【NCPR編】気管挿管の極意、喉頭鏡は指で持て
NCPRでは気管挿管の場面として6つ挙げられています。①胎便の気管吸引、②人工呼吸がうまくいかないとき、③(長時間の)胸骨圧迫、④アドレナリンの投与経路として、⑤横隔膜ヘルニアやサーファクタントの投与、⑥長時間の人工呼吸です。
①の胎便の気管吸引は2005年のガイドラインまでは羊水混濁のある児が出生した場合、泣き出す前に胎便の気管吸引を行うように記載されていました。現在の気管吸引の考え方としては、熟練した者がやってもいいですが、やりなさいということではありません。これは胎便吸引症候群の予防としての効果がはっきりせず、人工呼吸による蘇生の方を優先するべきという考えに基づきます。「ルーチン」で行う必要は全くありませんが、どうしても行わざるを得ない場面もあります。それは気管の閉塞により人工呼吸ができない場合です。この場合には気管挿管を行い気管吸引をする以外に換気を確立する方法がありません。このような状況には滅多に遭遇することはありませんが、頭の片隅に留めておく必要があります。ガイドラインを曲解して、「気管吸引をやってはいけない」と思い込まないようにしましょう。あくまでもルーチンの気管吸引はしない、ということです。
④については胸骨圧迫を行い、薬剤投与経路がないときには③と合わせて気管挿管を行い、アドレナリンの気管内投与を行うことができます。2020のガイドラインで注釈が尽いておりますが、気管内に薬剤を注入した後は何度かバッグで換気を行い末梢気道に薬剤を行きわたらせる手技が必要になります。NCPR講義の動画では注入後すぐに胸骨圧迫を開始しておりますが、そうすると薬剤が気管チューブを行き来することになってしまいます。NCPRの講義動画は見本としていくつかマズい点があります(喉頭鏡が上唇をひしゃげさせていたり、人工呼吸の回数が多かったり、胸骨圧迫の部位が高すぎたり等々)。アドレナリンの気管からの吸収は緩やかでピークまで8分ほどかかりますので、静脈路が確保され次第、アドレナリンの静脈投与をすることになっています。
⑤の横隔膜ヘルニアは最近はほぼ胎児診断がつきますので、生まれて慌てる状況は滅多に遭遇しませんが、人工呼吸を行うと胸腔内の消化管が拡張し、胸は膨隆、腹部は陥凹という見た目になることが有名です。疑われた時点で気管挿管を行い、消化管に空気が送られないようにしなければなりません。
⑥の長時間の人工呼吸を要する場合には気管挿管を考慮しても良いとされています。気管挿管の手技は20秒以内に完結する必要があります。この20秒は新生児の無呼吸の定義にある時間です。20秒以上要する場合にや徐脈・SpO2低下がある場合には、一旦手技を中断し、人工呼吸に戻って状態を安定させてから再度試みることになります。NICUで5年勤務している医師で平均15秒、10年勤務している医師で平均10秒気管挿管に時間がかかるという報告があります。時間を無駄にせず有効な換気を継続するという意味では、熟練者がくるまで人工呼吸をしっかりと継続するという判断が良い結果につながる可能性もあります。ただし人工呼吸を長時間行うと、胃に空気がたまり横隔膜を圧迫してくるため、胃管を挿入して適宜脱気をしておくことが大事です。新生児は肋骨が背骨に対して垂直に走っており、肋間筋を使用した胸式呼吸がしにくい解剖学的な胸郭構造のため、横隔膜の収縮が主体となる腹式呼吸になります。そのため、膨満した胃により横隔膜が圧迫されることで換気量が減少してしまいます。
【極論かましてよかですか】
胎便の気管吸引は推奨されないが、しなければならない場面がある(積極的にやりなさいではない)
アドレナリンの気管内投与は吸収が遅い。静脈取れたら即追加投与
人工呼吸継続時は胃管で腹部膨満を軽減せよ
続いて、気管挿管を行う際のコツについて解説していきます。成人の喉頭展開でも同様の考え方をしますが、上気道には①口腔軸、②咽頭軸、③喉頭軸の3つの軸があり、喉頭展開ではこの3つの軸をできる限り重なるように姿勢を整えることが重要です。新生児の喉頭展開と挿管は成人に比べて非常に簡単です。その理由は、喉頭の位置が高いため、舌を持ち上げるとすぐに喉頭のスペースに到達するからです。成人ではそうはいきません。かなり深いところまで喉頭鏡を進め、かつ力を入れて持ち上げなければ喉頭のスペースが現れないのです。下図を見比べてみてください。
