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2O24.O9.13 わたしと本のあれこれ3 途中でやめる


『途中でやめる』
山下陽光
『雑誌「中庭」』
地湧社

ひとり暮らしのアパートは御堂筋沿線にあって、東西南北、ちがう表情の街に囲まれていた。ひとりで部屋にいても気がつまりそうなときは、お気に入りのマウンテンバイクを走らせてあちこち出かけた。そのなかでも一番よく訪れたのは、自宅から4駅弱離れたところにある、スタンダードブックストア。今は店舗は閉店されて、オンラインストアのみで営業している。

スタンダードブックストアは1階がカフェで、2階が本屋になっていた。カフェの店員さんに「上、行きます」と目だけで会釈してとんとんと足音のひびく階段をあがる。一番最初に向かうのが「途中でやめる」のコーナーだった。

いろんな本が置かれているなかで、洋服は「途中でやめる」だけ、メインに置かれていた。Tシャツに大きな丸がはめ込まれた通称「丸T」は、いつも同じ顔ぶれだけどたまに新しいものが混ざってて、シンプルだけど心ほぐれるポップなデザインを見るのがいつも楽しみだった。「花」という字が縫い付けられたTシャツは1階のカフェ店員さんも実際に着ていて「かわいい!」とときめいた。いつか買おういつか買おうと思っているうちに、閉店になってしまった。

山下陽光さんの本も、この店で買った。雇われずに自活して食べていくための具体的な方法が書かれた『バイトやめる学校』。巻末には、「まずはこの本を売ることから始めてみては」と提案されていて、小さな衝撃を受けた。

「必要以上に儲けすぎない」「人がコンプレックスを持つところに需要がある」「誰もやりたがらないけど自分は好きだよ、というものを見つけてみて」。いろんな提案、いろんな価値観が書かれていて文章もおもしろいのだけど、わたしが一番好きなのは彼がsnsでアップする娘さんの写真だ。つやつやのロングヘアにとろーんとした目で、にこにこというよりはにやにや顔で「途中でやめる」の服を着ていたり、自分もなにか作っていたり、製作現場で遊んでたりする姿がとても好き。彼女を含め、「途中でやめる」は、のびのびした空気で充満している。

そんな「途中でやめる」の服、今年の東京旅で東京都立現代美術館を訪れたときにようやく「花T」を買うことができた。この服を着て人と過ごすと、「あ!花ってかいてる!」と気づく人と気づかない人がいて、おもしろい。「気づくかな?気づかないかな?」と思いながら、「今日は花をまとってる」という誇らしい気持ちで、わたしは1日を過ごしている。

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