中竹竜二×笹森壮大 ―「子どもたちのインナードリームを見つけよう 〜折れない心、くじけない心を育てる~」
ラグビーをはじめとするスポーツ界ではコーチのコーチとして、またビジネスの分野ではリーダー育成でも定評のある中竹竜二さん。今年、はじめて育児についての見解をまとめた、『どんな個性も活きるスポーツ・ラグビーに学ぶ オフ・ザ・フィールドの子育て』を上梓しました。
その出版記念第2弾として中竹竜二さんと、「本物」の芸術に触れ、楽しみながら音楽を学び豊かな感性を育む「アノネ音楽教室」代表・笹森壮大さんの対談が行われました。テーマは、「子どもたちのインナードリームを見つけよう~折れない心、くじけない心を育てる」。今回は、その内容をお伝えします。
―こんばんは、本日は、「子どもたちのインナードリームを見つけよう 〜折れない心、くじけない心を育てる~」をご視聴くださり、ありがとうございます。
今回は、小さいころにラグビーを始め、名門・早稲田大学ラグビー部の主将・監督、ラグビー20歳以下(U20)日本代表の監督を務め、今は「監督を教えるコーチ」として活躍されている中竹竜二さんと、小さいころにチェロを始め、音大を卒業後チェリストとして活躍する一方、音楽教育と音楽家の人生をよりよくしたいとの思いから、アノネ音楽教室を設立された笹森壮大さんによる対談を行います。モデレーターは、エッセンシャル出版社の小林が務めます。コメントはできるだけ拾っていきたいと思いますので、質問等がありましたらどんどん投稿していただけると幸いです。それではよろしくお願いいたします。
中竹さん:みなさん、こんばんは。中竹竜二です。ご存知ない方もいらっしゃると思いますが、僕はスポーツの分野で選手や指導者を育ててきた経験がありますので、それを踏まえて「人を育てる」ことについてのアイディアを皆さんと共有できればと思っています。よろしくお願いします。
笹森さん:こんばんは。アノネ音楽教室の笹森です。都内で音楽教室をやっております。中竹さんの書かれた書籍や動画を拝見しているのですが、明瞭に言語化がされているといるなと思っています。また、自分が大切にしてきたことに花マルをつけてもらったような気もしています。中竹さんと私の考えには、共通する部分も多いなとも思っています。今日は音楽の現場から、活かすことのできる知見を披露できればと思います。よろしくお願いします。
インナードリームとは?
―今回は、スポーツ界と音楽界各々の特色を活かしつつ、多様な考え方を知ることが出来ればと思っております。本質的には同じことを言っていても、言葉としては異なることもあるでしょうし、その逆もあると思います。どんなコラボになるか楽しみです。それでは早速、今回のテーマ「インナードリーム」について、中竹さんにお聞きしたいと思います。中竹さんが何故、インナードリームを大事と思うようになったのでしょうか。
中竹さん:皆さんは、夢やドリームという言葉をたくさん聞いてこられたと思いますし、「夢を持ちましょう」などもよく言われてきたと思います。僕が言うドリームには、2つの種類があります。「インナードリーム」と「アウタードリーム」です。
いわゆるアメリカンドリームのようもの、例えば「将来サッカー選手になりたい」「音楽家になりたい」「社長になって稼ぎたい」といった、その人の外側に形としてある一般的なドリームが「アウタードリーム」または「エクストラドリーム」です。
一方、インナードリームは、「これをしている瞬間が大好きだ!」というような、自分のなかにあって自分にしかわからない感覚のようなものです。スポーツ選手でも、世界で勝っていくような人は、インナードリームをちゃんと見つけていますが、一方で、活躍している選手のなかにも、インナードリームに気づいていない人が多く見受けられます。
インナードリーム…「これをしている瞬間が大好きだ!」というような、自分のなかにあって自分にしかわからない感覚のようなもの。勝利などの外的要因に左右されるものではなく、自分の中で完結できることがポイント。
アウタードリーム…その人の外側に形としてある一般的なドリーム
スポーツ選手だけでなくビジネスマンも、インナードリームを見つけることで、競技を長く続けたり人生を長く幸せに生きることができるようになります。
スポーツでいえば、優勝できるのは1チームまたは1人ですし「スポーツ選手になる」と言っても、プロの枠は決まっています。アウタードリームは、結果パイの取り合いになります。
一方、インナードリームは、陸上選手で例えると「走りだす瞬間の足の裏の快感」などの、日々の練習のなかで受け取ることができるもののことです。勝利などの外的要因に左右されるものではないわけですね。
昔、清宮監督の息子さんが高校野球で活躍していたときに、「ホームランを打った瞬間の感触がとても好き」とインタビューで答えていて、印象的だったのですが、彼はこの時すでにインナードリームを持っていたのですね。
「走りだす瞬間の足の裏の快感」「ホームランを打った瞬間の感触」で分かると思いますが、インナードリームには再現性があるのが特徴です。これがあれば、辛いことでも超えられますし、スポーツに限らず、どの分野でも、また大人にとっても子どもにとっても、本当に大事なことだと思います。ついつい「勝利」や「テストの点数」などに視点がいきがちですが、早い段階で、「なにがあってもこれさえあれば復活できる!」というインナードリームを見つけておくことが大切です。
笹森さん:私の分野で言いますと、音楽は毎日練習をしなければならないものでモチベーションに左右されますから、このインナードリームはやはり大事です。中竹さん、インナードリームは行動というか、何かフィジカルなことに特化された概念なのでしょうか。
中竹さん:どちらかというと、結果に頼らず自分のなかで何度も繰り返すことができる「瞬間」や「動作」のことです。これは小さなことでもよくて、相手によらずに自分の中で完結できることがポイントです。