成人はかなり頭部を後屈させなければならないことが分かります。また、挿管者の視線の点線を辿ると喉頭鏡のブレードを横切っており、喉頭鏡のカーブの延長に喉頭が位置しています。ここを見るためには喉頭鏡を上に持ち上げなければならず、喉頭が見えた場合でも、目の前ではなく上の方に喉頭が位置していますので、挿管チューブをまっすぐ進めてしまうと食道に入ってしまいます。スタイレットでチューブの先をしっかり曲げて固定しておかなければ上の位置する喉頭には進んでいかないのです。成人で輪状軟骨を圧迫して喉頭を下方に下げるBURPを併用することが多いのはこのためです。
新生児の気道確保は肩枕が基本ですが、気管挿管時には肩枕では喉頭が見にくくなりますので、頭枕にしましょう。枕なしでもよいですが、頭枕にした方が、舌を持ち上げた時に喉頭軸が視線の軸と重なりやすくなります。そして、新生児の気管挿管が上手になりたければ、喉頭鏡は握り持ちではなく指持ちを強くお勧めします。成人と異なり新生児の挿管には左手の力はほとんど必要としません。女性の指の力だけで十分です。最初から指で持つようにして練習しましょう。
握り持ちは舌を持ち上げるときに手首を返してテコのように喉頭鏡を手前に倒しやすいのが失敗の原因です。そうすると上顎・上口唇を傷つけますし、視線の軸が倒れてしまいますので自分がかがまないと見えません。挿管者の姿勢がだんだん悪くなっていったら喉頭鏡を手前に倒しているはずです。また、喉頭蓋をうまく持ち上げても、喉頭鏡と挿管者の手と児が一体化していませんので、ブレードが前後左右にずれやすく、せっかく喉頭が見えてもちょっとした体動や自分の動作で外れてしまうことがあります。新生児でもBURPをすることがありますが、成人と違って的が小さいですので、ちょっとした動きで喉頭蓋がブレードから外れますし、あとほんの少だけし押したり引いたりすれば見えるのに!というようなときの微調整は他者によるBURPではできません。それくらい微妙な位置調整で成否が決まります。
一方、指持ちは自由になる指があります。自分は喉頭鏡を口に挿入した後は親指と人差し指で喉頭鏡を操作し、中指と薬指はIC法もしくはEC法のように下顎に当てて下顎挙上します。そうするとブレードで舌を持ち上げる力の方向と下顎挙上する力の方向が逆向きになりますので、喉頭展開にほとんど力が要らなくなります。また、下顎と舌を喉頭鏡と自分の指で挟み込む形になりますので、児が動いたとしても喉頭鏡も自分の手も同じ位置で同じ方向に動いてくれますので喉頭展開を安定して継続できます。例えば静脈採血を行うときも同じで、採血管を持つ方の手の指を穿刺したこどもの手に軽くあてておくことで児が急に動いた時でも、採血管を持つ手も一緒についてきて針に当たってずれたり血液をこぼしたりせずに済みます。そして一番大事な指は小指です。小指はとても役に立ちます。自由になっている小指でBURPをするのです。そうすることで微妙な位置調整が可能になります。さらに言うと慣れてくれば意識せずともEC法の形で小指も含めて下顎挙上をすると、大体ちょうどいい位置に小指が当たりますので、自然とBURPの操作が加わることになります。以下にいくつか挿管時の写真(左:失敗、右:成功)を並べてみます。児の体勢、挿管者の姿勢、視線軸、手首の角度の違い等を見比べていただければと思います。指で持てと言っているのに言うこと聞いてくれない若手たちの姿にもご注目(笑)
最後に挿管の確認はCO2検知器を使用するのが確実です。呼気のCO2を検知しすると色が変わることで挿管されたことが分かります。CO2を検知すると青紫が黄色に変わります。「チアノーゼが消える」と覚えておくとよいでしょう。ほぼ万能ですが、唯一挿管成功していても心停止している時には変色しませんので注意が必要です。肺でのガス交換が行われないため呼気にCO2が排出されないためです。肺循環があれば多少なりとも変色します。
【極論かましてよかですか】
挿管時には頭枕に
喉頭鏡は指で持て。喉頭展開、下顎挙上、BURPのすべてがあなたの左手にかかっている。小指命!
挿管時に屈みたくなったら手首を返している。姿勢よく挿管できないのは自分のせい
挿管出来たらチアノーゼが消える(青紫→黄色)
え、ビデオ喉頭鏡で入れればいいじゃん、って?喉頭展開不十分で挿管しようとすると、上に向いている気管には入っていかず、喉頭をつつきまくって肉芽作りますよ。ビデオ喉頭鏡だろうと喉頭展開はできなきゃダメです。