代理人と弁理士について
はずかしながら、ロースクールでも代理人のパートはなかなか苦手な部分ではありましたが、自分自身が登録された弁理士である以上、代理の話は他人事ではなく、また、最近少し気になる事例がちらほらあったので、自分の中での整理の意味でも、代理人と弁理士について少し考えてみたいと思います。
なお、この話は、弁理士だけではなく、弁理士に依頼するクライアント側の方にとっても、重要な意味を含んでいるかと思いますので、もし今現在、弁理士に何か依頼をされている方で、少しでも心当たりのある方は、注意してお読みいただければと思います。
民法における代理行為
まず、民法における代理とは、意思表示をする方法の一つであり、本人から代理権を与えられた代理人が、意思表示の効果帰属先が本人であることを相手方に示した上で、本人のために、代理人が相手方と法律行為をおこなうことを言います。
弁理士としての代理行為
弁理士であれば、例えば特許出願を特許庁に行う際に、出願人の代理人として、その出願行為を行うことがあげられます。クライアントは、弁理士に特許出願等を行ってもらう際に、委任状を弁理士と取り交わしていると思います。その委任状が、すなわち弁理士が本人の代理人として、特許出願等を行いますよ、ということを示しているものとなります。
特許技術者という立場について
例えばいっとき問題になったこととして(今もかもしれません)、いわゆる弁理士資格を持たない特許技術者と呼ばれる人が(私もかつてそういう立場の時がありました)、指示された明細書のドラフト案等を作成する場合に、もちろんそれが上司等の弁理士の監督下のもと行われているのであればよいと思うのですが、出願後、中間対応などで、特許庁の審査官と面接をするときや、電話等でやり取りをするときは、必ず代理人である弁理士を表に出してください、という指示がありました。
特許庁からも面接ガイドラインが出されていました。
Q15にある「弁理士事務所員」が、特許技術者にあたります。同席は許されていますが、審査官と直接的に意思疎通を図ることはできないとあります。
この特許技術者の問題は、弁理士法75条において禁止されている、いわゆる非弁行為(弁理士又は特許業務法人でない者が、他人の求めに応じ報酬を得て、特許庁における手続の代理行為等を業とすること)の問題として、議論されているようです。
弁理士が作業を怠った場合
本来あってはいけないことですが、代理人である弁理士が、作業を怠るなどして、依頼人に損害を生じさせてしまった場合には、もちろんその代理人は責任を問われることになります。
ただ、ここで難しい点は、依頼人は専門的で自分ではさっぱりわからないことだからと代理人に依頼しているわけで、代理人である弁理士が、実際作業をどれくらい怠っているか等は、素人である依頼人にはなかなか判断が難しいところがあります。
明らかに依頼人に不利になるような結果を招いた場合は、さすがに依頼人も弁理士が作業を怠っていたことに気付くことができますが、そうでない場合に、依頼人が弁理士に責任を問うことができるかというと、そのあたりは微妙なところです(例えば特許を取りたかったのに取れなかったということを、代理人である弁理士の責任とすることは、通常なかなか難しいことだと思われます(もちろん代理人が登録料を納付し忘れていたといった場合は別ですが、拒絶理由対応も行った上で権利化できなかったという結論に至った場合には、原則依頼人は弁理士に責任を問うことはできません))。
弁理士を変更する場合
ときに依頼人が代理人である弁理士を変更したいということもあるかと思います。
その場合、新たな弁理士については、中途受任という形をとったり、新たな案件であれば改めて新たな弁理士として依頼をすることとなります。
中途受任である場合は、前任者の弁理士から、依頼人の視点で理解できるかたちで、案件について引継ぎがされているのが理想かと思いますが、少なくともせめて同業者の視点として、後任者の弁理士が理解しやすい形で前任者の弁理士が資料等をまとめておくのが、前任者の弁理士が行うべき最低限の作業であると、個人的には考えます。
弁理士の専門性の細分化に伴う他の弁理士の紹介について
弁理士の仕事というのは、通常専門性に沿って細かく細分化されており、例えば特許専門の弁理士、商標専門の弁理士、さらには特許専門の弁理士の場合、得意な科学技術分野というのがあります。
例えば私の場合、専門はバイオ・化学となるため、電気・電子工学といった分野の案件が来た場合、その案件をハンドルするのは代理人として責任が持てないと判断することがあります。
通常そういったケースの場合、同じ弁理士の知り合いで、その分野に強い方を紹介するということになります。個人的にはこういったケースにおいては、紹介料は取らず(紹介料を取ることについて問題視されている議論があります)、他のふさわしいと思われる弁理士をクライアントに代理人として無償で紹介することにしています。
なお、代理人は出願手続き等について明記する必要があり、誰が代理人なのか、そこがはっきりしないような案件のハンドリングは、個人的には適切とは思えません。
また、弁理士を紹介するサービスというのも世の中にはあるようですが、その紹介会社自身は弁理士の独占業務を行えるものではなく、そのような会社が、仲介料を取ることについて問題視されている議論もあります。
よって、弁理士に依頼をしたいときは、なるべく直接依頼を検討している弁理士に、代理の可否を打診するのが良いと考えます。
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