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企業分析:信越化学工業(4063) - 2024 年3月期 決算

業績の安定性・成長性(85点)

売上高は前期比14.0%減、営業利益は同29.8%減、経常利益は同22.8%減、親会社株主に帰属する当期純利益は同26.6%減と、全ての項目で減収減益となった。主力の塩化ビニル樹脂や半導体シリコンなどは市況悪化の影響を受けたが、価格修正や販売数量の維持により減益幅を抑制した。高収益体質は維持しつつ、外部環境の変化に機敏に対応する経営を実践している。

見通し:市況変動の影響は避けられないが、ボトム期は脱しつつある。中長期的には半導体関連需要の拡大や、脱炭素に資する製品の供給拡大などが業績の安定化に寄与すると期待される。

財務の健全性(95点)

自己資本比率は82.7%と極めて高い水準を誇る。キャッシュリッチな財務体質を背景に、積極的な設備投資や株主還元を実施している。有利子負債残高は243億円と僅少であり、潤沢な手元資金を考慮すると実質無借金経営が続いているといえる。営業キャッシュ・フローも高水準で推移しており、収益力に裏打ちされた磐石の財務基盤を有している。

見通し:業績変動に耐え得る強固なバランスシートは当面維持されるだろう。M&Aや株主還元の一層の拡充など、手元資金の有効活用にも注目したい。

事業ポートフォリオ(80点)

生活環境基盤材料、電子材料、機能材料、加工・商事・技術サービスの4つのセグメントを擁し、素材を起点とした幅広い事業展開を図っている。塩化ビニルや半導体シリコンへの依存度が高い一方、シリコーンや医薬用セルロースなど高機能品の比率を高めることで、より付加価値の高いポートフォリオへの転換を図っている。

見通し:市況製品からスペシャリティケミカルへの移行を一段と進めることで、安定収益基盤の強化が期待される。既存事業の周辺での M&A などを通じた新規事業の開拓にも挑戦して欲しい。

株主還元(90点)

年間配当は前期と同額の100円を維持。38.5%という高い配当性向が示すように、利益の社外流出を厭わない株主重視の姿勢が際立つ。自社株買入れも機動的に実施し、総還元性向は40%前後と高水準で推移している。内部留保とのバランスを取りつつ、株主に利益を継続的に還元する方針は評価できる。

見通し:配当性向の目標を従来の35%前後から40%に引き上げる方針を示した。今後は増配による一段の株主還元拡充に期待したい。自社株買入れも継続実施されることが望まれる。

成長戦略(85点)

  1. 中期経営計画「VISION 2030」で、IoT、5G、AI の進展を背景とした半導体需要の拡大を成長のドライバーと位置付ける。半導体関連投資を積極化し、微細化・3 次元化に対応した電子材料の開発・供給体制強化に注力。デジタル社会の進展を追い風とした成長シナリオを描いている。

  2. 脱炭素社会の実現に向け、省エネ・環境配慮型製品の開発を加速。自社の温室効果ガス排出量削減にも取り組む。シリコーン事業などを中心に、製品を通じた環境貢献を一段と強化する方針。

  3. 医療分野向けでは、医薬品添加剤用セルロースの生産能力増強に着手。医療インフラの拡充を支える。

見通し:デジタル化と脱炭素化という時代の二大潮流を的確に捉えた成長戦略は説得力がある。今後はこれらの取り組みの具体的な成果を確認していきたい。

将来の収益予想

2024年3月期は、売上高は前期比3.8%増の2兆円、営業利益は同3.6%増の2,250億円、経常利益は同13.7%減の2,250億円、親会社株主に帰属する当期純利益は同11.5%減の1,750億円と、増収増益を予想。

ただ、経常利益と最終利益は為替差益の剥落などにより前期比マイナスとなる見通し。市況回復の足取りは緩やかながら、営業増益が続くとみられることは心強い。為替の影響を除いた実質ベースでの成長力にも注目したい。中長期的には利益の上振れ余地もありそうだ。

総合評価(87点)

信越化学は塩ビや半導体シリコンの世界的トップメーカーで、その独自の素材技術を強みに高収益な事業を展開している優良企業。今期は世界的な市況悪化の影響を大きく受けたが、強固な財務基盤を背景に機動的な対応で減益幅を抑えた。株主重視の経営姿勢は投資家に安心感を与える。

今後は脱炭素に資する製品開発など、ESGの取り組み強化にも一層注力していく。業績のボラティリティは避けられないものの、経済のデジタル化や環境対応という大きな需要を取り込むことで、中長期的な成長持続性は高い。塩ビ偏重の事業ポートフォリオの改善と新規事業開拓がさらなる企業価値向上のカギを握るだろう。

投資評価の指針

  • PBRが2倍前後かつ配当利回りが3%を超える水準は割安感が強い。

  • 一方、PERが20倍を超える局面では短期的な利益確定売りも意識したい。

  • 業績下振れ局面でも、自己資本比率50%超と手元流動性の厚さは安心材料。

  • 市況変動や為替変動の業績インパクトに注意しつつ、株主還元の更なる拡充の余地を評価。

  • 環境対応や医療事業など新規分野の開拓状況をフォローし中長期の企業価値を見極めたい。

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