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妻に捧げるレクイエム No.13

ポツンと一軒家

    県道から脇に入ったところを、山間に広がる田んぼの中を山に向かって歩く。すると、草むらに覆われた小道が現れる。その先には幅の狭い登り道がある。簡素な石段が上に伸びている。登り詰めると、そこには小さな二階建ての一軒家が建っている。
 右手が建屋で、そのまま真っすぐ行くと毘沙門さまと地域で言われている祠がある。もう、これは妻の家のが暗黙のうちに管理しているようなものだった。
 だから、妻の家を毘沙門さまと地域の人は呼んでいる。本当に、一軒家である。周りは山林と少しの畑がひろがっている。その畑は、妻の父母が長年かけて作って来た土地だ。だから、愛着が当然ある。夏野菜などはうまく作っていたようだ。それと、直ぐそばに春には竹の子が芽を出す。
 現代人だったら、このような所で生活するのには、きっと目をむくであろう。当時としては戦後だから、なおかつ東京から疎開してきたから取り敢えずの生活がかかっていたのだろう。
 妻は、ここで長女として生まれた。
 不便極まりない場所だった。それは、ほとんど自給自足的な生活をしていたから、苦にはならなかったのであろうが、買い物は隣町までいく必要があった。幸いにも集落内にはよろず屋が一軒あって、少々のものはそこで調達していたようだ。
 「木田さん、木田さん」と言って、重宝していた。妻が高校の帰りに必ずといってそこに寄って食糧の調達をしていた。ちょうど、その近くに電車の駅があったので、帰り道というのはいい口実になっていた。今では、廃線になっている福井鉄道鯖浦線というのが走っていた。
 駅から家までは、1km位あったか。この道が妻の足を鈍らせたようだ。走ったり、都合よく知り合いのおじさんがいたり、高校生時代を涙と喜びを何度も背負いながら通ったのだ。
 進路を間違えた高校生時代は、この道を涙をこらえながら歩いたり、走ったり、時には後ろ向きになって振り返りながら自分を少しずつ強くしていったに違いない。

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