ストレスに向き合うことと、インナードリーム
笹森さん:ありがとうございます。僕の所属する花まるグループでは、 「子どもたちが学んでいることに対して、どのような価値感を持つことができるか」という「学習観」を、音楽技術と同様に大事にしています。
習い事は、3~4年経つとレベルが上がり、楽しいだけではなくなってきますよね。勉強も高学年になると大変になったり、水泳もクロールは楽しかったけれど、背泳ぎになるとやめてしまうということが起こります。楽しいという思う気持ちを継続させることは、なかなか難しいと思います。僕の教室では、「綺麗で楽しくて、アンサンブルは気持ちいいのだよ」という価値観をまずは掴み取ってもらい、ポジティブに捉えてもらえるようにしています。
中竹さん:僕は、笹森さんのご著書『幼児期だからこそ始めたい 一生ものの音楽教育』に書かれている「ストレスと向き合うこと」についての考え方にとても興味を持ちました。インナードリームがあって楽しかったのに、高いレベルになって面倒になったり、ストレスになったりする。このような時は、どんな指導をしているのでしょうか。
笹森さん:僕は指導者として、質のよいストレスを与えることが大事だと思っていています。頭ごなしに否定したり、子どもにとって有益ではないプレッシャーを与えることは意味がないですよね。ただ、子どもには質のよいストレスに向き合うことが、ひとつの課題としてあると思います。
僕はクラシックを教えていますが、クラシックは子どもにとって、一番ストレスのかかる習い事です。僕は、花まるグループに所属してから、幼児は「振り返り」や「やり直し」といった、時間軸を遡ることが嫌いと習いましが、音楽はその「やり直し」しかしないので、そもそも子どもに向いていないのです。
同じ芸術でも絵画なら、子どもが好きに描いていいのだと思います。スポーツも時間軸としては、前に進んでいる感覚はありますよね。
音楽は、絵で例えると「モナリザと全く同じ絵を描いてください」という課題を与え、ダヴィンチが描いた通りでないと合格ではない、ということになるのです。その通りになるまで、描き続けなければならないのですから、これは子どもにストレスがかかります。
そこで僕は、この解決策となる「4つの言葉」をお母さんたちに伝え、実践してもらっています。
ひとつは、「やり直しをさせながら、次に進む感覚を子どもたちに与える」ために、「次は」という言葉を使うことです。「じぁあ」や「そしたらね」でもいいので、なにか場面展開を感じさせるような言葉をかけるようにします。
また「レベルアップしようか」でレベルアップしていく…これらの言葉を掛け合わせると、反復しているけど、前に進んでいるのかなという気持ちを持つことができます。
練習中の子どもにかけるべき「四つの言葉」
「次は」「じぁあ」「そしたらね」「レベルアップしようか」
…子どもは反復が苦手。そこで、実際は反復しているだけのところを「前に進んでいる」と思ってもらうために、場面展開を感じさせるこの4つの言葉を使う。
ただそれでも、低学年の子が3~4回同じことを繰り返すとなると、やはりイライラしてきます。でも僕は「イライラしてきたら、うまくなるチャンスだよ。」「先生でも、できないことをするのは、イライラするんだよ」と伝えます。それ聞いた子どもたちは「大人もそうなんだ」と驚きますけれどね。それから、「でも、これをもう一回すると上手くなると分かっているから、先生は練習するよ」と続けます。
子どもたちは、面倒くさいと思うことを、悪いことだと思いがちです。大人も「面倒くさいって言わないの」と言いますしね。でも、面倒な気持ちは大人になってからも生涯、自然と心から湧き上がってくるもののはずです。
ですから、子どもたちと「面倒だと思っていいのだ」ということを共有して、その上で、「そう思ったということは、上手くなるチャンスだよ」と伝えます。小学校3年生くらいになると、「イラッとしたらチャンスなんだ」という言葉にして反復する子もいます。これがストレスに向き合うことかなと思います。また、この言葉のように、「言語化して覚えさせる」ことを大事にしています。
中竹さん:本当は振り返っているのに、前に進んでいる感を出すというのは、相当いい方法ですね。
笹森さん:そうですね。言葉というのは基本的に反射なので、何でその言葉を発したのか、分からなかったりしますよね。
僕は、レッスンで自分が言ったことを全て文字に起こして「この時、このワードを選んでおけばよかったな」などと反省したりします。要は、先生が言葉の選択をしっかりできるようにするのです。アノネ音楽教室は、先生になるまでの長い研修のなかで、こういう訓練もしてます。ただ、これを保護者の方がするのは大変なので、先ほどの4つの言葉を伝えています。
中竹さん:僕と全く一緒ですね。これは選手にもコーチにも言うことですが、人は、uncomfortable(快適ではない)な状態を通過しないと成長しません。最初は、たったの50回が辛い筋トレでも、筋肉がついてくればなんともなくなるのです。ですから、この「辛いな」という思いは、笹森さんのおっしゃる「質のよいストレス」と同じだなと思います。
笹森さん:そうですね。僕は、まさに今おっしゃられた内容を小学校3,4年生に伝えています。このくらいの年齢になると、論理的な話が分かるようになりますから、一切楽器に触れない時間を設けて「努力にも正しい努力と正しくない努力がある」ということを伝えるのです。アンダースエリクソンの『超一流になるのは才能か努力か?』という本にも書いてあるような、comfortableゾーンでは人は成長しないことや、「限界的練習」についてですね。僕は、それを野球の素振りに例えながら説明します。「角度を意識せずに素振りをして、もし10回に1回ずれてしまったら、1,000回目には角度は大分違ってしまっているよね。それが50回でいいから、一回一回角度に気を付けて素振りをしたら、正しいフォームで素振りができるから、角度もそんなにずれないよね。」という感じです。このような話をすると、子どもたちも「限界的練習をしなきゃ」というように、とりあえず、言葉は覚えてくれます。また、仮にストレスを受けなくても、目的や注意するべきことを考えながら練習するのが大事だと思います。
