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24『投資ロマンス詐欺』に引っかかり、約500万借金した四十路の末路@現在進行形-法テラスに向かう・I-
(承前)
できるだけ何もない日は、あまり考えすぎないように寝て過ごした。
もう起きていても、あれこれ考えてしまう。ああ、親になんと言おうとか。
こんなことになるなら、生活保護をかつて受けた段階で自己破産しておけば良かったとか……。生活保護を受けて、病気も治したのに、ここに来ていまの職場が合わずに再発して、休職して、家を買ったのに追われる危機に瀕して……。ほんとうに自分は何をしたのか。生きているのが日に日に嫌になる。
そして法テラスに行く日がやってきた。
寝覚めはもう最悪である。一日のバイオリズムが崩壊し、薬のせいもあり、起きているのか寝ているのか、起きていてもよく判らない有様である。しかしせっかく取れた予約をドタキャンするわけにもいかない。最低限の身だしなみを整えて、読んでもらう資料は一式揃えて、家を出ることにした。
昼下がりとはいいながら、法テラスは街の中心部に向かうので、地下鉄はけっこう混雑していた。スーツを身にまとい、関係先に向かう人もいれば、大きなスーツケースを片手に聞きたくもない韓国語をまくし立て(※韓国語には罪はございません)、観光を楽しむ外国人が入り乱れている。余談だが、ぼくはこの路線があまり好きではない。いろんな意味で混沌としている。
予定よりもだいぶ早く着いたので、川沿いの公園でしばしぼんやり待つことにした。水の都とはいいながら、清らかな川の流音は往来を激しく行き交う車の振動にかき消されてしまい、聴くことができない。ぼくも今後どうしていきたいのか、胸の内に問いかけてみるも、まったくもって方向性が見えてこない現状にどことなく似ている。
オフィス街ということもあり、結構な人間が行き来していたが、果たしてその中でどのくらいの人間が任意整理をして、個人再生をして、自己破産を経験しているのだろうか。単純に少し興味は湧いて、道行く人をそれとなく観察してみたが、当然ながら判るはずもなかった。しかしもし経験者がいるなら、話を聞きたい衝動には駆られた。
時間も近くなったので、法テラスがある弁護士会館に向かうべく、川を越えて向こう岸に歩いて行った。
当然、というか、ぼくは法律関係の施設は法務局しか行ったことがないため、どのような雰囲気なものかとビクビクしていたのが正直なところだった。
しかし入り口をくぐってみて唖然。ここは全てがガラス張りになっていて、うまくいえないのだが、透明性が担保されているような空気を感じることができた。そして、これは弁護士会館なので、あとで考えれば当たり前ではあるのだが、何かしらの法律相談で訪れている市民が(時間帯のせいか、女性ばかりだったが)、ロビーのあちこちで確認できたのが意外ではあった。
抱えている問題とは対照的に、ロビーには太陽光が降り注ぎ、健康的なまでに明るい。少しでも利用しやすいように配慮されているのだろうか。何度かこの会館の前を通りかかったことはあるが、これほど明るく、むしろ親しみやすさすら醸しだす雰囲気は意外すぎた。あまりにもギャップがありすぎる。
法テラスは、ロビー中央の入口を入り、一番奥にあるというのは事前に聞いていた。向こうも判りやすく、「法テラス窓口」と書いた看板を出してくれていたので、迷うことはなかった。
一人先客がいたので、中の待合で待っていたのだが、すごく派手な風貌の方が自己破産だ、個人再生だ、みたいな話をしていたので、たぶん買い物のしすぎで首が回らなくなったのかなぁと思いながら、しばし様子を眺めていた。でもこの人はものは手元に残るんだよなぁと、不謹慎だが、正直、羨ましいと感じたのも事実だ。
ぼくは個人再生をしたら、借金は減額はされる。
しかしそのほとんどのお金は騙し取られたお金、つまり自分が使っていない物に対して労働の対価を払うことになるのだから、なんだかそれはそれでやるせない。家も手放した方がいいのだろうか。……いまはあまり考えないようにしよう。
自己破産検討中の方の話題がひと段落した頃を見計らい、ぼくは受付に行き、予約をとっている旨を伝えた。
すると一枚の紙を渡された。
面談の申込用紙である。
住所や氏名、および所得状況などを書きこむ欄があり、最後に相談内容を書く欄がある。記入見本には、相談内容も多種多様で、離婚、相続、借金などなど、さまざまな人生模様が垣間見られる仕上がりになっていた。
ほんとうにここでは、いろんな悩みを抱えたひとが駆けこんでくるのだろう。法律問題の最後の駆けこみ寺かもしれない。
さて、待つことしばし、ぼくの名前が呼ばれた。
「5番の部屋に行ってください」とのこと。
廊下に案内されると、手前から1,2……と番号が振られていて、各々の部屋で弁護士と市民があれやこれやと相談していた。
5番は一番奥の部屋だ。
いったいどんなひとがいるのだろう。
よりによって5番の部屋は、ドアが閉まっていて、中の様子もわからない。
とりあえず深呼吸して、ぼくはそのドアをノックした。
以下、次回。
明日も生きていたら。
日に日に絶望感しか募らないよね。