ルールの“効き目”をもたらすもの
皆さん、こんにちは。
株式会社エスノグラファーの神谷俊です。
急に寒くなりましたね。私も先日、冬物のカーディガンと毛布を引っ張り出しました。今週末は衣替えしないといけませんね。
さて、今回のテーマは「ルールの効き目」についてです。最近、DE&Iやオンボーディング関連の案件に携わる中で、各社が新たにルールを構築する場面に立ち会う機会が増えました。そこで気づいたのは、ルールの解釈や実際の「効き目」が企業ごとに大きく異なることです。今回は、この「ルールの効き目」について考えてみたいと思います。
ルールの「効き目」の違い
今回取り上げたいのは「ルールに実効力を持たせるためにはどうすればいいか?」という問いです。ここでいう「ルール」は、就業規則のような明文化されたものだけでなく、コミュニケーションの決まりごとや職場の約束事、さらには企業のミッションやステートメントなども含んでいます。
「〇〇をしよう」「〇〇を目指そう」といった形で社員に対応や適応を促すものを、広い意味で「ルール」と捉えています。
興味深いのは、同じようなルールでもその実効性に差が生まれる点です。
例えば、どの企業でもDE&Iへの取り組みは進んでいますが、「社員一人ひとりの個性を尊重しよう」というルールが、単なるスローガンで終わる場合があります。社内のWEBページにルールは掲載され、役員からのメッセージも添えられていますが、日常業務では誰もそのルールに触れない。結局、何も変わらない職場が展開されていく。そんな企業は少なくありません。
一方で、ルールがしっかりと効き目を発揮している企業もあります。ルールの内容は同じでも、そこから勉強会や研修が企画され、社内メールで取り組み事例が共有される。社員に話を聞くと「うちの会社、変わり始めましたよ」と目を輝かせる。一部の推進力ある企業ではこのような光景を目にすることがあります。
この両者の違いはどこから生まれるのでしょうか? ルールの効き目はどのようにして作られるのでしょうか?
ちょっと日常を振り返って、ルールの効力について考えてみたいと思います。
子供の「ドヤ顔」に見るルールの要件
ルールの効き目を考える上で、子供たちの会話がとても参考になります。彼らはルールを守らない人を厳しく批判します。「いーけないんだー」と、ドヤ顔で警告してくるのです。
注目すべきは、子供たちの言い回しに垣間見られる「ルールを支持すべき理由付け」です。
「〇〇だからルールは守らなくてはいけない」
この〇〇に注目してみるとなかなか面白いものです。
「〇〇先生がダメって言ってたもん」「ママがダメって言ってたよ」といった具合に、権威者の言葉を持ち出してルールを正当化するパターン。「〇〇ちゃんが怪我しちゃった」という失敗事例を引き合いに出して説得するパターンもあります。そして「そんなことすると、地球の温暖化が進んじゃうよ」と、正論を添えてルールの重要性を論理的に説明することも(これは私の近所では、女子によく見られる)。
これらの言動を確認すると、ルールの効き目をもたらす「装置」が存在していることが分かります。
1:権威者の支持がある
:先生や親など、影響力を持つ人が公然とルールを支持している。
2:失敗・成功事例を知っている
:ルールを守らない結果、良くないことが起きた事例や、守った結果、良いことが起きた事例が共有されている。
3:ルールの意義・価値を知っている
:ルールを守ることで得られる社会的・個人的な利益について、教育が行われている。
上記は代表的なものに過ぎません。他にもきっとルールの効き目をもたらす「装置」はたくさんあるはず。
いずれにしても、ルールの効き目をもたらすものは、ルールの「外」にあることが分かります。
ルールの効き目はルールだけではつくれない
ここまで書いて思い出したのは、社会学者・塩原勉氏の言葉です。
彼は、ルールを「複合体」として捉えるべきだと述べています。
例えば、結婚には協力義務というルール(法律)がありますが、このルールの存在自体が夫婦の協力関係を築くわけではありません。
私たちは、法律で定められているから互いに協力しあっているわけではありません。むしろ、「ルールの存在は意識していなかった」という人の方が多いはずです。それはきっと多様な「装置」が機能し合い、ルールの効力をもたらしているからでしょう。
「装置」としては……
恋愛をして、デートを重ねて、交際期間を経たうえで結婚相手を吟味するという習慣や、互いの両親に会わせるという習慣、プロポーズや結婚式、指輪の交換という儀式、もっと遡るならば、私たちは「夫婦仲が良い家庭=良い家庭・幸せな家庭」という家族観も幼少期から教育されています。
このような様々な「装置」の積み重ねによって、ルールは機能する。その意味で「複合体として捉えるべき」なのでしょう。
ルールは制定された時点では、単なる虚構(fiction)に過ぎません。あるべき論であり、絵に描いた餅でしかない。それを現実社会にインストールしていくためには、そこで生活を営む多くの人間たちに働きかけ、気持ちを通わせ、リアルなイメージを共有していくことが求められます。
組織内のルールを実効性あるものにするためには、「装置」に注力すべきです。日常的なコミュニケーションや教育、成功・失敗の共有を通じて、皆がその意義を実感できる環境を整えることが大切です。
ルールが効いていないと感じたら、まずは「装置」に注目してみてください。
効き目をもたらす「装置」はいくつあるでしょうか?
不足しているのは、どのような「装置」でしょうか?
そんな風に考えてみると、一歩前に進む何かが見つかるかもしれません。
今回は、以上です。
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