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企業分析:芝浦機械(6104) - 2024年3月期 決算

1. 業績の安定性・成長性(85点)

売上高は前期比30.4%増、営業利益は同136.1%増、経常利益は同176.6%増、親会社株主に帰属する当期純利益は同178.2%増と、全ての項目で大幅な増収増益を達成している。

特に主力の成形機事業が、中国におけるリチウムイオン電池向けセパレータフィルム製造装置の大幅な増加により牽引した。EVの普及拡大に伴う関連需要の取り込みが奏功しており、構造的な成長トレンドに乗った業績拡大と評価できる。

見通し:中長期的にはEV関連の旺盛な需要が見込まれ、同社の成長ドライバーとなる可能性が高い。一方、需要の変動には留意が必要。

2. 財務の健全性(85点)

自己資本比率は44.1%と前期の43.5%から若干上昇し、比較的高い水準を維持している。顧客の先行手配などで棚卸資産が増加し、総資産が膨らんだことが自己資本比率の大幅な上昇を抑えた。純有利子負債はマイナスであり、財務の安全性は高い。営業キャッシュ・フローも大幅な増益を背景に改善が進んだ。

見通し:利益水準の維持・拡大を前提とすれば、自己資本の積み上がりによる財務健全性の一段の向上が見込まれる。

3. 事業ポートフォリオ(70点)

主力の成形機事業が全体の業績をけん引しており、同事業への依存度が高い状況に変化はない。内訳を見ると、射出成形機、ダイカストマシンは堅調ながら、押出成形機の急拡大が目立つ。また、工作機械事業、制御機械事業は事業規模が小さい。EV関連需要の取り込みは評価できるが、事業の多角化という点では課題を残す。

見通し:リチウムイオン電池以外の用途開拓を含めた成形機の拡大、工作機械や制御機械の強化などで、より balanced な事業ポートフォリオの構築が求められる。

4. 株主還元(80点)

2024年3月期の1株当たり年間配当金は、前期比32.5円増の140円。配当性向は18.9%と20%を下回っているが、大幅増配を評価したい。ただ、今期も増配を見送る計画で、柔軟な株主還元とは言い難い。自社株買いも実施していない。内部留保を厚くし、将来の成長投資に振り向ける方針と見られるが、株主への還元姿勢は今一歩。

見通し:今後、更なる増配による配当性向の引き上げを期待。自社株買いの実施も選択肢に加えるべき。

5. 成長戦略(85点)

  1. 前中計「経営改革プラン」で掲げた高収益企業への変革は達成。組織再編を進め、EV関連需要の取り込みなどで成果を上げた。

  2. インドでの生産能力増強に向けた新工場建設、国内外の生産拠点再編など、生産体制強化も順調に進捗。

  3. 新中計「中計2026」では事業ポートフォリオ変革を柱に掲げる。エネルギー関連と生産性向上を軸に、技術開発とM&Aなども活用しながら事業の選択と集中を進める方針。

見通し:「経営改革プラン」で事業基盤の強化が進み、次なるステージでの飛躍に向けた下地ができた。新中計で描く事業ポートフォリオの変革がカギ。

6. 将来の収益予想

2025年3月期の連結業績予想は、売上高が前期比5.8%増の1,700億円、営業利益が同2.8%増の140億円、経常利益が同13.7%減の126億円、親会社株主に帰属する当期純利益が同48.7%減の92億円。為替差益の剥落などで経常利益以下の伸び率は鈍化するものの、売上高、営業利益は引き続き増加基調を維持する見通し。

ただ、成長率は今期に比べると大幅に低下。一服感が出てきているのは確かだが、中国経済の低迷など外部環境の悪化も影響しているとみられ、社内要因とは切り分けて考える必要がある。中長期的には、ポートフォリオの変革がどこまで進むかがポイント。

総合評価:80点

芝浦機械は、「経営改革プラン」の推進により、成形機を中心とした事業基盤の強化が進み、業績拡大を実現した。特に、EV化の流れを追い風に、リチウムイオン電池向け製造装置の需要を大きく取り込んだ点を高く評価したい。

一方、事業ポートフォリオの観点からは依然として成形機への依存度が高く、リスク分散の効いた事業構成とは言い難い。株主還元も思い切った増配には至っておらず、柔軟な還元策にやや物足りなさが残る。今後は、新中計で打ち出した事業ポートフォリオの変革の成否が大きなカギを握るだろう

電池関連の需要動向とともに、工作機械や制御機械の強化、非成形機分野での新たな収益源の育成などの進展度合いを見極めていく必要がある。

投資基準と売買タイミング

  • PERが10倍を大きく割り込む局面では割安感が強まる。

  • 成長戦略で設定した事業ポートフォリオ変革の進展具合を確認しつつ、利益成長の鈍化が続く局面では利食い売りを検討。

  • 同社の主力製品を巡る市況の変化、特にEV関連需要の動向には常に注意を払う必要がある。

  • 中国での販売動向、為替変動にも留意しながら、適宜投資判断を見直す。

  • 配当性向、自社株買いなど株主還元策の改善は、株価の追加上昇要因となるため注視。

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