「人を育てる」ための、ある視点―ラグビーのコーチのコーチ・中竹竜二さん
日本ラグビー協会の理事で10年にわたり、指導者を指導する「コーチングディレクター」として活躍する中竹竜二さん。経営する会社、チームボックスでも組織のリーダーをトレーニングし、その風土変革を行っています。
これらの活動のなかで培われてきた中竹さんの考えには、社会や子育てなどあらゆる場所で参考になるヒントがいっぱいです。
最近行われたインタビューから、そのエッセンスをお届けします。
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「個」を導き出す、雑談の魅力
コロナの影響でオンラインでのやりとりが常態化してきました。私は一年のほとんどを出張しているので、もともとオンラインでコミュニケーションをすることが多かったです。だから、コロナの状況下でもあまり変わりはありませんでした。
でもオンラインだと、雑談などのいわゆる「遊び」が生まれにくい傾向にあると思います。雑談は会話をより豊かにしますし、相手のパーソナリティや本質が見えるといった、思いがけない副産物をもたらす大事なものなので、ないと勿体ないですね。私は、意識してその雑談、いわゆる「余白」を設けるようにしています。
具体的に言うと、会議の最初に、約5分ほどの「本題と関係ない雑談の時間」を設けます。ここでは、日ごろ感動したことや、プライベートなことなどを自由に話してもらいます。ここでもポイントがありまして、それは「ローテ―ションでテーマ設定を受け持ってもらう」ということです。テーマ選びもなかなか難しいですし、そのテーマを選んだ人の個性が出たりして面白いですよ。その人の「個」がよく見えてきますし、人は、「普段聞かれないことを聞かれると、考え出す」ものなので、クリエイティビティにもつながります。「課題設定」の力もつくので、いいやり方だと思います。
ちなみに、最近一番盛り上がった話題は、「コロナが終わったらどこへ行きたいか?」でした。国や地域絞ったりしたのですが、話が尽きなかったですね。
余白の時間の使い方―普段考えないことに視点を
今回のコロナのような“ゆさぶり”が起きると、人は「どこへ向かうのだろう?」ということに気を取られてしまいがちですが、「なんでこの会社にいるのか?」「なんでこのスポーツをしているのか?」などと自分を考えるいい機会ととらえ、「現状認識」したほうがいいと思います。現状を把握するというのが、大事な「出発点」だからです。
スポーツでも、通常なら目の前の「試合の結果」を考えているとおもいますが、この状況がいつまで続くかわからないのですから、大腕を振って、「それ以外のこと」を考えてほしいと思います。
ひとつのことに捕らわれず選択肢を持つことの大切さ
コロナ問題を機に、「大きな転換がきてほしい」と思う点があるのですが、
それは、「同時にいろいろなことしていいのだ」ということです。
私は、早稲田ラグビー監督しながら会社起ち上げたり、サラリーマンをしながら会社の役員をしたりしていました。日本ではこれを、「集中していない」として責める傾向にあるのですが、世界では珍しいことではありません。専門用語でいうところの「オプションB」を持っているからこそ、「オプションA」を貫き通すことができる、というのもあるのです。「オプションB」があれば、例えば、サッカーがだめになったとしても、別の場所で活躍することができるというのもありますよね。「オプションBを持ってもいい」のではなく、「オプションBを持ったほうがいい」という風になるといいなと思います。
そのためには、新しいことを学ぶということを素直にすること大事です。出来ないことがカッコ悪いのではなく、出来ないことを学ぶことがかっこいいという文化をつくることが大事ですね。
相手も、自分も成長する「対話」を
人は、一人では成長できないし、一人では自分を理解できないので、「共に」という考えは大事です。
今までは、「for someone=誰かのために」という考えが主流だったと思いますが、これからは「with someone=誰かと一緒に」へシフトするべきですね。親も上司も、「あなたのために」としてきたと思いますが、大抵の場合は自己満足にすぎません。
コーチングでもいい状態なのは、教えている側が学んでいるということです。1人が教えるとき、教わる側も、教える側も学んでいる状態です。
そう考えると、日常で悩みを打ち明けるにしても、悩みを打ち明けられた方も学んでいるのですから、あまり「相手の負担になるかも」と考えないで、相談してよいのだと思います。
ところで、私がずっと大事にしているのは対話です。会話と対話の違いわりますか?私は言葉を定義していくことを大切にしています。
会話は、「あのパスタ、美味しかったよね」「そうそう…」というように、「合意」が生まれるものです。一方、対話は、「あのパスタが美味しいのは…」というように、問いかけから「展開」していくものです。本質的な学びや変化につながります。
