⑫『投資詐欺』に引っかかり、約500万借金した四十路の末路@現在進行形-交番・警察署に駆けこむ・Ⅴ-
とりあえず持つものを持って、家を出た。
こちらとしては被害届を出すつもりでいるので、万が一、スマホのデータを取るから預からせてくれといわれたら対応できるように、予備のスマホも用意したしたし、おそらく必要と感じたので、印鑑も用意した。あとは運転免許証も。このくらいあれば、とりあえず対応はできるだろう。
電話があったのは、乗り換えのための電車を待つ駅でのことだった。
前の捜査が長引いていて、11時は非常に難しい。そして重ねての詫びになるが、私が空けられそうになくなってしまい、申し訳ないが代わりの者を2名用意するので、その者に伝えてほしい。同じ刑事課として事案の共有はできているので、13時に来署願いたいとのこと。
ぼくとしては聞いていただく立場なので、もちろんこれらの条件をすべて受け容れた。もとい、ぼくには拒否権がない。
しかし二時間ほどぽっかり空いた時間をどうしようかという問題は、解決せねばならなかった。寒空の下、ひたすら外にいて風邪でも引いてしまったら、それこそついていない。泣きっ面に蜂の状態になってしまう。
悩んだ挙句、警察署から少し離れたターミナル駅に行き、外食することにした。少し早いお昼ごはん。かなしいかな、こんな時でも食べたいと思ってしまう。食べたいは、しいていうなれば、そのまま、生きたいに転じるのだろうか。
しかし物の味はよく判らない。フードコートで食べていたのだが、周りの喧騒が、味をそっくりそのまま持っていったような気がした。ああ、このフードコートに同じような思いをしている人はどのくらいるのかなと、空想したりする。もしいるのであれば、警察署へのご同行を願えないものだろうか。
そしてようやく警察署に到着。
ついに被害の詳細を話す瞬間が訪れた。気持ちだけ勢いづいて、中に入ろうとしたのだが、……この日は自動ドアが壊れており、自ら開け閉めせねばならなかった。どこまでも間が悪い。不吉な予感しかない。
受付で名前と担当部署の名前を告げ、ベンチで待たせてもらうことにする。だいぶ前の午前中に、運転免許の住所変更のためにこの警察署を訪れたことはあるが、その際は多くのひとでごった返していた記憶がある。(3月の年度終わりのせいもあったかと思う)
しかし午後のいま、そこは非常に閑散としていた。お昼になると売りに来るのか、パン屋さんだけが忙しそうに受け付けまわりを行ったり来たりしていた。そんなことが気になるほど、あたりは静寂に包まれていた。
待つことしばし、階段から一人の男性が降りてきた。見た感じ、穏やかそうでお話をしたら聞いてもらえるだろうなという雰囲気を湛えていた。それはかつて「お金を取っただろ?」とのたまうような警官の風貌ではなかった。街ですれ違っても、警察官だとは見抜けないほど、おとなしい風貌をしていた。いわゆる警官の制服ではなく、普通にスーツを着用していたのもあるかもしれない。
とりあえず促されるまま、上階に案内された。
この時は別の案件で応接室が埋まっており、ぼくが案内されたのは、廊下に誂えられた簡易的な応接間だった。古い椅子と、木目調の机、コロナ対策の名残の透明なパーテーション……。とりあえず、来るとこまで来てしまったなという感覚がひしひしとこみあげてきた。
ちなみに奥の廊下には、なぜか四人の子供がわらわらといた。館内案内図を見てみると、留置所もあるようで……、仲間か兄弟が何かをやらかしたのかなと夢想したりもした。そしてその隣にはスマホに夢中の女性が一人。この人たちは関係者なのか、別グループなのか、結局のところよく判らないが、きっとぼくが遭った詐欺は、こうした無関心の心の隙間をうまく突いてきているように思う。
席を案内してくれた方は、もう一人の人間を連れてきた。
こちらの人間はスーツを着用しているが、なんというのか、スーツに着られている感じで、外回りが長い方なのかなぁという印象を受けた。
彼の手元には、先日、ぼくと○○交番でのやり取りが記された、供述調書があった。いくつか書きこみも見られたので、忙しい中、熱心に目を通していただいたのだと思う。
それを確認したうえで、ぼくは用意した書類をお二方に手渡した。
以下、生きていたら次回。
明日も生きていますように。
もうほんとうに死にたい。
自己破産、個人再生、そんなの知らない。もう疲れた。
ほんとうはこんなこと、ここに書いている場合ではないのかもしれない。