさきは、少しでも力を取り戻そうと努力したが、全身の疲労がそれを許さなかった。

その時、足元へ何かが迫って来る感じがし、振り返る。
ローパーにも感知されずに美咲みさきに接近出来たのは、小さな男の子だった。

「髪が長くって、なんだかお母ちゃんみたいだ。…女の人?大丈夫?」
「…えっ?!あのタコみたいな魔物が近くにいて危ないわよ!」
思わず美咲みさきは助けをうより、少年の心配をしてしまった。

「ん?僕はへーきだよ。アイツ、僕たちに気付かないから大丈夫。」
少年はカインと言い、彼ら野生児集団のまとめ役リュークの弟だった。

「私のような髪の女の子が近くに居なかった?彼女も怪我けがをしているはずだから助けてもらえないかな?」と今度は玲奈れいなの救出をお願いする美咲みさきだった。

そんな美咲みさきの様子に可笑おかしくなったカインはプッと吹き出し笑い、
「わかった。もう一人の子、兄ちゃんたちに手伝ってもらうよ。それとお姉ちゃんもだよ。」
と言って、風のように立ち去っていった。

カインを始めとした少年たちは森の住民で、美咲みさきが討伐したオークに住処すみかを奪われて彷徨さまよっていた孤児こじだった。
彼らは野生児でたくましく、肌は日焼けして褐色、着ている服はところどころ破れ、ほつれている。ボサボサの髪と鋭い眼差しが印象的だ。
リューク、エイル、ノアの3人が加わりローパーの目を盗んで大きな葉っぱでくるんで、滑らせるようにして美咲みさき玲奈れいなを運んで行く。

少年たちが二人を連れて行ったのは、森の奥にある彼らの「秘密基地」だった。

そこは、ちた大木の根元に作られた簡素なシェルターで、葉や枝で覆われた天井があり、周囲には木々が生い茂っていた。

地面には乾いた草が敷かれており、二人のためにベッド代わりとなるスペースが用意された。

「ここなら安全だぜ。誰にも見つけられやしない。」
リュークがほこらしげに言う。

エイルが手早く薬草を集めてきて、美咲みさき玲奈れいなの体に塗る。
「これで少しは良くなるはずさ。お姉ちゃんたち、しっかりしてくれよ。」

こうして身体を休める事ができ、ローパーへのリベンジの準備が整っていった。

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えとん
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