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【産科付属児編】全身診察:頭部
早期母子接触をしてもらう前には、あらかじめ指の本数や顔貌、背部を含めた外表奇形がないかどうか軽く確認しておくことが大事です。後から一通りの全身診察をする時間は取れますので、その時点ではパッと見でわかる範囲で構いません。ゆっくりと親子の触れ合いの時間を過ごしてもらった後は、計測をしたり全身診察を行ったりしていきます。
新生児の計測は4計測(体重、身長、頭囲、胸囲)です。小児の健診から胸囲が外れて久しいですが、新生児では体幹上部の発育状態を知る方法として古くから行われています。個人的には胸囲がすごく役に立ったという経験もなく、本人の胸郭を見るのが手っ取り早いので形式的な意味が大きいように思います。身長、体重はその後の管理や低身長の治療ともかかわってきますので必要です。4計測の中で最も興味を持ってもらいたいのは頭囲だと思っています。頭囲の発育と発達には相関があります。脳組織のDNA量は頭囲と相関がありますので、知的な発達と関連があることは当然でしょう。頭囲計測は2種類あります。顔面頭蓋と脳頭蓋の頭囲です。通常新生児の頭囲測定は顔面頭蓋で行われます。後頭結節と眉間上部を結ぶ線で測定します(下図)。
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一方水頭症や頭蓋内圧亢進がある乳幼児の頭囲は脳頭蓋を測定します。脳頭蓋の頭囲は後頭結節と前頭結節(額の最も突出している部位;眉毛と髪の生え際の中間あたり)で計測します。頭蓋内圧亢進では顔面頭蓋の変化は少なく、頭囲拡大を評価するには脳頭蓋を測る方が鋭敏です。前頭結節には眉毛のように目印になるものがなく、日によって測る場所がずれてしまっては困りますので、額に油性ペンなどで目印をつけておきます。蛇足ですが、頭蓋内圧亢進で見られる症状として落陽現象が有名です。しかし、実際には落陽現象は正常新生児や早産児、急性ビリルビン脳症の初期症状の一つとしてもみられますし、頭蓋内圧亢進初期にはみられず他の明らかな頭蓋内圧亢進による症状が出現してようやくみられるようになりますので、診断的価値は高くありません。落陽現象は姿勢による誘発と光を使った誘発が有名です。姿勢による誘発は、頭部を垂直位から水平位に急激に変化させるとみられますが、定頸していない新生児に行うのは慣れていないと正直危なっかしいです。光による誘発は、眼球に光を当てておき、それを急に除去すると誘発されます。
頭部は視診と触診で見ていきます。見た目に腫瘤、変形がないかどうか、特徴的な毛髪がないかを見ます。骨盤位の児の頭頂部は扁平なことが多いです。次に全体的に触診していき、骨重積、大泉門の大きさ、産瘤、頭血腫、帽状腱膜下出血の有無を確認します。啼泣している児の大泉門は緊満しますので落ち着いた状態で触れる必要があります。泣き出す前に済ませておきたい診察は心音の聴取と大泉門の触診です。大泉門の陥凹や膨隆、張りを確認するように正書には書いてありますが、その判断は新生児の専門医でも正確に判定できる人は多くはないでしょう。これは普段からよく触れていて、かつ実際に髄膜炎や頭蓋内圧亢進の児の大泉門の張りを体験して初めて判断しうる難易度の高い診察です。身体診察はアートの世界の要素も大きく、そこを目指すよりは他の所見を頼りに判断する方が近道です。しかし、大泉門とその周辺の骨を触れた時の感触は頭蓋癆の発見には役立ちます。骨が薄く大泉門が大きく頭蓋縫合の隙間も大きいときには頭蓋癆が疑われます。産瘤と頭血腫は生後早期には区別しにくいときがあります。これは数日たてば判断が付くようになりますし、頭血腫自体特に何か治療するものでもありませんので、最初に区別できなかったとしても何ら問題は起こりません。しかしながら、帽状腱膜下出血は早期発見しておかないと出血性ショックやDICにつながることがありますので、頭部の広い範囲に触れるブヨブヨした感触は見逃してはいけません。
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帽状腱膜下出血(右) 広範囲の膨隆とブヨブヨした感触で波動を触れる
付属児編、書いてみましたが極論のあまりでてこない、ごく普通の内容になりそうです。