強い組織は、「対話型」です。話は、最初がわからなくなるくらい展開されればされるほど、クリエィティビティですね。会話が自然と生まれる場づくりは大事です。
承認と言語化の力
適応力とはこちらが変わることで、人を変えるとか部下を変える、ということではありません。私がしているような指導者への指導は、まさに「指導者に指導者の学び方を教える」ということです。
具体態的に何をしているかというと、指導者がいい方に変わった場合は、ひたすら「変わりましたね」と承認するのです。褒めると「上下関係」ができてしまいましすから、それはしません。「変わった」というその様子を描写して相手に示すことで、「私はこういうことやったんだ」という勇気が生まれますよね。
逆に、「失敗しましたね」の承認もありです。「見てもらっている」というのが、相手にとってとても大事なのです。また、ここでのポイントは、「何故失敗したの?」は聞かず、「どうすれば、次はうまくいくか」を聞くことです。未来に向けての「何故」はいいですが、過去への「何故」という問いは、迷宮入りになりますからね。子育てにも活かせる点かと思います。
一番新しい著作『どんな個性も活きるスポーツ・ラグビーに学ぶ オフ・ザ・フィールドの子育て』にも書きましたが、自分らしさに自信を持てている人というのは、いいところも悪いところもすべてを包み込んで認めてくれる存在が身近にいるものです。人間にとっては存在承認が一番大事なのですね。
また、相手との対話で大事にしたいのは何かあったときに、「事実とその人の感情」を聞いて、これを言語化させることです。もっと大事なのは、その感情がどこからでてきたかを聞いて、感情の裏側にあるその背景を知ること。例えば、雨が降ったからといって、その人は何故、悲しく思っているのか? 何故、「涼しくていい」と思えないのか?追っていくと、「最近いやなことがあったから」というその理由が分かるのです。これが、次の指導に活きるのですね。
またこちら、前述の新刊にも書いたことですが、人前で自分の言葉で話せるようになった人ほど、プレーもうまくなっていきます。これは「何を言語化するか」というディシジョン(決断・決定)」の訓練がプレーにも活かせるからなのですね。言語化には、こういった効力もあるのです。
コロナで大変なときですが、自分と周囲を考え直すいい機会です。この危機の現状を上手に受け取って、この未曾有の状況を意義あるものにしてください。
―中竹竜二( Nakatake Ryuji )
株式会社チームボックス代表取締役
日本ラグビーフットボール協会理事
1973年福岡県生まれ。早稲田大学卒業、レスター大学大学院修了。三菱総合研究所を経て、早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任し、自律支援型の指導法で大学選手権二連覇を果たす。2010年、日本ラグビーフットボール協会「コーチのコーチ」、指導者を指導する立場であるコーチングディレクターに就任。2012年より3期にわたりU20日本代表ヘッドコーチを経て、2016年には日本代表ヘッドコーチ代行も兼務。2014年、企業のリーダー育成トレーニングを行う株式会社チームボックス設立。2018年、コーチの学びの場を創出し促進するための団体、スポーツコーチングJapanを設立、代表理事を務める。
ほかに、一般社団法人日本ウィルチェアーラグビー連盟 副理事長 など。
著書に『新版リーダーシップからフォロワーシップへ カリスマリーダー不要の組織づくりとは』(CCCメディアハウス)など多数。
2020年、初の育児書『どんな個性も活きるスポーツ・ラグビーに学ぶ オフ・ザ・フィールドの子育て』を執筆。
◆『オフ・ザ・フィールドの子育て』の紹介◆
本書では、「多様性」というキーワードに着目し、それを独自に育んできたラグビーに学ぶことで、子どもたちに多様性を身につけてもらえる、子育てをよりよくできるのではないかと考えました。
教えてくれるのは、「コーチのコーチ」をしてきた“教え方のプロ"である中竹竜二氏。
さらに、花まる学習会を主宰する高濱正伸先生から、著者の考えに対して、
「子育て」や「学び」の観点から、適宜コメントを入れていただきました。
また、巻末にはお二人の対談を掲載し、ラグビーに学ぶことの意義についてご紹介しています。
改めて「ワンチーム」という言葉の意味や、ラグビーが大事にしてきた「オフ・ザ・フィールド」という考え方を知ることで、わが子の個性をどのように活かしたらよいかを考えるきっかけとし、わが子が実際に輝ける場所を親子で一緒に見つけてほしいと思います。
“サンドウィッチマン推薦! "
ラグビーがなかったら、いまの俺たちはいなかったと思う。
「中竹さん、ラグビーから学んだことは、今に活きています! 」