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異世界へ召喚された女子高生の話-09-

▼新たなる武器…その名も

夜も更け、リリスの小屋ではそれぞれが場所を見つけ、翌日のオーク討伐に備えて眠りについた。

こんな形での就寝は、女子校育ちの美咲みさきにとって初めての経験だった。彼女の心はドキドキしていた。
毛布と呼べるのか疑問な薄い布をかぶり、周囲には素敵な男性たち(*美咲みさきの私情が入ってます。)がいる。

山田つよしは同じ現代日本から来た仲間で、優しく丁寧に接してくれる。
ゼルギウスは渋い低音の声色が美咲みさきの好みで、強くて頼りになる戦士だった。

「こんな状況で眠れるのかな……」

美咲みさきは意識しすぎてなかなか寝付けなかった。その時、毛布が少し動くのを感じた山田が隣でささやいた。

「寝ないと身体が持たないよ。そうだ…良ければ、何か話をしようか?」

彼の提案に、美咲みさきはホッとしながらも、この機会に色々と質問してみることにした。

「…公園でいつもジョギングしてるんですか?」

「そうなんですよ。同僚に勧められたのがきっかけなんですが、やってみると意外とハマっちゃって、続いてるんですよ。美咲みさきさんも何かスポーツやっていますか?」

「私はバドミントンを部活でしてます。思ったより動きが激しくて、持久力も必要で、大変です。」

「バドミントンって、なんだか優雅ゆうがな感じのスポーツですよね。…ん、寝たのかな?」

山田は公園のシルバークラブで見かける羽根つきを頭に浮かべながら、美咲みさきが静かに眠りについたことを感じ取った。その静けさの中で、ゼルギウスが低い声で呟いた。

「お前も早く寝ろ。身体が持たんぞ。」

その言葉に、山田は安心して目を閉じた。

リリスの寝息が静かに小屋に響き、彼女が健全であることを示していた。

翌朝、誰よりも早く目覚めた美咲みさきは、ぼんやりと昨夜、山田と話したバドミントンのことを思い出していた。

無性に身体を動かしたくなり、適当な長さの棒を持って、モカリンとの対戦をイメージしながらステップを踏み始めた。

「よし、スマッシュ、ここでクリアして、かかったわね。モカリン、はい、ドロップ……」

美咲みさきは仮想のモカリンに次々と技を決め、会心の動きにガッツポーズを決めた。
先月の地区予選で決勝戦を制した動きがよみがえる。

その瞬間、後ろから渋い低音の声が聞こえ、ゾクッとした。

「…面白い動きをするな。」

ゼルギウスが朝から美咲みさきの動きを見ていたのだ。
美咲みさきは恥ずかしさに顔を赤らめながらも、言い訳を口にした。

「見てたんですか。今のは自分でも最高のシミュレーションができたと思います。」

「…確かシャトルとか言う羽を、手の得物えもので叩くんだよな。その動きでオークを討伐できないだろうか?」

「えっ……バドミントンで、オークを?」
美咲みさきが驚いて答える。

「剣技のイロハでも教えるつもりだったが、君はすでに優秀な戦士だったのだな。」

それを聞いていた山田が急に顔を輝かせ
「それ頂きっ!流石さすがはゼルギウスさん!」
と叫び、どこかへ走っていった。

しばらくして、山田は不思議なモノを手に戻ってきた。

それは、まるでバドミントンのラケットのような形状だったが、60センチほどの全長で、グリップには革が巻かれ、握りやすくなっていた。
先端には幅20センチ、長さ30センチの楕円形のヘッド部分があり、そこにはストリングは張られていないが、ほんのりと光を帯びている。

「リリスさんに魔法を付与ふよしてもらったので、魔物に対して有効な打撃を与えられるようになっています。」

山田が説明すると、美咲みさきは素振りを試してみた。
すると、そのラケットはバドミントン用と同じサイズで、美咲の扱いやすい重さに調整されていた。

「わあ、すごい!よく短時間でこれだけのものを……それも見ず知らずの土地で。」

美咲みさきは感心しながら、山田に礼を言った。
山田は微笑ほほえみながら答えた。

美咲みさきさんを探す前から色々見ていたので、それが役に立ったみたいです。良かった。」

ゼルギウスは山田の行動力、探索力、そしてそれを実用的に用いる発想力におどろき、彼の能力を改めて認識した。

そして、これなら勇者の依頼をこなせると、ゼルギウスの中でひとつの答えがみちびき出された。

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えとん
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