ワールドを作るとき、序盤に考えること: 第2回 1weekWC の場合
この記事では、私がワールドを作るときに考えたことを、第2回1weekWC で作成したワールドを題材に少し書いてみようと思います。ここでは、技術的な話題は基本的には抜きにして、基本的な構成や設定について考えた部分についてのみ書いていく予定です。
1weekWC は、VRChat 内のワールドクリエイターの方々が1週間でワールドを作って、その後は交流会ということで、お互いのワールドを一緒に見て回るという tiwa さんの主催しているとても楽しいイベントです。
先週、2021/11/22~11/29 に第2回 1weekWC が行われました。テーマは、「小さな世界の停車駅」です。 #1weekWC というハッシュタグ で twitter を検索すると色んなワールドクリエイターの「小さな世界の停車駅」を見ることができますよ。
柱の街
このイベントで私は、「柱の街」という名前のワールドを作成しました。
3本の柱に建築された居住区です。各町は巨大なワイヤーの上に作られた線路でつながっており、それぞれに駅が用意されています。
3本の柱しかない「小さな世界」。その停車駅からワールドは始まります。
ワールドを作るときに最初にすること
ワールドを作り始める時に考えることは色々あります。ふと思いついたネタを作りたい場合とか、前から試したかった技術的な実験が、私は多いですね。
どちらにせよ、どんなワールドを作りたいか、ふんわり考えはじめます。
ふんわり考えるので、序盤は詳細が無いです。ラフスケッチとかも書けませんし、私の想像力では、考えるだけではワールドの詳細を詰めることはできません。とりあえず作って、目の前に在るものを見てから、やっと次のステップを考えることができるので、最初に考えるのは、ふんわりどんなワールドにするか、という部分だけです。
この記事は、そのふんわり考えるところから少し詳細が決まるまでの流れを書いています。
動機について確認する
普段のワールドづくりは、基本的には「作りたいものがあるから」作ります。ですが、イベントの場合は事情が変わります。
1weekWC の場合、私は「交流会に参加したい」が最も強い動機になります。1週間頑張ってワールドを作ったメンバーでお互いのワールドを見て回る体験はとても貴重なものです。
なので、「見たい景色を作る」とか、「試したい技術を試す」とかは後回しにしたい、ところですが、残念ながらそうでもないです。このあたりが含まれていないと作成中のやる気と想像力を維持できません。
なので、基本的には全部満たせるところを目指すのが基本になります。贅沢ですね。
制約について考える
今回の場合は交流イベントへの参加のワールド制作です。なので、最初に制約が提供されることになります。
1つ目はこのイベントではテーマが提供されます。なので、そのテーマに沿ってワールドを作る必要があります。
更に、1週間という期限が設定されています。平日の夜は体力的に作業をすすめるのは難しいです。幸いにも祝日が挟まっていたので実質3日間という作業時間でワールドを作る必要があります。
勉強に時間を使う
私はワールドを作るときに大抵は、今まで使ったことのない技術を使うようにしています。何かを新しく作るなら作れるものの幅が広がるようにしておきたいんですよね。
そうすると、3日間のうち、実験する日を最初の1日に割り当てます。失敗したら、残りの2日で別の策で進めるという作戦です。これ以上は危険ですね。
テーマを掘り下げる
テーマに沿ってワールドを作るわけですが、テーマを見ただけで作りたい景色が思い浮かぶほどには私の想像力は大きくはないです。素朴には地方の無人駅などが思い浮かぶわけなのですが、私には普通の無人駅からの景色を作るためのスキルはありません。
また、面倒なもので、私は、「普通の景色は作りたくない」もしくは「普通じゃない景色を作りたい」と思ってワールドを作っているので、パッと思いついた景色は大抵、作る気もしなかったりします。素朴に要求を書くなら「(私にとって)今までにない新しさが欲しい」のです。時間も少ないのに贅沢なものです。
さて、このために、 1weekWC では、与えられたテーマの言葉を分解して辞書的な意味を確認したり、普通に思い浮かぶ意味を部分的に外していきます。
「小さな世界の停車駅」という言葉は2つのブロックに別れていて、「小さな世界」と「停車駅」についてそれぞれ考えることになります。
停車駅について考える
まずは、シンプルそうな停車駅について考えます。普通ではない停車駅というと、
乗り降りする場所が地球上ではない
停車するものが電車ではない
乗り降りするのが人ではない
停車するものも乗り降りするものも物質ではない
言葉の上で定義を外していくと、新しい停車駅が作れそうですね。この中では、物質ではない停車駅が一番興味を惹かれましたね。
人生の停車駅
人生の途中下車、人生の終点、何か深い意味をこめる余地がありそうです。
思い出の停車駅
1駅1駅に何が詰め込まれるのか気になりますね。
感情の停車駅
感情は変わっていくもの。その変化を駅の移動に例えることはできるのだろうか。
人生の変化を線路に例えるようなイメージでしょうか。なかなか見た目に反映するのは難しそうです。別の方向で考えましょう。
世界の小ささについて考える
さて、何が小さいのでしょうか。何をもって「小さな世界」と定義したら楽しいのか、を考えます。
世界が物理的に狭い
ビー玉一つに銀河が押し込められた状態は小さな世界ですよね。
世界が時間的に短い
自転車や自動車、飛行機、インターネットによって世界は短い時間で移動できるようになりました。とても小さくなっていると言えます。
主観的に見ている世界が小さい
広い世界を移動できるとはいえ、個々人が主観で体験できる世界は小さな範囲に制限されます。
現実世界だけでなく、twitter や VRChat で出来上がるクラスターなんかもそんな感じですね。
自分が小さい