中竹さん:僕はコーチを指導する際、「大人の学びは痛みを伴うものなので、皆さんしっかり痛みを受けてください。僕は皆さんを痛みつけるのが役目なので、皆さんに恨まれても仕方ありません。」と、にこやかに伝えます。私の指導によって、コーチはunomfortableな状況に追い込まれますが、だからこそ、成長していきます。
笹森さん:ストレスは向き合わざるを得ないもので、子どもたちには、段階に応じてちゃんとストレスを乗り越えていくなと感じています。
中竹さん:このストレスを受けているときなど、インナードリームの存在が大事ですね。インナードリームは、意識しないとなかなか見つけ出すことができないものなので、選手たちにもよく問いかけるようにしています。
笹森さん:そうですね。音楽の練習というのは基本的に孤独ですから、他の楽器などとアンサンブルをする機会を設けています。子どもたちは、習っている楽器そのものより、過ごした時間が楽しかったかどうかが、好き嫌いの判断基準になったりもします。
例えば、ピアノの先生が好きなら結果ピアノが好きになりますし、レッスンでもらえるシールがモチベーションになったりもします。仮に、レッスンは課題だらけであったとしても、その日の最後に「過ごした時間が楽しかった」と総括できるようにしてあげたいと思っています。これが子どもたちの学習観を育むために、大事だと思います。
中竹さん:本当に共通点が多いですね。
― 中竹さんに質問をいただいています。「高校生でスポーツをしている子どもがいるのですが、子どものインナードリームを見つけるために、親ができる声かけはありますか?」
中竹さん:これは「問いかけ」が大切だと思います。試合の結果よりも「今日はどのプレーが一番好きだと思った?」「どの瞬間が一番好きだと思った?」などと聞くことですね。スポーツをやっていると、小さい頃から「結果がでないとだめ」と言われ続けますが、それ抜きの「問いかけ」である必要があります。
僕がラグビー日本代表の監督代行になったとき、ミーティングで、選手たちにインナードリームは何かを尋ねたことがありました。ところが、即答できる選手はほどとんどいませんでした。日本代表でもそうなのです。こうなったら、インナードリーム探しの持ち越しです。その場で答えられたとしても、実は違うという可能性もあるので、とにかく、自分のインナードリームを明確にすることを課題にしました。
プロでもそうなのですから、高校生ではより難しいと思います。見つかったらとてもラッキーなことです。
また、インナードリームはどんなに小さいことでもいいですし、「味方同士で目が合う」といった「プレーには意味がない」と思えることでもいいのです。この場合は、「共感する力」がその子のインナードリームになる可能性があるということになります。子どもが示したインナードリームには、「素晴らしいね!」と言ってあげてください。
子どものインナードリーム探し…親などの指導する側が、対等な気持ちで、勝敗とは関係なく「楽しかったこと」を問いかける。どんなに小さなことでも、プレーに直接関係ない事柄でもいいもの。子どもの答えには、肯定的な言葉をかけましょう。
笹森さん:インナードリームは、問いかけを続ければ見つけられるものなのでしょうか。
中竹さん:そうですね。見つけることができるものだと思います。僕はその人が示したインナードリームについて「本当に好き?」「皆に褒められるから好きだと思っているだけなのでは?」と、わざといじわるな聞き方をしたりします。これには理由があります。
足が速い僕の教え子に、「パスが好きなんですよね」と言った選手がいました。これには周りも僕も驚きました。その選手は足が速くて前進することで評価を受けてきたのに、本当は、自分に向かってきた敵を引き寄せながらパスをする、という瞬間が好きだったのですね。周りからの期待に応えようとするなどして、本当のインナードリームをそれまで言えなかったりするので、「それが本当のインナードリームか?」と問かけるのです。
笹森さん:いま、世の中でも「自分の関心を見つける」などとよく言われますが、実際には、好きなことを見つけるのは難しいですよね。
中竹さん:そうですね。僕はこのインナードリーム探しを、ビジネスのトップにいるようなマネジメント層にもしてもらっていて、「子どものころに夢中になったパズル並のインナードリームを見つけてください」と言うのですが、なかなか見つからず大変ですよ。大人が本気で探しても半年はかかります。また経験によっても変化していくので、その辺も分かってくると、いいと思います。
笹森さん:インナードリームは、意味付けによるものでもいいのでしょうか。
中竹さん:意味づけは「やりがい」のためにはとても重要です。「やりがい」は、ほうっておいても夢中になったり没頭できるインナードリームと、「嫌いだけど、やることに意味がある」というような後から意味づけするもの、この2つか支えになります。何かを成すときには、この2つが揃うのがベストですし、もっと言えば、この意味づけとインナードリームが一体化するのがいいと思います。ただ、この2つを一致させるべきだとは思いません。嫌なことでも、意味づけしながら好きになっていくプロセスも、人の成長にとって大切なことです。ストレスを克服することに意義を感じるのも一つのやりがいですよね。
挫折 ― 自分のちっぽけさと向き合い、活かす
― 笹森さんは、子どもから大人まで、中竹さんは中高生も教えていると思いますが、幼少時と中高生になってからでは、挫折の頻度というか、その大きさが違うのではと思います。今回のサブタイトルは、「折れない心、くじけない心を育てる」ですが、そのようなご経験はありますか?
