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企業分析:清水建設(1803) - 2024年3月期 決算

業績の安定性・成長性(75点)

売上高は前期比3.7%増と増収となったものの、営業利益は246億円の損失(前期は546億円の利益)、経常利益は198億円の損失(前期は565億円の利益)、親会社株主に帰属する当期純利益は前期比65.0%減の171億円と、利益面では大きく落ち込んだ。国内外の複数の大型建築工事における採算悪化が主因。建設業界特有の収益変動リスクが表面化した格好だ。主力建設事業の不振が全体の足を引っ張った。

見通し:大型工事のリスク顕在化は想定内とはいえ痛手。工事採算管理の高度化と、リスク分散を含めた事業ポートフォリオの最適化が急務。単年度の業績悪化で即座に経営の安定性が揺らぐわけではないが、今後の回復力が問われるだろう。

財務の健全性(80点)

自己資本比率は35.0%と前期比0.2ポイント上昇。株価上昇に伴うその他有価証券評価差額金の増加が寄与した。一方、有利子負債残高は前期末比259億円増の6,031億円。工事損失引当金の増加などで、負債は膨らんでいる。手元流動性は潤沢だが、純有利子負債の増加傾向とバランスシート全体の健全性には注意したい。

見通し:自己資本の積み上げによる財務基盤強化を引き続き図るとともに、リスクアセットのコントロールを的確に行う必要がある。資本効率を意識した財務戦略の推進が求められる。

事業ポートフォリオ(75点)

建設事業、投資開発事業、新設の道路舗装事業に加え、その他事業で構成されるポートフォリオ。しかし売上、利益ともに建設事業への依存度は高く、ポートフォリオの分散は不十分。主軸の建設事業における大型案件のボラティリティが業績を大きく左右する構造は変わらない。投資開発やインフラ運営など非建設系事業の成長が今後の課題だ。

見通し:建設事業の収益安定化を図りつつ、投資開発事業の強化や、道路舗装、エンジニアリングなど周辺領域の拡大を通じた事業ポートフォリオの転換が必要。PPP/PFIなどの取り組み本格化も期待したい。

株主還元(85点)

年間配当は前期から1円減配の20円としつつも、業績悪化による連結配当性向の上昇(84.9%)を容認し、安定配当を堅持した姿勢は評価できる。自社株買いも柔軟に実施し、1株当たり25,484百万円(約700万株)を取得。内部留保と株主還元のバランスを取りながら、機動的な資本政策を展開している。

見通し:短期業績の変動に左右されない株主重視の姿勢を貫いている点を高く評価。自社株買いの継続実施を通じた、総還元性向の一層の引き上げにも期待したい。

成長戦略(75点)

1.中期経営計画「Be Resilient 2023」で、中核の建設事業の抜本的な環境変化への対応を図る。デジタル技術活用による施工やマネジメントの高度化と併せ、海外展開の拡大に取り組む。
2.投資開発事業ではオフィス、物流施設、海外不動産など優良アセットへの投資を積極化。サブスクリプション事業など収益源の多様化も模索。
3.将来の事業機会の獲得を目指し、再生可能エネルギー、脱炭素など成長領域への布石も打つ。

見通し:中計で示した各施策は総じて妥当だが、具体的な成果につなげるのは容易でない。特に建設事業のリスク対応力強化は待ったなしの課題。投資の効果を見極めつつ、事業構造変革の道筋を示す必要がある。

投資評価の指針

  • 今回の業績悪化を受けたマーケットの反応を見極める。PBRが0.5倍程度まで低下すれば、株主還元の手厚さを評価し、買い機運が高まる。

  • 財務健全性は高い水準を維持しているが、手元流動性と有利子負債のバランスには留意が必要。自己資本比率が30%を割り込むようなら警戒。

  • 大型工事のリスク管理を含めた収益力の回復見通しが最大のポイント。利益率と ROEの改善度合いを丹念にトレースすべき。

  • 政策保有株式の縮減状況、自社株買いの動向など、株主重視の姿勢の継続性をウォッチする必要性。

  • 事業ポートフォリオの変革は道半ば。中計で掲げた施策の着実な遂行と、次の成長ドライバーの芽を見いだせるかが勝負どころ。

総合評価(78点)

清水建設は屈指の大手ゼネコンとして、高い技術力と施工実績を誇る。一方、建設事業への依存度が高く、大型案件のリスクにさらされやすい事業構造は課題。今期はその脆弱性が表面化した格好だ。

本業のボラティリティを抑えつつ、非建設系事業の育成を急ぐ必要がある。財務健全性と株主還元の手厚さは投資家の安心材料だが、事業ポートフォリオの変革はこれからが正念場。

リスク管理の高度化と、デジタル活用など次代の成長基盤づくりへの取り組み加速が問われる。建設業界の構造変化を先取りし、事業モデルの進化を図れるかは今後の焦点だ。

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