重症脳梗塞からの回復記3ー階段についてのつづき
なぜ階段を登る生活をする?
前回書いたように、我が家はリビングや夫の部屋が二階にあるので、日常に階段の上り下りが入っております。2月に階段を降りられなくなって大騒ぎしましたが、でも、どうにか無事にまた上り下りができるようになりました。
そんな大変な思いをして、どうして2階にいるの?と尋ねたくなる方もいらっしゃると思います。それ、私も理解できます。
私たちは、前にも書いたように、できることはできるだけそのままやろうと思っていただけでした。逆に、他の人はどうしてるんだろう?と思って、訪問リハのMさんとケアマネさんがきてくれた時に聞いてみました。
退院するときの病院指導
Mさんやケアマネさんがおっしゃるところによると、そもそも退院するときに、できるだけ部屋は一階で、玄関からの段差をなくして、スムースに車椅子を通せるようにという指導を受けるのが一般的だそうです。
それを聞いて、あぁ、そうなのか。と思いながら14年前のことを思い起こしていました。そういえば「車椅子」のこととか、病院の人たちは言ってました。でも、その頃、うちの夫は4点杖をついて、装具をつけて、歩けるようになっていたので、車椅子を使う生活にしてしまったら、歩けなくなっちゃうんじゃないの?というのが私の予感でした。
今できていることを、あえて後退させる必要ないんじゃないの?と。
車椅子は買わずに退院した
という考え方だったので、車椅子を買わずに退院しました。というと、病状自体がたいしたことなかったと思われるかもしれませんが、胸部大動脈乖離からの心原性の頸部脳梗塞なので、きわめて症状は重度です。左脳がほぼなくなったように見えるくらいに真っ黒でした。最初の状況だと、減圧手術で「命をつなぐことはできるけど、人間としての生活はできない」、みたいな感じでしたし、失語症でなにも理解できなくなるし、寝たきりで細胞が壊死して数年後には命に影響する、と言われていました。この辺については、あとでもう少し詳しく書いてみようと思います。でも、結果的に3ヶ月ほどリハビリ病院でリハビリをしたあとは、とにかく歩けるようになってました。
歩けるんだったら、車椅子いらないね、と私は思いました。疲れて座りたくなるかもしれないから、椅子をたくさんおいとけばいいじゃん?という、けっこう楽観的な感じで、いや、楽観的にしても度が過ぎると思われていたようです。
絶対に車椅子は必要ですよ、という提案はたくさんいただきました。実際病室にいた時は車椅子を使っていました。でも、幸いなことにとにかく辛うじて歩けていたので、車椅子は使うことなく退院しました(そういえば、信じられない!といわれちゃってたっけ)。自宅に戻ってしばらくは一階で寝泊まりしていたものの、先日も書いたように(重症脳梗塞からの回復記2をみてね)、あるとき一人で階段を登って2階にきた、という事件を起こして以来、二階エリアも生活範囲に入るようになりました。
つまりは、バリア・アリー
今思うと、ですが、私たちはわりと「バリア・アリー」的な考え方だったように思います。バリアフリーは大事ですが、それだと安全は保証されるけど、日常の中のちょっとしたチャレンジがなくなっちゃう。今できることよりほんの少し負荷をかけること、それによって少しずついい方向に改善してきたように思います。たしかに年齢から来る衰えとか、あと時々ひょんなことから転んでしまったりとか、その度にいろいろありましたが、ただ、案外人間って丈夫なもので、転んでも今の病院のリハビリ体制だとすぐにリハビリしてくれるし、けっこう復活するんだなというのも実感です。だから、転ばないように、転ばないようにと先回りして行動を萎縮させるより、転んだらもうあきらめて病院に行ってやり直し!的な感じで、ちょっとした覚悟で家族が夫に向き合っていたということになるかもしれません。その結果、何はともあれ、今は自力歩行で割合に普通に生活ができている感じなのです。
家族にも負荷がかかるから話は簡単ではない
こういう話をケアマネさんとかリハスタッフのMさんとしていたとき、「それね、ほんとにそうなんですけどね」とケアマネさんが話を切り出しました。
「どうしても、病院で最初から、無理させるな、転ばせるな、一階で生活するように、というふうに指導するんですよ。そうするとご家族の方もそういうもんだと思うし、病気になった本人も、周りに迷惑かけてしまうからと思うと、自分の部屋に行きたくても言い出せなくなるんです」
「手をかけられるようにと、居間に介護ベッド置いてそこで面倒を見るという形も多いんですよ。本人はそれが嫌でも言えないんですよね」
「結局、本人も家族もあきらめちゃうんですよ」
あぁ、なるほど、そうか。でもわかりますね、これも。
家族にとても負担はかかるという考え方もわかります。
何が幸せなのかといつも迷いつつ
誰もが大病になるのはできれば避けたいのが普通と思います。が、その病を得てしまった後にどうするのか、は、それまでの家族関係とか考え方も影響するのかもしれませんね。
できるだけ転ばないように、と退院した本人の負荷を取り除く方向で考えるのは、間違いなく正解の一つです。ただ、うちは、それだと自分の部屋にも戻れなくて、それまで家の中で過ごしてきた自分の世界に戻れないな、と思ったし、本人も家族もそれは避けたいと思ったから、あえて階段を上る生活を続けた、という感じでしょうか。これが正しいのだというつもりはないです。が、うちの家族的には間違ってるとも思わない。
その家族、その本人、それぞれの病気との向き合い方があるんじゃないのかなというのを、今はいろいろ考えたりしています。
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