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沈黙が生まれるプロセス

この記事は2023/04/21に配信を行なったメルマガの転載です。

みなさん、こんにちは。
エスノグラファーの神谷俊です。

今日は気温が25度程度まで上がるとのことで、初夏の気配が感じられます。来週から連休がスタートする方も多いのではないでしょうか。

我が家でも、ちょっと長めの休みを予定しております。何をしようか?とアイデアを出し合っているところで、それを受けて子供が「りょこうのけいかく」というパンフレットを作成していました。

この「りょこうのけいかく」ですが、昨夜ちらっと見たところ、「あいすをたべる」が1日に5回くらいあるという……。どうなることやら?という懸念もありながら、楽しみな連休です。


沈黙が生まれるプロセス

さて、今回のテーマは「沈黙」です。
私が手掛けている案件を事例に、お話をしたいと思います。

最近、心理的安全性に注力する顧客企業で継続的に調査を進めています。その中で見えたことなどを少しだけ共有します(当然ながら、顧客企業のご担当者には了承を得ています)。

その企業では、コロナ禍以降、長い時間をかけて現場のコミュニケーションを調査しています。その1つに会議のモニタリングがあります。

モニタリングの中では、「沈黙」に注目して観察を進めています。

会議の生産性を停滞させる「沈黙」を定義し、その沈黙が生まれるまでの発話プロセスを調査するということを行っています。

すると、何が見えてきたのでしょうか?

興味深かったのは、「発話のベクトル」に関する調査結果です。

つまり、誰が誰に話しかけているのか?というベクトルです。発言が誰に向けられているかに注目して、発話ベクトルの分散を追いかけていくと、沈黙が生まれるときにはあるパターンがあることが分かりました。


有用なアイデアが沈黙を生む?

どのようなパターンが沈黙を生み出していたのでしょうか?

ベクトルの集中です。会議の中で、特定の人物に発話が集中すると、やがて沈黙が訪れやすいことが分かりました。具体的にどういう流れなのかを下記に挙げます。

例えば、次のような会話の流れです(誰に向けたコメントなのかを分かりやすくするために、発話ベクトルを ”→” で記述しています)。

  ― (略) ―

A「つまり、〇〇をしたいということ?」→X

X「そこまでは言っていないんですけど、実際そういうことかと」→A

B「でもさ、それだと〇〇なんじゃない?」→X

X「そのリスクはあると思います。でも、〇〇でなんとなかなりそうです」→B

C「でも、そのなんとかするためには〇〇だけじゃだめでしょう?」→X

X「そりゃ、まぁそうなんですけど……なんとかできないかなと」→C

A「じゃあ、他にどうすればいいと思う?」→X

X「やっぱ、もうちょっと考えます」→A

全員「……(沈黙)」


このような流れですね。

Xさんの発言に対して、周囲が問いを繰り返していく流れが見て取れます。問いに限らず(それがアドバイスであっても)、このように特定の人物に向けた発言が続くと、次第にその当事者(上記におけるX)は沈黙し、その沈黙を受けて場が鎮まることが多く見られました。

この状態そのものは問題とは言えないかもしれません。会議の中で、アジェンダに沿わない意見が提示されることもあるでしょう。そのような場合、たしなめることもあります。

当事者に場の目的を説明して、改めて仕切り直すために発言を一旦控えてもらうこともあると思います。皆さんの会社でも同様のことがあるかもしれません。

ただ、このケースは、そういった状況ではありませんでした。前提として、管理者が前期の「振り返り」をテーマに会議を開き、個々の問題意識を提示する場でした。

さらには、その中で発言したXさんの意見が、第三者の私から見ると非常に本質的でチーム内で考えるべきテーマであるように見えました。

Xさんは、しかるべき場で新規性が高く且つ有用な発言をした。それにも関わらず、沈黙が発生してしまった。これは問題視されます。

さらに、会議後のインタビューで分かったことですが、周囲のメンバーはXさんの発言に興味を持っていたということです。周囲は興味をもって質問していたんですね。

それにもかかわらず、沈黙が生まれた。これはいったいどういうことなのでしょうか。


「ターゲットにされた」という知覚

このケースを紐解くために、沈黙に関する研究を参照してみると、興味深い理論を見つけました。

この理論は「暗黙の発言理論 (implicit voice theory)」と呼ばれ、心理的安全性の権威であるエイミー・エドモンドソンが提示しました。

この理論によれば、沈黙が発生する際には、「特定の状況下において意見や提案を発言することは危険である」という暗黙的な知覚があるとされています。

エドモンドソンは、沈黙が生まれる際に発生する「暗黙的な知覚」を5つほど提示しています。

  1. ターゲット視されることへの懸念(Presumed target identification)→ 発言することで、他のメンバーから「ターゲット」にされて詰問されたり、発言に対する責任を迫られるのでは?という知覚

  2. エビデンス・代替案の不足 Need solid data or solutions (to speak up)→ 発言することで、エビデンスや計画が不足していると指摘されるのでは?もっと調査してから発言すべきと迫られるのでは?

  3. 上司を追い越すな (Don’t bypass the boss upward)→ 上司は自分の発言によって「管理者の仕事をとるな」と思い、私にネガティブな感情を持つのでは?

  4. 上司に恥をかかせるな (Don’t embarrass the boss in public)→ 上司はメンバーの前で核心に触れた発言をすると「恥をかかされた」と思い、私にネガティブな感情を持つのでは?

  5. 『失言』によるキャリアリスク (Negative career consequences of voice)→ この発言によって異動させられたり、良い仕事をもらえなくなることがあるのでは?


何か目新しい発言をする人に対して、私たちはつい質問を重ねてしまいます。これは、「エビデンス」を求める場合もあれば、「計画」を確認する場合もあるでしょう。

「もっと良く知りたい」という動機で質問することも多いと思います。良くも悪くも前のめりになってしまいますよね。

ただ大切なことは、それがどのような動機であっても、発言者に会話が集中し、その結果として発言者が「ターゲットにされている」「準備不足だった」という知覚を持てば、発言を引き出せなくなるリスクがあるということです。

もし皆さんが、多かれ少なかれリーダーの役割を担っているのであれば、会議のなかで良い意見が提示された時ほど、慎重になる必要があります。その「芽生え」をいかに育て、広げ、より豊かな場にしていくのか。吟味しながら振る舞いを調整していくことが大切です。

先週の動画メルマガでは、パースペクティブテイキングの話をしましたが、まさにあの視点が求められます。

相手の経験値や意見を提示した背景を踏まえること。そして、場の空気をどのように本人が感じているのかを想像してみること。そのうえで慎重かつ迅速に、言葉を選び、相手を選び、場が前に進む投げかけを行っていく。

このように、より知性的・愛他的な振る舞いで場を育てていく姿勢が求められます。

今回は、以上です。最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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