企業分析:ソシオネクスト(6526) - 2023年3月期 決算
1. 業績の安定性・成長性(90点)
売上高は前期比64.7%増、営業利益は同156.5%増、経常利益は同159.0%増、親会社株主に帰属する当期純利益は同164.2%増と、全ての項目で大幅な増収増益を達成している。注力分野である自動車、データセンター/ネットワーク、スマートデバイス分野を中心に多くの商談を獲得し、それらの製品の量産が本格化したことが業績拡大に繋がっている。円安効果も大きいが、中長期的な成長トレンドに乗った業績拡大と言える。
見通し:AI、自動運転など半導体需要の拡大が見込まれる分野に注力しており、今後も高成長が期待できる。為替変動の影響には注意が必要。
2. 財務の健全性(80点)
自己資本比率は56.6%と50%を上回る水準を維持しているものの、前期末の75.7%から低下している。顧客要望に基づく先行的な棚卸資産の手配などにより、総資産が大幅に増加したことが要因。一時的な低下とみられるが、今後の動向には注意が必要。営業キャッシュ・フローはプラスを維持しており、手元資金も潤沢。無借金経営を堅持しており、財務の安全性は高い。
見通し:運転資金の増加などで自己資本比率の低下を留意する必要があるが、高い収益力を背景に、中長期的には財務健全性の維持が見込まれる。
3. 事業ポートフォリオ(70点)
ソリューションSoC事業の単一セグメントであり、事業の多角化は進んでいない。ただ、注力する自動車、データセンター/ネットワーク、スマートデバイスの3分野でバランスの取れた事業ポートフォリオの構築を進めている。設計受託に留まらず、量産品ビジネスの比率が高まっていることで、収益性の改善も期待できる。
見通し:注力3分野でのポジション強化と、AIなど次世代の半導体需要の取り込みがカギ。新たな事業の柱の育成にも取り組んでいきたい。
4. 株主還元(60点)
東証プライム市場上場後の初めての配当となる2023年3月期は、1株当たり年間210円(配当性向35.8%)と、業績拡大を踏まえて比較的高い配当を実施。ただ、内部留保の充実のため、配当性向は40%未満に抑えている。自社株買いは実施していない。
見通し:今後、内部留保が進めば、増配余地は大きい。自社株買いの実施を検討すれば、総還元性向の引き上げが可能。
5. 成長戦略(80点)
中長期ビジョン「Innovative Vision 2030」で、データセンター、自動運転、スマートフォンの3分野に注力。エッジとクラウドを融合したコンピューティング市場でのリーダーを目指す。AIチップ事業の成長にも期待。長期ビジョンに基づいた成長分野の開拓を評価。
新製品の投入を加速。7nmプロセスを活用した製品の量産を本格化。5nm製品も開発中。先端プロセスを使った高性能製品の提供力を高めている。
開発体制を3階層(グローバルR&Dリーディングチーム、プロジェクトマネージメント部門、開発部門)に再編。開発効率の向上を進める。グローバル開発の最適化にも取り組む。
見通し:注力3分野での製品ラインアップの強化、AIチップ開発の加速、開発効率の向上などの進展度合いを見極めたい。
6. 将来の収益予想
2024年3月期の連結業績予想は、売上高が前期比3.8%増の2,000億円、営業利益が同3.6%増の225億円、経常利益が同4.0%減の225億円、親会社株主に帰属する当期純利益が同11.5%減の175億円としている。売上高と営業利益は増収増益を見込む一方、経常利益と最終利益は円安効果剥落などにより減益の予想。ただ、売上高の伸びに対して利益の伸びが小さく、利益率の改善には時間を要する見立て。中長期的には、注力3分野での需要拡大を背景に高成長が続くとみられるが、開発費負担や為替変動など不透明要因にも留意が必要。
総合評価:76点
ソシオネクストは、成長分野に特化した製品開発と、開発効率の向上に取り組むことで、構造的な成長トレンドを描いている。足元の業績拡大は、過去の取り組みの成果とみることができ、継続的な増収増益基調に乗ったと評価できる。一方、一時的とはいえ、自己資本比率の低下は気がかり。株主還元も改善の余地がある。高い増収率に対して、利益率の改善ペースは緩やか。中長期の成長シナリオの実現には、開発投資負担とのバランスを取りつつ、収益性を高めていくことが求められる。プロダクトミックスの改善や為替変動への対応力強化など、収益構造の転換の進展度合いを見極めたい。
投資基準と売買タイミング
PERが20倍を割り込み、かつ自己資本比率が60%を上回るような局面では投資妙味が増す。
利益成長率が鈍化し、PERが40倍を超えるような局面では利食い売りを検討。
5nm以細の最先端製品の量産進捗や、AI対応製品の成長度合いをモニタリングし、成長シナリオの実現度合いを評価。
円高局面では業績下振れリスクに要注意。為替動向を織り込んで投資判断する。
中国、米国など主要市場の需要動向や競合との競争力比較に基づき、適宜銘柄価値を見直すべき。