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重症脳梗塞からの回復記7ーリハビリセンターにて

リハビリセンターでの時間

今、私は夫のリハビリに付き合って、リハビリセンターに来ています。ここは高齢の方や病後のリハビリを頑張ろうという方たちがきていて、だいたい2時間ほどの間に、みんなで運動をしたり、個別の体のマッサージをしたり、「エスカルゴ」という足を回す道具で脚力の支えを強くしたり、いろんなパワーリハビリ用のマシンを適宜使ったりしています。毎週同じ曜日に通うのですが、ほぼメンバーは固定していて、だいたい20人ほどの方たちと顔馴染みになりました。

とはいっても、夫は失語症のために相手の言うことはわかりますが、自分から言葉で説明するのが難しいので、過保護な私はどうしても心配で保護者のようについてきています。が、実際に運動をする場にはもちろん一人で行くので、私はみなさんが控室として使っているスペースで、自分の仕事をしながら待っています。

私の夫はもとがポジティブなのか、とにかくよく笑います。今も向こうのほうで、個別マッサージを受けている夫の明るい笑い声が大きく響き渡っているのを聞きながら、これを書いています。マッサージを受けながら、なんで笑ってるんだろう?と思ったら、スタッフがいろんなことを語りかけてくれて、それで笑っていたようです。とても楽しそうで、こちらも気持ちが明るくなります。気のせいか、リハビリ会場全体を明るくしているようにも感じます。

目標パーソンを見つけること大事


ここに通い始めてから、もう一年くらいがすぎました。なんとなく、ここに通ってらっしゃる人たちを眺めるようになりました。デイサービスとしてリハビリを提供している施設なので、全体に年配の方が多いのは、普通なんだろうなと思います。女性の方たちは、ここでの仲間ができるようで、リハビリとリハビリの間の休憩時間に、楽しそうにおしゃべりしています。男性は、マイペースな方が多いイメージ。それぞれ、好きなように新聞を読んだり、言葉のリハビリプリントを黙々とやっていたり、あるいは、じぃーっと瞑想されておられる方もいます。だいたい座る場所がみなさん固定されてきますが、近くに女性がいると男性もその話の輪に入りやすいようです。女性の方がコミュニケーション力が高いのでしょうか?

ここに通い始めた頃、中に一人、毅然としていつも一人でおられる女性が目を引きました。もう90歳を越しておられるそうなのですが、キリッとした雰囲気で、パワーリハビリマシンもシャカシャカと軽くこなされてます。休み時間には、あまりおしゃべりに加わることないのですが、新聞や雑誌を隅から隅まで読みながら、過ごされています。その雰囲気たるや、とても自立心に満ちていて、一種の迫力があり、すごいなぁとすっかり感心してしまいます。このようにして、90歳をすぎても元気よくリハビリを楽しんでおられる方を間近に見ることは、私たちにとってもとても有意義と思います。なんか、目標になる感じ。

スタッフの姿勢がありがたい

夫は体が自由にならないので、スタッフの方たちには、ほんとにお手数をおかけしています。右半身の麻痺があるので、特に手はほぼ動きません。だからみんなで一緒に行う体操の時も、スタッフの方々は夫に特別手と目をかけてくださるようです。ありがたいことです。夫は夫なりに一生懸命やっています。彼は発言することがほぼできないのですが、スタッフのみなさんがどんどん声をかけて、いろんな質問をして、夫の気持ちを聞き出してくれます。質問に対して彼はYes, or No, (つまり肯定か否定か)で答えます。これはもう、ほんとにほんとにありがたい。表出に障害があっても、物事を理解して意志のある一人の人間としてみてくれるスタッフさんたちには、とても温かさを感じます。
話せない人間は、いないと同じ、という扱いを受けることも、ないわけではありません。「話すことはちょっと難しくても、こっちの言うことわかってくれるからいいですよね」という言葉がどれほどありがたいか。どれほど夫と私たち家族を支えてくれるか。夫はこうしたさりげない言葉にものすごく励まされているのだと思います。

かといって、スタッフさんたちは甘やかしてばかりではありません。夫がサボりたくなったり、ちょっと疲れたりして、逃げ腰になると、ちょっとだけ厳しく、ちゃんと先に引っ張っていってくれます。次にどのような動作ができるようになるのか、先を見越して今を指導してくれているようです。

手足が動くようになることだけが回復ではない

他の人より動作ができなくても、こういう場に来て、皆さんと一緒に手足を動かして、コミュニケーションをとり、笑いながら過ごせるのはとても大切なひとときです。夫も、リハビリに出る日は、朝から自分で髭を剃り、身なりを整えて、時間を待ちます。その姿は可愛いと思えるくらいです。

病気になる前の夫は、本当に仕事一筋人間でした。気難しく、仕事のことしか頭にないため、よく家族の時間もギクシャクしました。だから、仮に彼が最後まで自分の仕事を全うしたとしても、退職したその後はどうなっただろう?と、思うときがあります。このように、皆さんのサポートに感謝しながら、朗らかに笑いながら、日々をすごせただろうか?と。もしかしたら、それ、難しかったかも。

こういう不自由な体になったからこそ、多くの人に助けられ、感謝の思いに溢れた日常になったんじゃないかと思うのです。今日も、「ここにくると、顔がいきいきしてるよね!週一回しか来ないの、もったいないよ!!」と、仲間の女性に声をかけてもらっていました♪ こういうコミュニケーションも、手足を動かす以上に、夫にとっては大切なのだと思っています。

リハビリとか、回復するということって、手足がより動くとか、体の機能が向上するということだけではない気がします。それによって、心が生き生きとなっていくことの方が大事なのではないでしょうか。生きる「気」みたいなものがふつふつと湧いてくること。前を向こうと思えること。それこそが、ほんとの回復への道ではないかと思うのです。