
⑲『投資ロマンス詐欺』に引っかかり、約500万借金した四十路の末路@現在進行形-消費者センターに駆けこむⅠ-
そして翌日。
消費者センターに向かうことにした。逡巡していても、状況は好転しない。悩んで好転するのであれば、すでに解決しているだろう。
消費者センターは市のはずれにあるので、自分の家からはなんだかんだで片道50分くらいは見ておいたほうがいい。とりあえず受付時間に間にあうように、そしておそらく少し人出が少なくなると見越してお昼過ぎに家を出た。
平日の昼間の地下鉄は、結構空いていて快適。
しかし心は重たくて、気分は全く晴れませんでした。乗り換えると、地下鉄は地上を走るのですが、地上をひた走り、海が見えてきても、気分はどんどん落ちこむばかり。月並みの表現で例えるなら、出口の見えないトンネルを延々と歩かされているみたいな感じでした。
消費者センターはの最寄り駅に到着。
そして気づく。
この施設、何度も来たことある!!
消費者センターのことではない。
消費者センターがテナントとして入っている建物は、普段から催し物が多く開催されていて、何度も足を運んだことがある場所だったのです。
灯台下暗しとは、まさにこのこと。
ひとはほんとうに、意外と何も見えていないのだと実感いたしました。
消費者センターは上階にあるとのこと、というか、「消費者相談センターはこちら」とでかでかと書かれていた。……つくづく周りが見えていない、いな、見ていないぼく。何度もここ、通ってるのに……。
上階はひっそりしていて、なんというか、うまくいえないのだけど、薄暗い負の空気がうら寂しく漂っていました。階下はガラス天井のせいもあるだろうけど、海辺で、イベントもあるときはひと通りも多くて華やかなのに、少し階段を上がっただけで薄暗くなり、いっそ何事もなかったかの如く帰りたくなるくらい……。
しかしそうもいっていられず、とりあえず矢印が指し示す部屋に突撃。
受付の方が出迎えてくださった。
「こんにちは。どうされました?」
少し年配の女性は、柔らかな声音で尋ねてくださった。
もう何度語ればいいのか、とりあえず投資詐欺に遭ったと伝えると、どこに住んでいるかを訊かれた。どうも市外の人はここで受け付けるらしいが、市内の人に関しては、隣の部屋にて相談を受ける仕組みになっていたようである。
ぼくは市内在住のため、その女性に連れられて、隣の部屋に案内された。
「市内在住の相談希望者です」
先を行く女性が、隣の部屋の受付の方に軽く申し入れをする。きっと彼女らにとって、こういう出来事は非日常ではなくて、日常なのだろう。
「了解です」
隣の部屋で待機する受付の方も、手慣れた感じで対応していた。
とりあえず受付用紙を渡され、個人情報や(住所は区まででよく、すべてを記入する必要はなかった)、相談内容を書いて渡すと、しばし待つようにいわれた。
そこの待合室は、電気の力もあり、割かし華やかで、一見すると図書館と見まがう出来栄えだった。しかし図書館と違うのは、置かれているサッシやリーフレットがいささか物々しいというところだろう。
「個人再生をお考えの方に」
「一人で借金の悩みを抱え込まないで。大切なのは命です」
「こんなメールには要注意!!」
などなど、ぼくの胸にざくざく刺さる冊子のオンパレードかと思いきや、食品衛生に関する冊子、自然環境に関するDVDなど、とにかく消費生活にまつわるサッシやリーフレットが所狭しと並べられていた。しかしそれらが決して雑然と感じられなかったのは、もしかしたらここの職員さんが「消費者センター」の敷居を下げるべく、努力をしてくださっているからかもしれない。
実際に、はた目には、ここが消費者センターだと気づく人はいないだろう。そのくらい、冊子やリーフレットが多い割には洗練としていた。
しかし、パーテーション越しに事務所があるのだが、電話はひっきりなしにかかっている様子で、対応に苦慮する職員たちの声が漏れていた。皆、どのようなことで電話しているのか、詳細をうかがい知ることはできないが、果たしてどんなことを抱えているのか、少し興味がある。
その中でもぼくは、悪質度は高いんだろうなぁ……。
漠然とそう考えていたところ、ぼくの名前が呼ばれた。2番の部屋でお待ちくださいとのこと。
いわれたとおり、待合室の奥に案内されると、個室が二つあった。ひとつは使用中のようで、きっと誰かがぼくと同じように悩みを抱えていて、打ち明けているのだろう。
個室は結構狭い。椅子に腰かけると、背後の壁にほぼ密着するような感じである。白い壁で四方囲まれた空間は、もしかしたら閉所恐怖症のひとは圧迫感に押しつぶされるのではないかと思えるほどだ。
職員のスペースと区切るように、コロナ対策が施されたパーテーション付きの机が真ん中に鎮座していた。
「大声をあげるひと、職員を威嚇する行為が確認された場合は相談を打ち切ります」
「一人30分以内でお願いします」
明朝体で書かれた、少し物々しい文言に息をのむ。
待つことしばし、ようやく担当の方が現れる。
こちらの女性も物腰が柔らかそうな、小柄な女性が現れた。さっそく名札を見せて、「〇〇です」と名乗ってくださった。
ぼくは最悪の経験をしているが、いまのところ、それに対応してくれる職員の対応は総じてていねいなのが救いだ。
さっそくぼくは、ことのあらましを伝えることにした。
以下、次回。
明日も生きていますように。