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「OO力」を考える

この記事は2023/10/13に配信を行なったメルマガの転載です。

皆さん、こんにちは。
株式会社エスノグラファーの神谷俊です。

寒暖差が大きいですね。子供が幼稚園から頂いてきた風邪にやられ、この2日ほど寝込んでいました。仕事もそこそこに忙しかったので、この2日のライムラグを病み上がりのコンディションで取り戻すのは、なかなかにしんどく……日々、免疫をつけておくことが大切なのだと思い知らされました。皆様も暖かくしてお過ごしください。

さて本日のテーマは、「OO力」です。

思考力・調整力・育成力・コミュ力・鈍感力など、ビジネスでは様々な「OO力」という表現が使われています。ただ、ときどき、「これは『OO力』と表現するのは適切じゃないのかも……」と思うこともあります。そんな「OO力」に関するお話です。


「対話力」はどうすれば高まるか?

最近、企業講演などで”「対話力」を磨くためにはどうすればいいですか?”という質問を度々受けることがあります。「どのような言い回しや会話構成をすれば(あるいは、それによって能力を磨けば)良い対話ができるのか教えてほしい」という質問です。

対話は多くの組織において不足している要素ですし、ビジネスをより良く進めるうえで根幹をなすものです。何とかして実践的なアドバイスを差し上げたいと思いつつ、いつも「どのように返答すべきか?」に少し悩んでしまいます。

私が思うに、対話とは対話者の間柄や関係性の影響を受けて成立するものです。複雑な相互作用のなかで生起するものであるために、「OOすればOK」とは言い難いのです。

例えば、互いに関心を持ち、理解しあう姿勢を持っていたとしても、うまく対話ができないことだってあります。私も先日「対話ができなかった」と感じたことがありました。ドイツ学園が主催するオクトーバーフェストに参加した際のことです。

売っている食べ物やドイツの方々の民族衣装がとても興味深かったので、根掘り葉掘り聞いてしまいました。彼らはとても気さくで、日本人の私たちにもっと知ってほしいとオープンに話してくれます。刺繍や柄によっても意味とパターンがあることや、そのような民族衣装が生まれた背景などは驚きの連続で、興味深く拝聴できました。

ただ、話をするなかで「着物にはどのような歴史があるのですか?」「あなたは日本の民族衣装についてどう思う?」と訊かれた際に言葉につまりました。「日本には四季があって、植物を愛でる文化がある。松竹梅や桜などをあしらうことがあって、色にも意味を持たせている。例えば、白・黒は…」まことに恥ずかしながら、これが精一杯でした。

もっと互いの国や宗教について、交流を深めることはできたのであろうと思います。ただ、私が日本のことを知らなさ過ぎた。知っていれば、もっと深い対話や価値観の違いを楽しむことができたのに、と感じています。

自分が根差している価値観や文化をどれだけ言語化できるかによっても、対話の質は異なるでしょう。例えば、「着物」の例のように自分のもっている価値観や考えを言語化できない状態で、対話に望めば早々に言葉を失ってしまいます。

「対話を豊かにできるようになる」という到達点に達するためには、このように他者や自分自身との複雑な相互作用があるわけです。

対話にはこのような複雑性がある。それを端的に「対話力」と表現してしまうと、大切ないくつかの要素が抜け落ちてしまうように感じます。

「OO力」に関する違和感

対話力を例に挙げましたが、このように「OO力」という”ラベル”を用いることで、本質が見えなくなってしまうことは意外と多いのかもしれません。例えば、行動力、想像力、精神力……などですね。いずれも「能力」としてしまうのは、ややアバウトな印象を持ちます。

「行動力」は、背景にどれほど強力な動機付けがあるかによって変わるものですし、「想像力」は本人の持っている知識や経験量によって変わるもの。「精神力」は、もはや何を示すものなのかが判然としません。

では、どうして「OO力」という言葉が浸透するのでしょう。
思いつくのは、2つの思考の癖です。

1つは、原因思考です。原因思考は、成功(A)の背景にはかならずその成功を最も良く説明する原因(B)があるだろうという推論(A→B)を意味します。この思考に過剰にとらわれると「Aができるためには、特定のBがあるに違いない」という思い込みを導いてしまう。

もう1つの癖は、能力主義です。物事をうまく遂行できるのは、それを達成に導く能力を備えているからだ。そのようなパラダイムで見てしまう。能力ばかりに注目すると、その背景にある経験や知識、価値観や態度などより詳細な資質が目に入りにくくなります。

このような思考の癖から、私たちはついつい「OO力」を求めてしまうのかもしれません。仕事をする際に、「OO力」「OOスキル」と呼ぶものを用いるときは、立ち止まって改めてその本質を考えたいものですね。

今回は、以上です。



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