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海のふた 吉本ばなな

土肥へ旅行へ行ったのは、2年ほど前の話
弟が静岡の大学へ行っているので、会いに祖父母と母の車で出かけて行った

まだ祖父も元気だった頃

目の前に海が広がる観光宿に泊まって美味しいご飯を食べた
(それは、この本に書いてあるあの「薄い湯でも部屋付きの露天風呂をつけて」いる宿だったのかもしれない)

この本の舞台は西伊豆の土肥であるが、それを明記していない(と思う)
「遠くに見える清水」や「金山」はデートでは行かないとか些細なところにヒントを隠して、あとはどの海の街にも通じる風景で描かれている

しかし、舞台が土肥であることを知った時の喜び‼︎
2年という月日はなんと中途半端なのか
昔のようで最近のこと

山梨で見た雄大な富士
弟が乗ってきたバイクの赤
観光客が集まる金山のお土産屋さんの賑わい
朝焼けの海
清水からくるフェリーと
遠くなっていく土肥の港

確かに、廃れた観光地という印象は拭えない
けれどやっぱりそこに行こうという人がいて、その思い出は一生残り続ける

フェリーが港に着く時に、船の先っぽに人が出てきて港の方へ縄をかけていた
それを見て祖父は「あんなでかい船をあの人が人力で港に寄せているんだ」と冗談を言っていた

母はそれをずっと笑っていて

祖母を亡くしたはじめちゃんと
故郷を思う主人公のまり

観光地に住む人、というのはいつも私を想像の旅に連れて行ってくれる

あの青の洞窟で有名なイタリア、カプリ島のお土産屋さんの上に干されていた洗濯物

観光地にも人が住んでいて生活がある
私たちにとっては1日、2日の現実逃避の場所が、その人達には現実そのものなのだ

私たちが見ないのか、見せないようにしてくれているのか、その現実たるははっきりとは見えないけれど、あの洗濯物やフェリーのおじさんが不意に現実を垣間見させる

その時私は、夢の中で一瞬だけ目覚めてそしてまた夢の中へ戻っていく

後から思う時、あの一瞬の現実がより鮮明に思い出と結びついて離れない

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