中竹さん:僕はもともと優秀ではなかったので、挫折はつきもので、それがデフォルトだという認識があり、小学生くらいの時にはそう悟っていました。挫折がスタートと言ったらいいのでしょうか。僕はラグビーだけが例外でしたね。
ラグビーにはたくさんのポジションがあり、足が遅くても、体が大きくなくても、うまくなくても、とりあえず気合いと根性さえあればなんとかなるのです。そいういう選手ばかりが集まるポジションもあるくらいです。僕は他のスポーツではだめだったかもしれないですけど、ラグビーにはそういう性質の方もたくさんいたことから、仲間意識を持ちながら続けることができました。
笹森さん: 僕も、そもそも自分に期待していないところがありました。「僕は優秀だ」などと思ったこともなく、ダメな人間だと思っています。今もそうです。ですから、ダメな人間から脱却するために何が必要かを考え、それに早く気づくことができたのがよかったと思います。
僕はよく、「音に芯が欲しい」と精神面のことを指摘された、音楽高校1年生か2年生のときの実技試験の経験を話します。今なら「地に足がついていないような、浮ついたような音なのだろう」などと分かるのですが、当時は何を言われているのかまったく分かりませんでした。
僕はもちろん練習はしていましたが、生きるという点では親のスネをかじっていたのです。それで、「芯を求めるためにどうするべきか」と考え、留学することに決めました。音楽の技術のこともありましたが、それよりも、外部との接触を断ち、本当に一人で生活することが目的でした。優秀だから留学したわけではありません。低時限にいる自分を成長させたかったのです。
会社でもそういう環境に恵まれました。いろいろな年代の人がいるなかで、入社したての20代というのは小学校1年生のようなものですし、自分はちっぽけなんだという事実に向き合う環境があったのはラッキーでした。僕の所属している花まるグループには、高濱正伸先生という教育界の巨人のような人がいますし、「教育という同じフィールドの高濱さんがこんなに頑張っているのだから」と自分を省みています。高濱さんの社長室の本は、1週間で10冊、20冊と変わっていきます。僕はそれを勝手にお借りして読んだりして、「読みました」と報告したりしていますが…。こういうスピード感で物事を進めている人がいることは、モチベーションになっていきます。
魂のこもった「言葉」― 世界の“一流”
中竹さん:音楽の世界にも、「芯があるかどうか」という視点があるのですね。
笹森さん:そうですね。演奏には、その人の人柄を含めた何もかもが出てしまいます。僕の先生は、門下の生徒の音が浮ついていると「恋人ができたでしょう」と指摘したりしていました。
これは、今僕が子どもたちを教えていてもよく分かります。繊細な子は丁寧に練習してきますから、緻密な綺麗な音を出します。また、活発な子はエネルギッシュで、粗さのある音を出します。その子のパーソナリティーが本当によく表れます。これは着飾っても隠せるものではありません。ですから、その子の音を聴いて練習方法や音楽の作り方を考えます。その子の人格形成にもアプローチができるのかな、という思いもあります。
中竹さん:スポーツでも、「魂を込めたパスを」と表現したりします。昔は「古い人が古いこと言っているな」と思っていましたが、目が肥えてくると、世界で勝っていく選手のパスには、これまで積み重ねた経験からくる魂がこもっているのが分かってきます。
また、ビジネスやスポーツのコーチングの世界では「問いの力」というキーワードよく出てきますが、この質問も魂が込められていると違うものです。
エディー・ジョーンズさんという、ラグビーの名監督がいます。2015年のラグビーワードカップで、強豪・南アフリカに勝利したことでも有名で、僕も一緒に仕事をしたことがあります。彼は、おそらく世界で一番プランニングに時間をかける監督で、選手ではなくコーチに、「プラン二ングをどこまでしたのか」尋ねるのですが、プランニングへの熱量がすごい人だけに、その質問に重みがあります。「プランニングって大事なんだな」とちょっと聞いた監督が言うのとは、えらい違いがあります。自分がひたすら考え続けた結果の質問だからですよね。それこそ、芯があって地に足をつけて向き合ってきた人の言葉です。僕は最近になって「重みというのはこうやってでるんだな」とやっと分かってきました。
心うちをさらけ出す―「言語化」の意義
笹森さん:今、「言葉」というキーワードが出てましたが、中竹さんは、「言語化すること」を大事にしていらっしゃいますよね。
僕の経験から、子どもの言語化は年齢によって違ってきます。低学年くらいまでの子にとっては、指導者側が総括して話す言葉が全てだと思います。子どもは自分が過ごした時間が一体何だったのか意外と分かっていないものですし、思っていることを言葉にするのも難しいです。例えば、「映画が楽しかった」と言ったとしても、実際は少し「悲しい」という思い ―もっと言語化すると、「哀愁」や「ノスタルジー」になるわけですが― もあったりするわけですが、それをうまく伝えることができません。
ところで、年中や年長くらいの子どもだと30分座っているのも大変です。音楽のイメージに、先生がヒステリックに怒っているというのがあると思いますが、実際子どもたちは「先生やお母さんに怒られたら…」という思いを抱えていると思います。
僕のレッスンでも、年少さんは5分も経つと「眠たい」とか「お腹空いた」と言い出します。これを「10分しか頑張れなかったね」と言ったら。「頑張れなかった」ことになってしまいます。それが、「眠たかったのに、 10分も頑張れたね」と言えば、子どもは、「僕は10分も頑張ることができたのだ」という、ある種の勘違いをします。
