
mother’s history No.37 頭から、お説教をもらった。オリンピックは嬉しい。
いままでにない、お説教を食らった。
いやだいやだ、でもあんまりこたえないのが不思議なのだ。
その証拠に、折からのオリンピックに釘付けだった。
10月5日
久しぶりに日記を書く。
生物の時間、伸ちゃんとおしゃべりをしていたら、「山本」と、先生ににらまれた。肩をすくめて笑ってしまった。しばらくして、またしゃべり始めたら「まだ、分からんのか」と、どなられて、すごく怖かった。「そんなにしゃべりてんか。そんなにしゃべりてんなら外行ってしゃべって来い」。本当に怖かった。
あとで、数学と英語がHからGに代わるため、先生に呼ばれた。先生の前に出ると、おかしくて仕方がない。怒られるんだから、笑っちゃいけないと、いくら言い聞かせても、この締まりのない顔は、いうこと聞かない。でも、先生かって悪い。人の顔ジッと見ているんだもの‥‥‥。
では、先生のお説教を忘れぬうちに、記しておこう。
「山本、間所と仲がいいのはいいけど、あんなしゃべったらあかんや、しゃべったらあかんたかってしゃべってるんにゃ~、ほやさけ成績が下がってくるんや。中学校の先生が前に来て言うていたぞ、山本は入学試験の前のときも、のんきにしていて、いくらせいって言うてもせなんだって、ほやさけ、するように言うとっけて。うそやってか、先生うそなんてつかんぞ。山本は何分勉強しているんにゃ、三十分か! 一時間? ほんな少しではあかんぞ。何がおかしんにゃ、アハハハハもうよろしい。しっかりせいなあかんぞ」。
ほんとうに、女性的おごりだ。笑うなと言っても無理だわ‥‥‥。
調理のじかん、天どんを作った。エビを揚げたのもわりと美味しかった。あまり美味しかったので、家でも今度してみたいと思った。
これからまた、日記付け始めようかな、と思っている。
そして、来年の三月中に、この日記をつまらすのだ。
四月から、高校二年(落第しない限り)の生活を一日残らず記すつもりだ。
私の男性像(理想である)
一、身長 160 以上
二、色 日に焼けた黒い顔
三、思いやりがあり、やさしい
四、大きな気持ち
五、あまりよくしゃへらない(おしゃべりでない)
六、スポーツマン
私の理想の女性
一、美人よりかわいい感じがいい
二、やさしく、思いやりがある
三、明るい
四、人の相談にのれるような人
真夜中
カエルの声を聞きながら、日記を書く
妹の歯ぎしりの音
兄のかるいいびき
大きなガが、まどにぶつかっている、やかましい音
その中で、私は書く
先生にしかられ、ちょっぴり悲しかったこと
調理の時の、おいしい天どん
友達との、たわいない会話などが
頭の中をぐるぐる回る
ああ今日も、終わろうとしている
短いようで、ながかった、今日も‥‥‥
10月10日
1時4分の、死にそうな電車に乗って帰って来た時、テレビはオリンピック開会式の前で、騒がしかった。
早く食事をすませて見ていると、2時開会式が始まる。
最初は、行進曲が流れ選手入場、私は生まれて初めて見るオリンピックに、胸がわくわくして軽い興奮をおぼえた。ギリシアを先頭にアフガニスタン、アルジェリア、アルゼンチン、オーストラリア‥‥‥アルファベットの順に行進する。しんがりは日本チーム。水泳の福井誠選手が旗を持つ。赤のブレザーコートに白ズボンといういでたちの日本選手や、他の選手のいろいろな服装をカラーテレビで見たらどんなにすばらしいだろうと、少し悔しく思った。
もう少し発達していて、カラーテレビが全国にいきわたっていたらな‥‥‥。
45分もかかる長い行進がすんで、天皇陛下の独特な声で開会宣言。ついで、ファンファーレが響きわたり、芸術大生ら三百五十人による賛歌の合唱。すごく厳粛で、とつてもすばらしいと思った。
聖火の最終ランナー坂井義則君の聖火点火、小野喬体操選手が宣誓し、一万羽のハトが舞い上がる。ジェット機での五輪、美しく奏でる電子音楽、本当に素晴らしい。
参加国九十四カ国を祝するように、秋晴れのさわやかな晴れかただった。
オリンピック開催式を、見終わってから、八田の郵便局に朝電話でたのんでおいたオリンピックの記念切手を買いに行った。それは何とみんなで620円も買ってしまい、おこづかいがパーになってしまった。
でも、母には200円いくら買ったたけだ日記をと、言っておいた。
10月11日
“東京オリンピック開幕”と新聞やラジオ、テレビをにぎわしている。
今日、女子のバレー日本対アメリカの予選をやった。日本の”にちぼう”は、アメリカを全然寄せ付けず、楽々と勝った。ボートはしんがり。
女子二百メートル平泳ぎ予選で、日本の山本と森実がともに失格して、がっかりだ。
一日、することもなくぶらぶらと、過ぎてしまった。
もう中間試験だというのに、こんなことではいけないと思いながら、ほんとうにだめな芳美である。
今、テレビで水泳をやっている。