これは、世界が「大きくなっている」と言えますが、自分が主観的に見渡せる範囲が小さくなっているという意味で、世界が小さくなっていると言えるかもしれませんね。
使いたいネタについて考える
VRChat で創作活動しているとやりたいことが溢れて手に負えないですよね。
そんな中から題材を引っ張り出します。
木
木を生やせるようになりたいんですよね。
作りかけの実験が残っています。
街
街を生成できるようになりたいんですよね。
作りかけの実験が残っています。
岩
岩を生成できるようになりたいんですよね。
ベイク
ちょこっと触ったことが在るだけでまともに使ったことがないんです。
Bakery がタンスの肥やしになっていてもったいないです。
テクスチャ
まだ1回しか貼ったことがないんです。普通に使えるようになりたい。
この中では、街はなかなかに有望でした。駅を置けて電車が止まれます。
ただ、街に線路が通っていて、駅があるなんて普通すぎます。私にはそこから面白いワールドを作ることはできなさそうです。
街はベイクの勉強をするにも良さそうです。というより、前に街の生成を実験したときに雑にベイクしたのですが、うまくいきませんでした。リベンジです。
ワールドの印象について考える
VRChat のワールドとして作るには、言葉の上での定義や、技術的に使いたいアイテムだけでは成り立ちません。
VRChat のワールドは、サムネイルや twitter 上の写真を見て入ることになります。
せっかくワールドに入ってもらうなら、ワールドに入ってこそ感じることができる印象を提供したいと思っています。なんと大層なこと…
今の私が、VRChat の世界でその印象を短時間で提供できる素朴な手段は、「スケール感」です。大きな物が与える印象は写真やサムネイルからは頑張っても伝わるのは期待感のみで、その印象を写真に収めて伝えるのはかなり難しいです。
というわけで、偉そうなことを言いながらも、安直に「大きな物があったほうがいいかなぁ」とぼんやり結論づけることになりました。
「小さな世界」と相反する感じで困りますね。それも楽しいですね。
そんなわけで物理的には大きい街だけど、ワールドの背景設定として小さい世界と言える状態にしたいなと考えていました。
世界の生い立ちを調べる
大まかな方向性は決まってきましたね。目指すは「大きい街だけど、小さな世界だと言える背景を設定する」です。
背景設定と言えば、素朴には物語です。世界の始まりの物語を探し始めることにしました。世界は大きな木に支えられていたり、7日間で作られていたり、日本は三柱の神様が作られたそうですよ。
神様って柱で数えますよね。不思議ですよね。でも、今回はとても都合が良いですね。素晴らしい。
とても都合の良いネタを Wikipedia から提供していただいたので、ワールドの構成が決まりました。
「世界の開闢から3つの柱しか存在しない、小さな世界の停車駅」良いですね。作れそうです。
追加の設定を考える
この状況だと、 Wikipedia の力もあって追加の設定を加えていくのが簡単になります。
柱の上に建築された街
街と街の間は一本の線路でのみ繋がっている
上にも下にも無限に小さな土地が用意されている
柱という人工物なので、線路を結ぶ物体も、街を支えるお皿も人工的なものにする
創世記から柱のお皿の上で生活しているので土地をギリギリまで使っている
建物がはみ出ていたり、下にぶら下がっている
作る時間は足りなさそうですね。普通に後半の設定を感じる部分は捨てるしか無いでしょう。結果としては存在しなかったかのようにスルーしていました。
ワールドの眺めを考える
脳内に適度に妄想の景色ができたところで、ワールドの眺めから構造を考えます。
一番見せたいのは、柱の上に乗った街です。課題はいくつかあります。
街の上にいる間、見えるのが街だけなのは問題です。柱の上に乗っている街が見えないといけません。真上の階層は、お皿が在るだけなので、隣の階層を眺められる状態にする必要があります。
もともと実験していた街の仕組みが階段を生成するものだったので、中央ほど高くして、坂道から隣の柱の街を眺められるようにしましょう。対策として、外側の建物は低くしておいたほうが良いですね。
これにより、街の隙間から隣の階層の街が見えるようになるでしょう。脳内での妄想としては最高ですね。
狭い路地を歩いていて時々見える隣の街。ここの住人にとっては普通の景色。我々にとっては、きっと、ちょっと不思議な景色になるはず。
言葉では説明できないものもある
さて、ここまで考えた内容を書いてきましたが、実のところ言葉にできていないものもたくさんあります。むしろ、言葉にしてしまっているが故に削れてしまっているものもあるように思います。
この記事の場合は「スケール感」という言葉は、一つの例です。ヘッドセットを被って見える、自分で作った、目の前の大きなモデルデータに感じるものをこう呼んではいますが、感じているものは、単にスケールを大きくしただけのモデルに対するものではないはずです。
私の言葉での表現力の問題でもあるとは思うのですが、作ろうとしたもの、作ったものを言葉で表現すると、どうも安っぽく感じてしまいますね。
なので、あまり何を考えてワールドを作ったのかというのは言葉では語らないほうが良いのかなと考えることがあります。
VRChatワールド探索部の他の方の記事はそういった私の言葉では表されないような感覚を色んな言葉で表現されているのでぜひ読んでみてください。
おわり
今回は、ワールドづくりの序盤に考えていることにのみ焦点を当てて書きました。
私は普段は作りながら考えるのですが、 1weekWC は1週間しか時間がないので作りながら考えると、ちょっとでも悩んだ瞬間ピンチが訪れます。
なので、 1weekWC は他のワールドづくりよりも事前に多めに考えるようにしています。
この後はワールドを作るだけですね。思ったより具体的に決まったので作る時の悩みは減りそうです。余裕あったら、その後の制作過程もざっくり書いてみようかと思います。
この後、作成過程も簡単に記事に書いてみました。