自分の捉え方
この記事は2023/08/04に配信を行なったメルマガの転載です。
皆さんこんにちは。
株式会社エスノグラファーの神谷俊です。
暑い日が続きますね。「もうすぐお盆休み」という方も多いのではないでしょうか。我が家は恒例のキャンプに出かける予定だったのですが、急カーブを描いて迫ってくる台風に大慌てで予定を切り替えています。皆さんはいかがお過ごしでしょうか。
さて、今回のテーマは、自分の捉え方です。
先日、大学の授業に参加された学生さんから、就職活動に関するお悩みをいただきました。「自己PRや自己分析が苦手で、どのように自分を捉えれば良いか分からない」というお悩みでした。これを聞いて思い起こしたことがあったので、今日は学生たちにむけて自己概念に関する昔話をしたいと思います。
こじらせた学生時代
私がまだ大学生だった頃、自分のキャリアや進路に思い悩む時期がありました。
周囲が就職活動に備えて「自己分析」や「自己PR」を作成し、わりと簡単(なように見えていました)に「自分」というものを見つけ、表現していくなかで、私はそれがなかなか出来ませんでした。自分の基軸となっている価値観のようなものを「分かりやすくまとめる」ということができなかったんですね。
家族のなかでの自分。
サークルやアルバイトにおける自分。
研究や勉学における自分。
創作や自己表現における自分。
自分の関わるフィールドによって、立ち現れる「自分」は全てが異なる要素を持っているように感じていました。感情的になる自分、理性的な自分、子供のように好奇心全開な自分。それらの複数の自分を1つに束ねて表現することに違和感を覚えていたのです。
今思えば、所詮「自己PR」は、相手に自分をわかりやすく伝える手段に過ぎないのですから適当に「自分」をでっち上げて、要領よく振る舞えば良かったのだと思います。ただ当時の自分は、そのような複雑な自己を巧くまとめることが出来ない状態に対して、フラストレーションを抱えていました。
色々な自分がいるということは「確固たる自分がない」「自分を持っていない」ことのように感じていたからです。「本当の自分」が見えていなければ、「自分がやりたいこと」だって見つからないはず。そこに焦りを感じていたのです。
そして……、ちょっと “こじらせた” 私の自分探しの旅が始まりました。
「未知のフィールドに踏み込んだ時に、自分は何を感じるのだろう」
「初めての人と出会ったとき、どのような自分が立ち現れるのだろう」
自分に関する実験・観察・検証、ですね。それをさまざまに試してみたくなりました。なかなか過酷な旅だったと思います。開発途上国にバックパッカーとして乗り込んだり、北極圏の極寒の中で犬ぞり生活を体験してみたり、世界のあらゆる場所に足を運んでみました。
それでも「確固たる自分」のようなものは何ら見えてこなかったのです。
和尚の説教
自分探しの旅はどう終わったのか?
終点は、京都にありました。
帰国後、モヤモヤとしていた気持ちを落ち着けようと思い、京都の寺社巡りをしていたときのことです。ある禅寺を訪れたときに、そこの和尚さんから声をかけられました。お寺の縁側で、借景のきれいなお庭を見ながら、私は“こじらせている”自分について話しました。
和尚さんは言いました。
「あなたのなかに『確固たる自分』がないと、だめなのでしょうか?」
そのお寺には、「自小」という掛け軸があり、それについて和尚さんは話してくれました。
「出会う人や、出会う世界の中で、新しい自分をたくさん見つけていくのが生きるということです。そこに一貫性なんてなくていい。人に語るためにあなたの人生があるのではない。よりたくさんの自分を見つけるために、人生はあります」
「蛙は小さい。でも、池に飛び込んだ時の波紋の広がりはとても大きい。自分の小ささにこだわらずに大きく仕掛ければ、その影響の広がりに「あなた」が現れる」
自分にこだわらないことで、自分が拡がっていく。そのようなお説教でした。最後の蛙の話だけ、ちょっと「ん?」と思いましたが、この話がきっかけで自分なりの納得のようなものを得て、自宅に戻りました。
いろいろな自分を探す
就職活動で自己PRを求められると、水を得た魚のように雄弁に語りだす自分がいました。
面接では、未知との関わりのなかで立ち現れる「自分」とその可能性について語りました。
広い世界のなかで少しずつ多様な「自分」が増え、その度に自己認識が拡張していくこと。
それが自分らしいと感じていることを力説したのです。
面接官は首を傾げるか、ポカーンとするかでしたが(苦笑)
私なりの納得はしていました。
多様な自己を受け入れることの重要性については、様々な概念で語られていることを後になって知ります。
・ビギナーズマインド
・アマチュアリズム
・多面的自己水準
・社会的アイデンティティ
・分人主義
リーダーシップ論やクリエイティビティの研究でも、self-awarenessやself-conceptといった概念で自分の捉え方の重要性がよく語られていますね。
自分らしく生きるために、自分へのこだわりや固執を捨るということ。これは矛盾して聞こえるかもしれませんが、これこそが社会的な動物と言われる人間の本質なのかもしれません。
いまから夏のインターンシップに参加する学生も多いのではないでしょうか。
学生の皆さんは、企業から「あなたはどういう人間ですか?」と聞かれ、戸惑うこともあると思います。でも、それは健全な戸惑いであると思うし、思い悩むのが自然なのだと私は思います。
1年にも満たない時間の中で見つけ、意味づけられてしまう「自分」を本当の自分と思い込まないことが大切なのかもしれません。そんなに簡単に見つけられるほど、あなたの存在価値や可能性は小さくはないはずです。
自分という存在については、これから多くの機会でその可能性を試しながら、考え続けて欲しいなと思っています。考え続けて、探し続ける姿勢を持つことは、今後の職業人生をより豊かにしていくことにつながります。
皆さんなりの「自分探しの旅」を応援しています。
今回は、以上です。
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