年少・年中さんに関しては、とにかく最後をハッピーワードで締めくくるのの大事ですし、これはお母さんとも共有します。ハッピーワードでレッスンを締めくくっていれは、子どもは少なくともその10分間は、レッスンを頑張れるようになります。
言葉で総括することの大事さは、大人も一緒だと思います。旅行で食べた最後の料理がおいしくなかったら、「楽しくなかったね」で終わるのか、「最後の食事は美味しくなかったけど、楽しかったね。」で終わるのかによって、人生訓は変わってくると思います。
年少・年中さんのレッスンのポイント…「ハッピーワードで締めくくる」
ただ、小学校高学年になるとアプローチ方法がまた別になってきます。例えば、もし「練習をさぼった」と見受けられた場合には作文を書かせるようにしています。
「なんで練習できなかったのか」という質問に対しては「忘れていた」や「時間がなかった」などど作文に書いてきます。しかしその後、「練習する時間が少しもなかったのか」という質問をします。すると、ここは皆、必ず、「時間はあった」と答えます。では「時間があったのに、何故練習しなかったのか」という質問を出したところで、皆書けなくなってしまいます。
僕は、高学年の子たちが嘘をついたり欺むいたりするのは健全な成長の証だと思っていますが、僕の定義では、高学年というのは「自分にもできないことがあるんだ」と世界の大きさを知る、幼児的万能感からの脱却からの時期でもあります。
ですから、今まで宿題ができていた子でも、高学年になると、「時間があったのに、何故練習しなかったのか」という、この3つ目の質問で躓きます。「お母さんに言われてできていた宿題が、一人ではどうしてもできない」ということがどうしても認められないのです。
僕は「やらなければならないと知っていたけど、面倒でしなかった」という言葉が本人から出てくるまで、5時間でも一週間でも待ちます。そして、「面倒で練習しなかった」「つい漫画を読んでしまった」などと本当の言葉が出てくると、半分くらいは泣き出します。本人の言葉として出てくることが重要ですから、僕から「面倒くさかったのでしょう」と言うことはありません。
幼児的万能感からの脱却の時期である高学年のレッスンでは…
「練習をさぼった」場合などには、本当の心内を見つめて自分の言葉で言語化できるまで指導者が根気よく待つ
中竹さん:心内をさらけ出すという事だと思いますが、これは相当重要なことですよね。
笹森さん:そうですね。先ほどのお話にもあったように、子どもたちが悪いことだと思いがちな「面倒」という気持ち事態は、自然なことですよね。ですから、「面倒という気持ちは誰にでも起こるものなのだよ」「面倒だと思いながらも、やるかやらないかで人生が変わってくるのだよ」ということを子どもたちと共有することが大事ですね。
中竹さん:今のお話は、子どもたちに限ったことではないかもしれないですね。僕は、チームボックスという会社を経営していますが、企業のエグゼクティブにもまったく当てはまります。「面倒だ」「出来なかった」「自分はサボり屋だ」と言いたくなくて、どこかしらで自分を正当化してみたり、「ごめんなさい。自分はだめでした」と言えないジレンマに陥ってますね。
笹森さん:僕は言語化について、花まるグループに育ててもらったという思いがあります。花まるグループでは、自分がやりたいことを毎日言語化して記事にするという習慣があり、また何百人の前で話をする、トーナメント方式の講演会研修など「言語化」の機会がたくさんあるのです。
僕は人前で話すのが本当に苦手でしたから、講演研修会で僕に与えられた15分間のために、徹夜で何回もビデオに録ったりしながら何日もかけて練習をしました。それで、割と早い段階で会社にその講演を認めてもらえたりしました。
それと、僕の言語化のルーツには、高校、大学の時に夢中になったラジオの存在もあると思います。高校生・大学生くらいになると、哲学や言語にのめりこむ時期があると思いますが、僕は社会学者の宮台真司さんに興味があって、彼の過去の動画やラジオを聴き漁っては、かっこいいなと思った言葉を全部ノートにメモしていました。これらが僕の言語化についての経験です。
中竹さん:言語化は大事です。僕は、コーチに対しても選手に対しても、講演会でも、これについてはかなり強調します。先ほどの笹森さんのお話にもありましたが、「今の気持ちは」と聞かれたときに、抱えている多くの感情のなかから、何を話したらいいのか分からないというのが実際だと思います。
僕はリーダー育成をするなかで、「物事を決定する力」の重要性を思っています。決定というのは、一個一個、自分がするべきことを明確にしていくことですが、この力を鍛えるのに一番手っ取り早いのが、「沢山の感情のなかから、一個一個選択して決定する」という「言語化すること」だと思います。昔からよく、人は役職によって成長すると言われますが、それは人前で話す機会が増えるからです。言語化すると決断力が高まるのですね。
ただ、僕は言語化が全てでではないと思っています。言語化すると陳腐化してしまう大事な思いや、感性などの言葉にならない領域もありますから。今の世の中、言語化して論理的に考えることが重要に見えていると思いますが、僕は言語化のトレーニングをすることで、非言語化の領域である感性なども磨かれていくと思っています。
