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【産科付属児編】出生後早期の母子接触の利点と注意点

 出生後に一連の蘇生処置が済み、安定した状態が維持できるようになったら、そこから先は各施設ごとにどのように進めるかは違います。体重測定が先に来るところもあるかもしれませんし、なるべく早く母子接触を図るところもあるでしょう。現在は早期母子接触(Skin-to-skin contact, STS contact)の利点が強調されていますので、母親に抱っこしてもらう施設の方が多いのではないでしょうか。
 生後早期に重要なことの一つに「保温」があります。保温はウォーマで行うか、母親の胸の上で肌と肌のふれあいをしながら行います。タオルにくるんで抱っこさせてもタオルに熱を奪われてしまい保温が不十分になりますし、この時期にしか得られない折角の早期母子接触の効果が薄れてしまいます。早期母子接触は人間の動物的な原始的感覚=触覚、嗅覚、聴覚を刺激することが重要です。色々な報告がありますが、分娩後すぐに預かり1時間後に抱っこさせた場合と、分娩後早期にSTS contactを行った場合では母乳育児の成功率やその後の育児行動スコア、育児困難感の軽減等の改善がみられます。また、同じSTS contactでも、その最中に母親の乳頭を児に吸啜してもらう方が上記の効果が増すことも示されています。これは人間が持つ動物的本能に基づいた(生物学的にプログラミングされている)育児行動を強化する仕組みと考えられます。そこに分娩前後で分泌されるオキシトシンとβエンドルフィンが影響していることも報告されています。こういう話をすると、否定的な立場でそんなことをしてもしなくても虐待が増えたりするデータはないじゃないか、という意見の医師もいます。人間は理性で子育てを行うことができ、育児を続けるうちに子どもとのBondingが強化されていくことも大半の人はできますので、表に出てくる結果だけに注目すればそうなのかもしれません。ですが、出産後にSTS contactと吸啜という簡単なことを行ってもらうだけで母親の心理的障壁が減るのであればそれでいいと考えます。産後の不安が強い時期にこういった生得的な能力を利用することで心の余裕が増え、子供がかわいい、子育てが楽しいという気持ちが得やすくなるのであれば、行わない理由もないと思うのですがいかがでしょうか。ただしSTS contact中に児が急変した症例のほとんどは生後2時間の間に集中していますので、パルスオキシメータ等をつけて観察者が近くにいて注意を払っておく必要があります。また、産後の母と子を2人きりにして信頼できる支援者・観察者がそばにいないとその後の母乳育児がうまくいきにくいという報告もあります。バーストラウマを起こすことがありますので出産後は母親が信頼できる人が側についておき、安心できる環境で行ってもらうのが良いでしょう。また、STS contactで児と接触すると、顔が青ざめたり、辛くなって抱っこし続けられない母親がいます。そのような母親はそれまでの人生で何かしら子どもや親子関係でつらい記憶を抱えていることがあります。そうするとその後の育児がつらく大変なものになることが予想されますので、母親の抱えているトラウマを解消し母子のボンディングを強めるような支援が重要になります。ある意味STS contactが育児困難を抱えやすいかどうかの踏み絵になるということです。そんな人が本当にいるのか?ということについては周産期メンタルヘルスのところで書いてみたいと思っています。

 生後早期の低体温には弊害があります。低血糖や消化管運動の低下が言われています。新生児の熱産生は筋肉のシバリングによる熱産生は起こらず、褐色脂肪細胞によって行われます。褐色脂肪細胞は脂肪を燃焼させることで熱産生を行いますが、実は初期には脂肪ではなくグルコースを利用して熱産生します。そのため低体温は低血糖につながります。また、消化管運動が低下することで哺乳がなかなか進まず嘔吐しやすくなることが考えられます。そうすると血糖を維持させるための早期授乳もうまくいきにくくなり、より低血糖のリスクが高くなると考えられます。そのため出生後の新生児は体温保持をしっかりと行っておいた方がよいのです。

【極論かましてよかですか】
 早期母子接触は重要だが、急変しないか観察が必要
 早期母子接触は原始的な感覚が大事
 早期母子接触に耐えられない母親もいる
 保温をしっかり行い低体温を避けなければならない

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