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スケアリーストーリーズ 怖い本

児童文学として売り上げ部数700万部を誇りながらアメリカ全土の小学校から蔵書禁止を喰らったいわく付きの原作を、『シェイプ・オブ・ウォーター』のギレルモ・デル・トロ監督の企画制作(監督はアンドレ・ウーブレダルさんです。)で映画化したジュブナイル・ホラー映画『スケアリーストーリーズ 怖い本』の感想です。

えーと、まず、原作が人気というのがあるんですけど、アルヴィン・シュワルツさんという人が1981年から1991年にかけて発表した児童ホラー小説なんですね。アメリカ全土にある児童向けの怖い話を集めた短編集で。ただ、児童書と言いながら、その意外な残酷さ(そこからくるトラウマ度)が問題となり、全米の小学校から蔵書禁止を受けていたっていう本なんです(その一因として挿絵の恐ろしさというのがあったらしいんですが。)。でも、子供って残酷なもの(やトラウマになりそうなもの)って好きじゃないですか(僕も小学生の頃には、本気で怖いと思いながら、楳図かずお先生や日野日出志先生の漫画とか、都市伝説的な本、世界の怪物図鑑なんかを読み漁ってましたしね。)。つまり、原作は、そういう親に止められても読みたくなる様な、子供にとってのリアルな怖さのある本だったってことなんですね。

それで、このバラバラの短編をひとつのストーリーとして纏める為に、舞台を1968年(『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』公開の年ですね。劇中でもドライブインシアターで観るシーンがあります。)にして、本好きの少女ステラとその友達の男子オギーとチャックを中心にして、いじめっ子のトミー、チャックのお姉ちゃんのルース、移民の子のラモンなんかを絡めた『グーニーズ』的ジュブナイル物にしてるんですけど、その子供たちが街はずれの古い洋館に行ってそこである本をみつけるんです。で、その本に書かれた内容が現実に子供たちの身に降りかかっていくという(そのエピソードのひとつひとつが原作の短編から引用されてるんですね。)。つまり、映画全体の設定としては80年代ホラーやスプラッターでよくあった(というか、これ、若者設定が子供になってるだけで、古い洋館の呪いの書の封印を解くことで、そこにいた若者が順番に呪われて行くって『死霊のはらわた』ですよね。だから、そういう)話なんですね(つまり、『グーニーズ』設定で『死霊のはらわた』をやってるわけで。なんていうんですか、そりゃ、面白いんですよ。)。

でですね、更に、その洋館で見つけた本というのが、そこに昔住んでいたサラという少女(当時)が書いたものだって分かってくるんですけど、そうすると更に時代が遡って、ちょっとゴシックとかオカルト的な雰囲気も出てくるんですね。これ、80年代的ホラーテイストとゴシックでオカルトな雰囲気が混在してるって言ったら『シャイニング』じゃないですか(本の作者が精神的に追い詰められているっていうのも『シャイニング』的ですし。)。後半はそういう雰囲気もあったりするんです。あの、だから、ベトナム戦争への反戦運動や、キング牧師暗殺による人種暴動なんかがあったりした1968年ていう不安定な時代を舞台にして(ていうか、正しく『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』がそういう時代の移り変わりに翻弄される人々を描いた作品だと言われていますしね。)、そこに80年代的ホラー・スプラッター味を入れて、更にゴシック・オカルトテイストまでを加えた様な、つまり、好きなホラー全部入れちゃえ的なエンタメ精神の高い映画なんだとは思うんです。でも、普通これだけテンコ盛りにしたら要素が多過ぎて胸やけしてくるもんなんですよ。なんですけど、この映画、そのバランスの取り方がめちゃくちゃ上手いと思うんですよね。凄いスッキリしてて、適度に怖いし、適度にカワイイし、適度にポップで適度に狂気なんです。で、それは、そういうことを盛り込みつつも見せたいところがブレてないからだと思うんですね。

はい、では、それが何なのかというと、"子供にトラウマを与える"ってことです。凄いマジメに子供が感じる恐怖(=不安)と向き合ってると思うんですよ。子供の感受性で感じる恐怖っていうのに特化してると言うか。それがある種のポップさにもなっていて、更に大人目線で見た時の懐かしさにもなってると思うんです。子供目線で世界を見た時の恐怖のビジュアル化なんだと思うんですけど、この映画(ここ、重要です。)、出て来るバケモノが全部CGじゃなくて着ぐるみなんですよね。この実在感と言うか、想像してたことが現実になっちゃった感。自分が存在する現実の世界とあっち側の世界が交じり合ってしまった様な不安感、悪夢っぽさ。「ああ、子供の時こういうのすっごい怖かったな〜。」っていうあの感じ。これ、たぶん子供視点で見たらめちゃくちゃ怖いと思うんですけど、同時に、大人から見たら懐かしくてちょっとカワイイんです(80年代ホラー感ですね。)。

で、その上で原作から選ばれてるエピソードが語られるんですけど、それも絶妙で、例えば、自分の不甲斐なさとかダサさの身代わりとして悪態ついてた案山子に襲われるとか、家族がみんな出掛けてひとりで食べてた夕食のスープに知らない誰かの足指が入ってるとか、思春期に最も気になる顔に出来た吹出物から蜘蛛の子が大量発生するとか、母親の愛情のウザさを顕在化させた様なビジュアルの何者かに追い詰められるとか(あと、その全ての悪いことが全部自分のせいなんじゃないかっていう恐怖ね。)。こういうのを、ちょっとやり過ぎなんじゃ…ってくらいのビジュアルで見せてくるんですよ。誰でも思い当たるくらいの怖い話というか、あの夢で見た化け物が現実に現れたらっていう、抱いてた不安が現実になっちゃったらどうしようっていう、そういう怖さなんですよね。だから、ホントに子供向けに作られたホラーなんですけど、それを本気で(舐めずに)作ってくれてるので、大人になった今見ると、あの頃観たホラー映画に感じた「あああ、もう今日の夜トイレ行けない。」っていう感覚が呼び起こされるんです(だから、個人的には『it』とか『ストレンジャーシングス』なんかよりも、ダイレクトに『グーニーズ』や『死霊のはらわた』や『バタリアン』なんかを感じたんです。あの頃の、子供が観ることを前提としてても恐怖の表現に手を抜いてなかった映画に。)、それがね、非常に良かったんですよね。

で、更に更に、その化け物を作り出した張本人のサラを追い詰めていたものが何だったのかってことを考えると。子供の感じる恐怖っていうのの根源がこの世界にあるってことの怖さまでを見せちゃってて、ほんとに誠実な映画だなと思いました。


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【映画感想】とまどいと偏見 / カシマエスヒロ
サポート頂けますと誰かの為に書いているという意識が芽生えますので、よりおもしろ度が増すかと。