笹森さん:音楽と言葉についてお話しますと、音楽は言葉に依らないほうが、より人に届けることができるという側面が間違いなくあります。一方で、「感性が豊かになる」という言葉に甘えてきたという側面もあると思います。僕は、この感性についてたくさん考えてきましたし、たくさんの定義を持っていて、アノネ音楽教室の子どもたちには、「美しさの基準」を持ってほしいという思いもテーマにしています。
人生を豊かにするのは、「何を食べるか」「誰に会いに行くか」など「いかに豊かな選択ができるか」によると思います。
よく例に出すのですが、朝昼晩とお菓子で育てたいと思う親はいないはずです。でも、子どもが「お菓子の方が美味しいから食べたい」と言ったときに、「ご飯のほうが美味しいと思いなさい」と言って、子どもにその気持ちを強いることはできません。
僕は意思決定の前に感性のフィルターがあると思っているのですが、その子が「したい」「欲しい」「見たい」と思った結果が、より豊かな選択になるためには「そもそも、本当に美しいものって何なのだろう」という根幹の感覚をキャッチしておく必要があります。この感覚をキャッチすために必要なのは、シンプルに「本物に触れること」です。一流のスポーツを観戦するのでも、映画を観るのでもいいと思います。どの音楽のジャンルにも本質的な音楽というのは存在すると思いますが、僕の専門のジャンルであることもあって、クラシック音楽はアプローチしやすいと思っています。何百年と聴かれてきて、またこれからも、何百年と残り続けるのですから。
アノネ音楽教室では、プロのオーケストラを呼んで一緒にアンサンブルをしたり、何千年も前からある、教会音楽で合唱をしてもらったりしています。「美しいな」と沢山感じるなかで、「美しさ」の価値基準がどんどん上がり、優劣によるものではない、自分にとっての豊かな選択ができるようになるといいと思います。この考えから教材作りもしていますが、子どもたちには「感性とは上手に選ぶための力」と伝えています。ありきたりな言い方ですが、本物に触れることは大事です。
中竹さん:そういう意味で言うと、スポーツも、小さ頃に本場で一流のプレーを観ると感性が磨かれると言います。一流のプレーは、やはり美しいのですよね。一流のプレーと自分の動きが連動したときに気持ちよさを感じたりすることが、インナードリームに繋がるということもあるかもしれません。
笹森さん:「美しい」ということ自体に、ものすごい説得力がありますし、「これしかないのではないか」という必然性も感じますよね。僕もずっとサッカーをやっていて、試合を観るのは今もすごく好きです。シュートのカーブや角度に、ついつい見とれてしまいます。ただ、野球のスライダーやカーブとなると、いくら観ても分かりません。
一流のプレーヤーになるために ― 言語化して次に繋げる
ところで、僕は『どんな個性も活きるスポーツ・ラグビーに学ぶ オフ・ザ・フィールドの子育て』を読んで、とてもしっくりきて勉強になったことがありました。僕も、子どたちに丁寧な練習をしてほしいときほど、「靴を揃えているか」や「カバンの中を整理しているか」など、中竹さんが重視する、オフザフィールドについて言及します。丁寧な練習をするために、いかに丁寧に取り組む時間を生活の中に増やすかを大事にしてきました。「そういうのは悪い」ということではないのですが、実際、日常生活と宿題の様子には相関があったりします。このような相関関係において、この本にある「言葉でプレーが上手くなる」という、この「プレー」と「言葉」が、具体的にどう関連しているのかと気になりました。「理路整然と話すことが、スマートなプレーに繋がる」など、そういう具体例でお聞きれきでばと思います。オンザフィールドでの意思決定が役立つというのは、とてもよく分かるのですが…。
中竹さん:言語化による成長については、いろいろな観点から言うことができます。
感じることは非言語でできますが、思考は言語化しないとできません。スポーツも音楽と一緒で瞬時に終わってしまいますから、その場で考えることはできません。ですから、何故そのプレーを選択したのかを自分で言語化し、次に備えることができる選手には、その後の修正をする能力があるということになるのですね。
ただ、一昔前は違いました。試合数も少なかったので、天才的・野性的な人が活躍できたのです。それが近代スポーツからは、荒くれ者のすごい人が見られなくなりました。何故かと言うと、スポーツが一発勝負ではなくなったからです。結局、しっかり振り返りをして、目標設定をし、どこで上手くいき躓くのか、といった自分のパターンを見抜かなければならなくなったのですね。この「パターン」というのは、だいたい言語化された思考から生まれます。
もっと細かくお話します。試合で勝敗が出た後の振り返りには、「試合でこうするべきだった」ということに考えを巡らせる「シングルループ」と、もう少し視野を広くして、試合の前のコンディションはどうだったのかなどを考える「ダブルループ」という2つがあります。この2つを考え出すと試合以外の時間のほうが、圧倒的に多いわけです。
これらは、言語化することで記憶となりますから、日々どうだったかのかを言語化することで記憶化し、それによって修正をかけて次に繋げていくことができるのです。自分のプレーパターンだけでなく、生活パターンも言語化できる人間が成長していくのです。
笹森さん:なるほど。よく理解できました。テニスやサッカーを見ても、一人の選手がトップに君臨する時間が長いですよね。僕はサッカーのデータの本を見るのが好きで、その選手のパスの数や率などを見ます。パスの数が少なくても成功率の高い人の市場価値が高かったりしますよね。音楽は、今のところ数値化やデータ化されるものではないので、うらやましく思っています。
