見出し画像

2O24.O9.15 わたしと本のあれこれ5 いちばん好きな作家さん


『落下する夕方』
江國香織

昔から活字が得意な方ではない。でも本が好きで、2週間に1度は図書館に行く。わたしにとって、読書はただの趣味というより「憧れの趣味」と呼ぶ方が正しく感じる。電車で本を読んでいる人を見つけると、読書好きの人なら「なにを読んでるのだろう」と考えるんじゃないかな。それか周りのことなんて気にせず、まっさきに自分の読みかけの本を開いてすぐ夢中になるか。わたしはそのどちらでもなく、まず「あの人素敵だな、わたしもああなりたいな」と思う。そして自分の文庫本を眺めるような距離感で読みはじめる。読書に対する淡い憧れは、昔も今も、ずっと同じ大きさでわたしの中に灯りつづけている。

そんなわたしが今「好きな小説家は?」と訊かれたら一番に思い浮かべるのは江國香織さんだ。なぜ彼女の小説を読むようになったのか、あるいは読み続けて来られたのか、それはわからないし、あまり深く考えたことがない。ちゃんと考えてみれば言語化できるのかもしれないけど、なんだかそれはしたくない気もする。江國さんの本について、誰かと語りたいと思ったこともなくて、一人でじっくりとひたるのが好き。江國さんは、他に類を見ない作家さんだと思う。

ある時期はお守りのように持ち歩くこともあって、コンプリートまではいかないけど、文庫本はほとんど自宅に揃えている。好きだと思う箇所、感性がゆさぶられた箇所を見つけては、「今現在のわたしはここにぐっときたよ」と未来の自分にメッセージを送るように、ページの角に折り目をつけた。折り目でいっぱいになった本たち、わたしにしては珍しく、一度だけじゃなく何度も繰り返して読んだ。

『落下する夕方』。これは映画化もされていて、主役のリカは大好きな原田知世さんが演じている。江國さんの世界観が映像で味わえる、好きな作品だ。リカを振ったケンゴが片想いする相手ハナコがリカの部屋に突然転がり込んできて居候する、奇妙な三角関係の話。江國さんの本を読んでいると、この世に正解なんてないのだということを、とても感じる。体にわるい食べ物がとても美味しく感じられるように、人生を豊かにするものが「正しいもの」「いいもの」ばかりとは、限らない。

原田知世のロマンスを聴く。彼女の歌声はなんとなく、秋が似合う気がする。もう少ししたら10月。今年の秋冬はまた、『流しの下の骨』を読みたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?