ピノノリ
ピノが好きだ。
いや小説「ピノ」の冒頭か。
何それっぽい書き出し方してるんだよ。
そうだ、僕はピノが好きだ。
記憶喪失になったとしてもピノを食べた時に全ての記憶を取り戻すきっかけになるんじゃないかってぐらい好きだ。
冷凍庫を何気なく開けた時にピノがあると「お、ピノあんじゃん!」とわざわざ声に出す。
パルムも好きだ。好きなアイスはパ行が多い。
さて、話は学生時代に遡る。
ピノの過去編だ。
決して僕の過去編ではなく、あくまでピノの過去編だ。
僕は昔からピノが好きだった。
バイト代に余裕がある時は毎日のようにピノを買っていた。
1箱に6粒入りの、スタンダードなピノを買う。
周りからはたまに「ピノ崎」と呼ばれていた。
僕も調子が良い時は語尾が「ピノ」だった。
「それは違うピノ〜」とか言ってた。
語尾ピノのくせに否定すんのかい。
ある時、僕がいつものようにピノを買い、友達と話していると、
1人の友達が「ピノ1個ちょうだい」と言った。
立て続けに別の友達が「俺も食いたい」と言って食べた。
3人目、4人目、5人目と「俺も俺も」と囲まれた。
そしてなんと6人目までもが「ラス1もらい!!」と言って食べた。
僕のピノは1ターンで全滅した。
ドラゴンブレスとかそういうレベルの全体攻撃だった。
僕は1粒も食べずにその日のピノを終えた。
まず1人目に言いたい。
お前はまぁ、良い。良いというか、別に分けることはなんとも思ってない。むしろそれはお互い様というか、シェアできればいいと思ってる。
でもできれば2人の時とかにやれ。
7人で遊んでる時にピノ欲しがんな。
お前が切り開いた道に後から続々続いてるから。まぁでもやっぱり最初に踏み込んだ勇気、これは友達として誇りに思う。
この勇気はお笑いにも通ずる。
で、2人目。お前はやばい。お前やばいから。パイオニアの度胸がないくせに、これいけるんだっていうのを確信してから動くずるさ。
「お前ってそうやって生きてくんだろうな!!ずっと2番手のチキン野郎が!!こいつの後ろに隠れてろバカ!!!」って直接言ったし。
まさかピノ1粒もらっただけでこんなにも力強く批判されるとは思ってもいなかっただろうけど。あの時はごめんな。
今ではちゃんとリーダーとして仕事も頑張ってるもんな。本当ごめん。でも当時の2連続ピノはきついから。
次、3人目、4人目、5人目。
海で周りをグルグル回るサメかと思ったよ。
怖すぎ。ピノに伸ばす「俺も」「俺も」「俺も」の手、怖すぎ。
マッドハンドの群れか。もう批判する暇もなくピノがなくなっていったけど、論外だからなお前らは。
2番目みたいに批判もされないから。
「お前らやば(笑)」しか言わなかったしな。
もう僕は無力で、ただただピノがなくなっていくのを前に立ち尽くすしかなかったよ。
なんとか振り絞って「おーい(笑)あと1粒ーーー!!(笑)」って言ってて。
そしたら6人目が「ラス1もらい!!」
「ラス1もらい!!」じゃねぇよ!!!!!
その1粒は実質6粒だから。
お前が全てだから。
ピノって6粒あるけど最後の1粒のことを「ピノ」って言うからね。
いるんだよ、インテリな戦い方するやつが。
そういやこいつは、たけのこニョッキでもギリギリのところで抜けるのうまかった。
1ニョッキや2ニョッキの時は静かにじっとしてて、かぶったやつらが脱落していくのを見ているタイプだった。
ラス1もらうところで「いやこれはさすがにダメだ」なんて言ったらダサいのはこっちになるっていうのも全部計算済みだったに違いない。
そうやって、ある時突然できたのがこの、
ピノノリだ。
オリジナルの造語のわりに、自分でもピンときてないが、まぁいい。
このピノノリはなんでか知らないがそいつらの中で「おもしろい」と認定された。
しばらくピノノリは続いた。
「何がおもしろいんだよ!!!」「なんで俺毎回ピノ食われるんだよ!!!」「今月のピノ費のせいで家計簿赤字だぞ!!!」などと言いつづけていたけど、
毎回ちゃんとピノを1箱用意する僕。
しかも7人揃うことは珍しいので、例えば僕も入れて6人の時は誰かが2粒いくという、ちゃんと僕が食べられないシステムが作られていた。
「こいつ2粒ってひどいな!!」「いや俺0粒だよ!!」
これがピノノリだ。
他のことで僕がふざけんなって思うことはなかったけど、このピノノリだけは毎回心の底から最上級にふざけんなと思っていた。
時は経過し、大人になった頃。
ピノのパーティーアソートというモンスターな商品が発売された。
僕にとっては夢のような商品。
今でも定期的に購入して、好きな時に好きなだけピノを食べている。
だけどなんだろうな。
もう僕のピノがなくなることはない。
さみしい。
ここにきて、ピノノリロスが発生している。
あの時ふざけんなと思っていたピノノリ。
大人になって初めて気づいたピノノリの大切さ。
「誰か僕のピノを奪ってくれないか?」
そんなことを思いながら、今日も僕は、
パナップを食べる。