宗旨変え
米国のブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)が上昇しています。5年で2.6%、10年で2.4%です。FEDの長期的なインフレ目標は2%なので、今後5年間、10年間の平均インフレ率よりも高いインフレ率を市場は見込んでいることになります。
ブレーク・イーブン・インフレ率とは、満期まで同じ期間の名目債とインフレ連動債に投資するなら、どちらがお得か、その分かれ目となるインフレ率は何%か、と言うものです。10年債(5/4現在)で考えると、名目10年債の利回りは1.61%に対して、10年物価連動債の利回りは-0.81%です。物価連動債に投資する人は、今後10年間の平均的なインフレ率が1.61+0.81%=2.42%以上にならなければ、リターンは名目債に負けることになります。だから2.42%が勝負の分かれ目、ブレーク・イーブンです。逆に名目債に投資する人は今後10年間の平均的なインフレ率が2.42%に届かないと思っているから、名目債に投資することになります。
このようにBEIは実際の投資効率に直結する部分と、市場のインフレ期待を推測する部分があります。
BEIの上昇から推測できること
チャートを見ると、大統領選挙でバイデン候補の優勢が伝えられたあたりから(2020年11月)、BEIの上昇がスタートしました。BEI5年は1.5%が2.6%へ、BEI10年は1.6%が2.4%へそれぞれ上がっています。また今年に入ってからは、今後5年間のインフレ率の方が今後10年間よりも高くなる、と言う予想に市場が変化したことがわかります。インフレを警戒するなら、今後の10年ではなく、これからの5年でと言うのが市場のコンセンサスになってきています。
とはいえ2.6%のインフレ率。繰り返しですがFEDのインフレ目標は2%。景気回復が力強さを増してきているとはいえ、労働市場に戻ってきた失業者はまだまだ少ないため、テーパリングは時期尚早、と言うのがFEDのコンセンサス。
そんな折にイエレン前FRB議長で現職財務長官からこのコメント。GDPの10%にも届きそうな景気対策を何度も打っているのだから、アメリカの政策担当者はむしろインフレギャップに注意すべきでしょう。適切なタイミングで金融引き締めアドバルーン気球を揚げてゆくかつてのスタイルはもはや消滅し、最近は事が起こってから動き出すスタイル。宗旨変えしたのはイエレンさんではなく、FRBだと思います。