直線ではなく、曲線を描きたい。

ここ最近、ピアノを触っていて感じる事があります。

それは、「私は柔らかさをうまく出せない」ということ。

よく言えば「正確にきちんとできる」、悪く言えば「かたくて色のない演奏」という感じでしょうか。
うーん、ニュアンスが難しくて、うまく言えないなぁ。
表情も、色付けも得意だったはずなのに、こっちにきてから、「あぁ私はなんてつまらない人間なんだ…」って自分で思うわけです(笑)
それは、日本とココとの環境や価値観、大事にするもの、根本的な何かが違うのかな、と色々考える最近です。

大人になってからの「弾く」という事。

メロディーをうたうのは(声を出す“歌う”ではなくて“表情豊かに弾く”という意味)子どもの頃から得意だったのですが、今の私は「音楽的に」そして「理論的に」理解して行うことができていなくて、曖昧で中途半端な「不確かな感覚」で、なんとなくやっているのかも…と思う事がたくさんありました。
だから、とても脆い。
指がまわるとか、そういうテクニックだけではなくて、繊細なニュアンスの違いを出したり、理論に基づいて音楽的に表現する引き出しが、私には足りないと思い知らされています。

私の武器

ピアノでの私の武器は「音色」だと思っています。
ピアニストではないし、ピアノ科出身でもないので、私のテクニックは大したものではありません。
でも、音色だけは大事にしていた武器です。

しかし、その武器も危うい、と感じるここ最近。
自信を無くしそうな瞬間が多いです。

「テクニックは十分。指も回るし、よく練習している。」と褒められるのですが、「もっと柔らかい音で」「繊細に」「アナリーゼした和音を、緊張と弛緩に結び付けて表現する」という、当たり前だけど、今まであまり言われることのなかったことを沢山指摘されます。

ピアノを使う授業全て、問題点は同じだった。

ピアノのレッスンだけでなく、HarmonieやImprovisationの授業でも同じくです。
和音の構成音をきちんと身体に入れていない、ということも問題点だと思うのですが、アルペジオでメロディーを即興する時、柔らかく弾くことが出来ませんでした。
鍵盤上を指が滑らかに踊る様に移動ができません。
正確に、一生懸命弾こうとしちゃう。
鍵盤上で曲線をデッサンするように動かせない。
もっと静かに弾いて、とも言われます。
かっちりと弾くのではなく、柔らかさや静けさが欲しい、と。

Pianoも、Harmonie, Ipmrovisationも、先生が弾いてくれる音と自分の出す音の違いに愕然とします。
でも、音を聴くと何を求められていて、私は何が足りないのかがはっきりわかる。
それはそれは、グサグサと心に刺さるほど、思い知らされるのです。
先生の音色に感動しつつも、同時に、自分の問題点を思い知らされる。
そんな毎日です。

動きの授業も、問題点は同じだと感じる

私の専門分野は、身体で音楽をするので「動き」がとても大事になってきます。
舞踊の先生の授業があるほどです。
実は、身体の使い方、手の使い方、歩き方、動きの美しさも、日本では私の武器でした。
でも、良いと思って気を付けていたことを覆されることが多いのです。

出された課題は出来る。
難しいリズムの組み合わせもすぐ動けるし、表現できる。
でも、身体の力の抜き方、腕や脚の柔らかな動き、リラックスして動かすこと、など色々指摘されます。
武器だと思っていた動きを沢山直されるのは、初めはちょっとショックでした。
(これって違ったんだ…ガーン!)みたいな(笑)

自分のこの先の変化を楽しみにしたい

私は日本で長く研究し、仕事をしてきたので基礎力も経験値もそこそこあります。
しかし、それと同じくらい、変な癖もついていますし、今まで使っていた技術は日本でしか通用しなかったモノです。
それを変えるためにジュネーブに来たので、落ち込み、自信を無くしそうになりながらも、新しい自分にアップデートしたい、と思っています。
どこまでそれが出来るかわかりませんが…がんばりたいです。

身体の動きが変わったら、音も変わると思っています。
だって、関節の動き、筋肉の動き、力の使い方、空間の使い方…
身体の動きは、全て表現や音に繋がるのですから。

戦う相手は自分自身

日本では、同じ職場に同僚がいなかったので、先輩に囲まれて、いつも上を見て、前をみて、一生懸命走っていました。
「同級生や同僚と自分を比べる」という事がなかなか出来なかった環境は、私にとってはとても良い環境でした。
戦う相手はいつも自分と先輩。
先輩に勝てるわけはないのですが、挑もうとするエネルギーは「努力する」という行動にいつも変換されました。

今、年齢は違えど、久しぶりに同級生がいます。
一緒に授業を受けていると、つい、自分と比べて落ち込みます(笑)
でも、みんなはこの学校3年目とかです。
入学して2ヵ月の私は、それはそれは、まだ日本での癖がありますし、まして、その癖を使って15年位やってきたわけですから、比べること自体が間違いなのは十分わかっているのですが…

やっぱり、いつでも、どこでも、自分自身との戦いなのです。
いつ曲線が描けるようになるのか、世界に通用する技術を持てるようになるのか、全ては自分の努力次第ですが、「petit à petit (少しずつ)」でも、ちゃんと前に進んでいきたいです。

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