カズオ・イシグロが映画『生きる LIVING』に込めた希望とは
黒澤明監督の映画『生きる』(1952年・日本公開)で描かれたそんな人生観に、ノーベル文学賞作家カズオ・イシグロ氏は魅力を感じていました。そして2022年、イシグロ氏の脚本により新たな命が吹き込まれ、リメイク版が完成。映画『生きる LIVING』として現在劇場で公開中です。
https://www.youtube.com/watch?v=U7t0IMh7kjY
黒澤側は当初、リメイク版の制作に難色を示していたそうです。イシグロ氏が脚本を担当することに興味を持ちました。しかし、書面では不十分だとされ、最終的にはイシグロが自らこんなビデオを撮って送る必要があったと、プロデューサーのスティーブン・ウーリー氏が楽しそうに振り返っています。
イシグロ氏の自宅の台所で自ら撮影した、3,4分の短いビデオだったそうです。「ノーベル賞作家が台所で自撮り」とは、映画以上に観てみたい動画ですね。
映画『生きる』は、医師から余命半年であること伝えられた公務員の主人公が、これまでの人生を見つめなおしてゆくというストーリーです。
自分の生涯とはいったい何だったのかと、茫然自失となっていた主人公。そんな時、転職しようとしている部下の女子職員と街でばったりと出逢います。明るく、バイタリティに溢れる彼女と言葉を交わし、時間を共にしているうちに、充実した人生を今からでもつかめるのではないかと主人公は思い立ちます。そして、それまでたらい回しにしていた「公園造り」に自らの余生を懸けていきます。
原作は1950年代後半、戦後復興間もない日本が舞台。リメイク版はほぼ同時期のイギリスが舞台になっています。リメイク版は原作にとても忠実で、物語の流れもあまり変わりません。
他方、イシグロ氏の脚本には、将来への希望を見出す仕掛けが成されていたように感じました。主人公の思いが、次の世代に引き継がれていくかもしれない、という希望です。
主人公のウィリアムズのもとで働き始めた若い職員ピーターへ遺した手紙の一部を、イシグロ氏の脚本の中から紹介します。
(*) muster
〔勇気・やる気・元気を〕奮い起こす、喚起する
(*) part and parcel of
本質的な部分、要点
(*)threaten
脅威を与える、(…し)そうである
…
(*) reduce
(人を困った状態)陥らせる
(*) urge
強調する
(*) recall
思い出す
(*) playground
遊び場、公園
(*) modest
慎み深く派手でない、ささやかな
(*) the modest satisfaction that became our due upon its completion.
完成したときのささやかな満足感
「ささやかな満足感」とはどのようなものなのでしょうか。リメイク版はそのことをよりわかりやすく伝えていると感じました。
黒澤監督『生きる』をご覧になったことがない方でも、リメイク版は一つのイギリス映画として、じっくりと味わっていただけると思います。カズオ・イシグロ氏執筆の台本も読むことができます。(下記リンクより)
※映画『生きる LIVING』公式サイト (リメイク版)
※映画『生きる LIVING』脚本 カズオ・イシグロ氏 著
https://www.sonyclassics.com/assets/screenplays/living/living-screenplay.pdf
原作の黒澤監督『生きる』はAmazon Primeなどで試聴できます。どちらもお薦めの映画です。
※黒澤明監督 映画『生きる』(原作版)
(*) 参照リンク
‘Living’ team talk Bill Nighy, positivity and how they nabbed ‘Ikiru’ rights
(SCREEN DAILY、2022年12月20日)
(購読には登録(記事5本まで無料)が必要です。)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?