ベランダの青
困難な仕事を終え、私は小さな町に辿り着いた。大陸の奥深く、バスの乗り継ぎ地点だった。町には友人が暮らしていて、からだを休める宿を手配してくれた。
宿主はまだ20~30代の若い男性だが、日本で働いた経験があり、その金でささやかな宿を開いていた。
荷物を置いて、私は路上に出た。乾いた荒野にこんもりと緑を宿す町はオアシスのように、深い安息をもたらした。
露店でペンダントを買った。楕円の珠を、ふたつの珠がはさんでいる。その紋様から、何か宗教的な意味合いがあるように感じる。瘦せた喉元のくぼみに、素朴な赤を帯びたペンダントはやわらかく映えた。
宿主は日本を振り返って言った。女性は美しい。でも、こころは汚れている。
熟睡し、爽やかに目覚めた。宿主はトーストに卵、ミルクティーを用意してくれた。こんな朝は久しくなかった。
レンガ造りの階段を上り、私は屋上のベランダに座った。そこは、何もかもが鮮やかな青にペイントされていた。空も抜けるように青い。人々のざわめき、鳥や風のざわめき。
張られた紐に、白いブラジャーがひとつ、風に揺れていた。まだ熱いミルクティーを胃に落とし、私は果てしない大気を胸いっぱいに吸った。
そうだよな
そういうことだよな
階段を上がってきた女性が、乾いたブラジャーを紐から剝がし、モンゴロイドを尻目に階段を降りた。
白は失われ、青が残った。