台湾人マダムが、語学のやる気スイッチをONにした
衛生管理者試験の前日のことだった。
夜7時くらい。
土砂降りで、雨と車が走る音が響いていた。
「エクスキューズミー」
かすかに聞こえた気がして振り返ると、アジア系マダム二人が立っていた。
「イエス。キャナイヘルプユー?」
「ソゴウ、イキタイ」
「ソゴウ、ドコ?」
日本語助かる~。
だけど、困った…。
千葉駅は、私も今日が初めて。
ペリエならわかるけど、そごうは自信ない。
正直に、アイアムストレンジャーヒアーっていうべき?
他に人はいない。
マダム達は困っている。
よし。Google Mapに案内させよう。
千葉そごうを目的地にして、ナビ開始。
「オッケー!アイフォローユー!」
かっこよくいったつもりだった。
が、マダムは「は?」って顔をしている。
あれ?英語苦手なのかな。
身ぶり手ぶりで一緒に行こうと伝えて、歩き始めてから気づく。
あれ、フォローミーの間違いじゃん。あなたについてくって言っちゃってるじゃん。
恥ずかしすぎてうつむきながら歩いていると、マダム①が話しかける。
「アイアムフロムタイペイ!」
台北…ってことは台湾か。
火鍋、小籠包、マンゴーかき氷!
めっちゃ行きたい!
頭をフル回転させて、遠い昔に学んだ第2外国語「中国語」を呼びだす。
「オウ!台湾!ウォーシーファン台湾!ウォーシアンチー台湾!!」
台湾好きだよ!台湾行ってみたいよ!!
と、言ってるはず。
合ってるかは知らない。
中国語を学んだのは、大学生のとき。
10年以上前のことなのに、覚えていて感動。
言いたいこと言えたぜ!と喜ぶ私の隣で、マダムは眼を丸くしている。
「ニーシー…ニーシー…」
勢いよく台湾語が溢れでる。
マダムはイキイキと、とても楽しそうにまくし立てる。
嬉しいけど、ほとんど聞き取れない。
中国語しゃべれるの!いつ勉強したの?くらいがかろうじてわかったけど、答えられない。
「ソーリー、ティンブドン」
「オオオオオオ!!!ティンブドーン!!」
マダムのテンションはさらに上がってより早口でまくし立ててくる。
「わかりません」のつもりで言ったんだけどな。
このマダムの盛り上がりよう、おそらく間違って使っているんだろうな。
ティンブドンはもう漢字も思い出せない。
「ティン」は「聞く」という意味だったと思う。
ネイティブの先生には、ティンシエ(リスニング?)が大事だってよく言われた。
全然練習しなかったからこのざまです、先生ごめんなさい。
「$#∧зδ&Ж¥Λσ!!」
盛り上がっていると、マダム②がなにか叫んだ。
振り返ると、マダム②はかなり後ろにいた。
マダム①は返事をして、立ち止まってマダム②が追い付くのを待った。
マダム①②はなにか話し合うと、私にスマホを見せた。
漢字7文字。
漢字なのに、繁体字になるとさっっっぱりわからない。
肩をすくめる私に、マダム①がいった。
「オウチ、イキタイ」
えええ?お家?
これ、住所なの?
「ソゴウ、ナ?」
尋ねると、マダム②は首を横にふる。
目的地は変わったらしい。
「ウーン」
マダム①がうなりながら、持っていたバックをガサゴソし始める。
「コレコレ!!」
取り出して見せたのは…Suica!
マダム②は印籠みたいにSuicaを構えてる。
「もしかして…千葉ステーション?」
二人は笑顔で頷いた。
よかった。やっとわかった。
おそらく、最初から行きたかったのは千葉駅で、そごうは目印だったんだろう。
ビックカメラが見えてきた。
千葉駅はもうすぐそこだ。
「千葉駅」の文字が見えると、マダム二人はJKみたいにはしゃいだ。可愛い。
「イェーイ!千葉駅~~!!」
私も仲間にいれてもらい、3人できゃっきゃっと盛り上がった。
エスカレーターの前で、マダム①②はそれぞれ私の右手と左手をガシッと握った。
「謝謝、謝謝~~」
「謝謝、謝謝~~」
ギュッと握った手が上下にぶんぶん揺れる。
「再見~~!!」と手を振って別れた。
ものすごく楽しかった。
十数分の出来事なのに、全身が充実している。
台湾人マダムのパワーすごい。
外国語を話すのって楽しいな。
日本だったら海外ほど緊張しないし、無料で練習できるし、人の役に立つ。
よく考えたらいいことづくめだ。
どうして今まで気づかなかったのだろう。
TOEICだけじゃなくて、中国語も学び直したい。それでHSKも受けたい。
いい点数がとれたら、ごほうびに台湾旅行に行くのもいいな。
台湾人マダムのおかげで、試験前の緊張がすっかりなくなった。
代わりに、語学のやる気スイッチがオンになった。
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