中竹さん:データ化が進みましたから、僕が今、現役だったら辛いだろうなと思います。心拍数や食べたものまで24時間監視されていますからね。
言語化…瞬間に消えてしまうようなプレーも言葉にして書き起こすことで、「次への反省」として記憶に残すことができる。自分のプレーパターンだけでなく、生活パターンも言語化できる人間が成長していく。
ディシジョン・トレーニング ― 音とスポーツプレーの瞬間
笹森さん:音楽の美しい演奏というのは、ひとつひとつのディシジョンなのです。そのディシジョンですが、音楽は一瞬で音が消えてしまうので、実はその瞬間にディシジョンするのは難しいものがあります。ほぼできません。鳴っている音の文脈や、その前後のイメージしたりというのはあるものの、その一つの音をどんな音にしようかと決める余裕がないのですね。
ですから、練習段階でひとつひとつの音を抽出して、どういう音にしていくかを決めていきます。この作業が必要だから、1分や3分の音楽に、1ヶ月、3ヶ月、半年…と練習に時間がかかったりするわけです。ある意味では、練習した曲を聴いたときに、「悲しいな」という感情を抱くのは、すでにそう感じるように意味づけされていたものなのですから、当たり前と言えば当たり前です。ですから、ひとつひとつディシジョンしながら、いかに必然的な音を作っていくかは、音楽の成り立ちにとって、とても重要なことです。演奏のフィールドでは感じるだけです。
マイケル・ジャクソンのダンスが毎回異なることについて、インタビュアーが「何を考えているのですか」と聞いたことがあったのですが、それは愚問になってしまいます。本人は「考えることが一番のミステイクだ」と答えています。
「オフ・ザ・フィールド」を省みる
中竹さん:この「試合以外の時間」、僕の新しい本のテーマである「オフザフィールド」について、段階を追って説明したいと思います。
これまでのスポーツ観戦では、例えば球技ではボールの行方といった感じに、「ボールの近く」でゲームを見ていたと思います。ですから、昔はボールの近くで活躍する人に価値がありました。しかし、分析すればするほど、ボールに触らない人の価値が分かってきたのです。そこで、それぞれを「オンザボール」と「オフザボール」に分けるようになり、球団も、こちらにも大金を支払うようになるなど、この2つが良い均衡を保つようになりました。
また、大リーグでツアーをしますと、競技以外の時間のほうが圧倒的に長くなりますから、そこでのコミュニケーションや信頼関係などの重要性が分かってきます。ですから、スポーツ界では、このオフザフィールドをどう鍛えるかに注目が集まるようになりました。今僕は、競技のことを細かく指導するより、コーチたちや競技をやめた人たちにオフザフィールドの過ごし方を伝えています。
笹森さん:僕の分野で言うと、音大に行くような人たちはずっと練習をしているので、ある意味、「オフザフィールドがオンザフィールドだ」とも言うことができます。
僕が教えている子どもたちには、音楽家になってもらいたいわけではなく、音楽教室を巣立ったあとでも音楽は楽しいという気持ちを持てるようにしてあげたいと思います。子どもは、勉強が一番大事だと思いますから、優先順位としては、勉強をしっかりした上で、音楽の練習に取り組んでもらいたいと思います。『どんな個性も活きるスポーツ・ラグビーに学ぶ オフ・ザ・フィールドの子育て』には、ラグビーの練習時間は24時間中、2時間とありましたが、僕の教室の子どもたちもその通りで、オフザフィールドの時間のほうが、圧倒的に長いです。
僕が集団で音楽教室をやっていたときにも、宿題をやってくる子とやってこない子がいました。これは、年齢的なこともありますし、やってこないことが悪いとは一概に言えないのですが、そのうち、下駄箱の靴がひっくり返っいることと、宿題の質に相関関係があると分かっていきました。それまでは、練習の中でその子の演奏を整えれば心も整えてあげることができるのでは、と思っていたのですが、日々の過ごし方を整えてあげることが、練習などにも影響してくると感じるようになりました。
これは仕事も一緒だと思います。毎日仕事にかける時間は長いですから、この時間の態度や価値観が、オフザフィールドである日常にも活きてくると思います。
僕は、オン・オフを切り替えるというのが、あまり好きではありません。見えない所での自分が堕落していたら、仕事にも綻びがでますよね。ですから、オフザフィールドの私がいかに大事かということを思います。もっとも、そういう自分も出来ていないことはたくさんありますが…。僕は、いやいやながらも、走ったり筋トレをするなどして日常生活を意識しています。こういうトレーニングはストレスを伴います。連続して湧き起こる「やめたい」という気持ちを、意志の力でねじ伏せていくのですから、意志決定のトレーニングとしてもとてもいいと思いますし、僕はそれを楽しいと思います。
ですから、音楽の演奏を大事にしたいなら、普段の生活を大切にしなければなりません。
折れない心、くじけない心を育てるために
―「子どもたちのインナードリームを見つけよう 〜折れない心、くじけない心を育てる~」のテーマに沿って、いろいろなお話しをしていただきましたが、最後に、競技人生や音楽をしていくなかで大事にしてほしいことを、保護者の方や、また今回は、教育関係の方も聞いていらっしゃるということだたので、教育関係の方に向けてお話いただければと思います。
