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【早産児の生理学】「早産児はCaが下がるんだよ」

うちのNICUでは新入院があったときには朝の時間を使ってショートカンファレンスをしています。ここのところ立て続けに32週-34週のお子様が生まれてNICUがいっぱいになりました。そうすると必然早産児の生理や管理について若手の先生に色々お話しする機会が増えます。そんな中での一コマ。
私「早産児はCaが下がるんだよ」
研「どうしてですか?」
私「Caは母体から胎盤経由で胎児に移行するので、胎児の副甲状腺機能は抑制されてて、生後はその影響で下がるんだよ」

 うーん、我ながら曖昧な表現。医学的表現をするなら
「Caは母体から胎盤を通過して(あれ?能動輸送でだっけ?)胎児に移行しており、胎児の副甲状腺機能は抑制されている。出生後早期は胎盤からのCa供給は途絶えるが、新生児副甲状腺機能の抑制は続いているので(どのくらい続く?)、PTH分泌によるCa上昇が遅れることで低下する」だと思うけれど記憶が怪しいため、お茶を濁したというのがホントのところ。ということで確認してみました。


胎盤でのCa移動

 受動輸送と能動輸送のうち、能動輸送が主体。妊娠初期は母体の血中Ca濃度は高めとなるが、2-3rd trimesterでは母体の血中Ca濃度は低く、濃度勾配による受動輸送では胎児発育の進むこの時期の胎盤を介した胎児へのCa供給の説明ができない。2-3rd trimesterでは母体の活性型ビタミンD3濃度は上昇する一方でPTHは妊娠初期より抑制されている(産褥期にPTHは急上昇する)。ビタミンD3による母体の腸管からのCa吸収が中心になり母体の血清Caを高めに保つのだろう。胎盤での Ca の能動輸送には PTHrP(胎盤が産生)、TRPV6 (transient receptor potential vanilloid type6)が関わり、授乳中のCaの動員にはPTHrP(母乳中に含まれる)、RANKL (receptor activator of NF-κB ligand)が重要とされる。
 なお、胎児期のリン輸送に関してはその機序は明らかではないが、FGF23 が臍帯血で低値であることから、胎児期における母体のFGF23の働きが解明されると理解が進むのかもしれない

小原範之ら, 妊娠とカルシウム代謝:日内分泌会誌. 62. 784~796. 1986
大薗恵一, 主要な生体調節臓器としての骨:生産と技術  第63巻 第3号. 2011


早産児のCa関連代謝

 表にあるとおり、早産児は日齢1-2にかけてCaは低下しているが、そのころにはPTHは上昇していることがわかる。しかも早産児の方がPTHは高値である。ということはその時点では早産児であっても副甲状腺は正常に反応していることがうかがえる。つまり、早産児にしろ正期産児にしろ出生早期は副甲状腺の機能は抑制されているが、生後24-48時間のころには抑制はもう解除されてるのだろう。

LAURA S. HILLMAN, Pediat. Res. 11: 739-744 (1977)

なお、早産児以外に低Ca血症になるのは呼吸障害、糖尿病母体から出生した児、新生児仮死が代表的である。仮死の低Ca血症ではCa負荷により神経細胞障害が助長されるためCa補正はよほどの場合ではない限り行われない。

こういう生理学的な内容の文献は古いものまで遡らないといけないことが多い。温故知新は大事だと最近よく思う。 記 2020/10/20

 


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