中竹さん:僕はコーチを教える立場ですが、伝えたいことはその人が体現していないとなかなか伝わらないものです。ですから、教える側がしっかり伝えたいことの本質と向き合うことが重要です。今回のテーマで言えば「自分のインナードリームって何なのだろう」「インナードリームについて考えたことがあっただろうか」という問いかけになると思います。その上で、正直に伝えてください。「私はインナードリームについて考えたことがなかったけれど、あなたにはあるの?」でもいいのです。また、笹森さんがお話なさっていた「大人でも面倒なことがあるのだ」というようなことも、大人がしっかり伝なければなりません。「インナードリームは持っているべきなのよ?あなたはないの?」という言い方ではなく、対等な立場で伝えてください。人は人の力を借りなければ成長できませんが、成長というのは、力づくの力によるものではなく、対等な立場での対話からなされると思います。
皆さんご自身のためにも、インナードリームを見つけていただければと思います。
笹森さん:今の中竹さんの総括が素晴らしかったので何ですが、僕からも一言お伝えしたいと思います。
自分に当てはめて考えてみますと、「できないな」「才能ないかもしれない」などと「挫けてみる」という経験は大事だと思います。僕には、それぞれ皆何かしらの弱いところがあるという前提があります。そこを素直に見つめることができれば、次の一歩に繋げることができます。また子どもに接するとき、等身大の自分を見つめられるように大人が並走できるといいと思います。お父さんお母さんがそうあれば、子どもも続いていくものだと思います。
―中竹竜二( Nakatake Ryuji )
株式会社チームボックス代表取締役
日本ラグビーフットボール協会理事
1973年福岡県生まれ。早稲田大学卒業、レスター大学大学院修了。三菱総合研究所を経て、早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任し、自律支援型の指導法で大学選手権二連覇を果たす。2010年、日本ラグビーフットボール協会「コーチのコーチ」、指導者を指導する立場であるコーチングディレクターに就任。2012年より3期にわたりU20日本代表ヘッドコーチを経て、2016年には日本代表ヘッドコーチ代行も兼務。2014年、企業のリーダー育成トレーニングを行う株式会社チームボックス設立。2018年、コーチの学びの場を創出し促進するための団体、スポーツコーチングJapanを設立、代表理事を務める。
ほかに、一般社団法人日本ウィルチェアーラグビー連盟 副理事長 など。
著書に『新版リーダーシップからフォロワーシップへ カリスマリーダー不要の組織づくりとは』(CCCメディアハウス)など多数。
2020年、初の育児書『どんな個性も活きるスポーツ・ラグビーに学ぶ オフ・ザ・フィールドの子育て』を執筆。
◆『オフ・ザ・フィールドの子育て』の紹介◆
本書では、「多様性」というキーワードに着目し、それを独自に育んできたラグビーに学ぶことで、子どもたちに多様性を身につけてもらえる、子育てをよりよくできるのではないかと考えました。教えてくれるのは、「コーチのコーチ」をしてきた“教え方のプロ"である中竹竜二氏。
さらに、花まる学習会を主宰する高濱正伸先生から、著者の考えに対して、
「子育て」や「学び」の観点から、適宜コメントを入れていただきました。
また、巻末にはお二人の対談を掲載し、ラグビーに学ぶことの意義についてご紹介しています。改めて「ワンチーム」という言葉の意味や、ラグビーが大事にしてきた「オフ・ザ・フィールド」という考え方を知ることで、わが子の個性をどのように活かしたらよいかを考えるきっかけとし、わが子が実際に輝ける場所を親子で一緒に見つけてほしいと思います。
“サンドウィッチマン推薦! "
ラグビーがなかったら、いまの俺たちはいなかったと思う。
「中竹さん、ラグビーから学んだことは、今に活きています! 」
― 笹森 壮大(Sasamori Sota )
桐朋学園女子高等学校音楽科(男女共学)を経て、桐朋学園大学音楽学部に入学し、2008年よりフランスへ留学。チェロを臼井洋治、倉田澄子、ほか、各氏に師事。2015 年、花まる学習会にて音楽教育部門「花まるメソッド音の森」を立ち上げる。また保護者向けの講演会も多数行っている。著書に『感性と知能を育てる 音楽教育革命』『幼児期だからこそ始めたい 一生ものの音楽教育』がある。
2019年、花まるグループから独立し、「株式会社グランドメソッド」「株式会社国際音楽教育研究所」を設立。2020年1月、音楽教室の事業名を「アノネ音楽教室」に変更。
◆『幼児期だからこそ始めたい 一生ものの音楽教育』の紹介◆
「音楽を通してより豊かな人生を」
「本物の音楽を楽しく学ぶ」
これまでの音楽教育に疑問を投げかけつつ、子どもたちの音楽教育に情熱を注ぐ、笹森壮大氏の著作。
□練習で「もう一回」って言っていませんか?
□練習が質の良いストレスになっていますか?
□回数を基準にした練習をしていませんか?
□お子さんは無意識に弾いていませんか?
□「弾けるようになったら終わり」だと思っていませんか?
ご家庭の練習にも参考になるヒントがいっぱいです!
“ジャズピアニスト・数学教育者 中島さち子氏推薦”
「魅力的な人を育てる」花まる学習会が始めた、とっても面白くて革命的な音楽教室「音の森」。代表笹森さんの、音楽・教育・人間に対する深くてまっすぐな視点は、これからの時代の人生や教育のヒントに満ち満ちています!