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【正期産児編】適正な輸液量はNaが教えてくれる

 皆さんは入院した新生児の初期輸液量をどのように設定していますでしょうか。私は10%グルコース溶液を60mL/kg/dayという施設で研修しました。文献を辿ってみたものの、この60mL/kg/dayという設定がどこから来たのか、その大本にたどり着くことはまだできていませんが、1日ごとに60-80-100-120-120mL/kg/dayという文献や60-75-90-105-120-135-150mL/kg/dayという文献、50-60mL/kg/dayから開始する、という文献等があります。いずれにしても概ね50-60mL/kg/dayで開始というのが通説です。おそらく昔の人が行った生理学的な検証からだした一日の必要量に拠るのではないかと想像しています。10%グルコース溶液を体重(kg)×2.4mL/Hで始めれば、約60mL/kg/dayかつGIR(Glucose infusion rate)にして4mg/kg/minという扱いやすい水分および糖の投与量にできます。10%グルコース溶液を基液とする場合には覚えておくと便利です。
 しかしながらこの投与量は正期産児や後期早産児には多すぎると常々感じています。例えば呼吸障害で入院した子にこの輸液量を投与すると、利尿はつかず翌日Naは120後半、全身浮腫となり、あわてて利尿剤を投与することになります。というか、そういう病院で専門医研修していました。CKが翌日に跳ね上がるような分娩ストレスの強かった子でも利尿開始が遅れますので同じように低Na血症に陥ります。それなら最初から輸液を制限しておけばいいのでしょうが、施設のルーチンになってしまっていると誰もそれに疑問や異論を唱えることがなくなってしまいますし、それから外れたことをやると正しい医療を行っていたとしても怒られてしまいます。レジェンドの仁志田博司先生はルーチンは見直されなくてはならない、と著書で述べておられます。どんなルーチンでも本当に適切な方法かどうか適宜検証されなければなりません。
 そもそも産科で管理されている新生児で初日に60mL/kg/dayの水分を摂取している子はどのくらいいるでしょうか?おそらく皆無です。初日にそんなに母乳は出ませんし、だからと言って人工乳をたくさん飲ませたりしていないでしょう。完全母乳育児に積極的な施設ではいうまでもなく、通常の施設でも飲ませてもせいぜい10mL×8回、30-40mL/kg/dayくらいでしょう。なのに入院して点滴をとった途端に60mL/kgdayの水分を投与されるという大きなギャップがあることを不思議に感じませんか?私は不思議に感じます。なぜ入院した正期産児に60mL/kg/day入れるのかを当時の指導医に聞いてみたことがありますが、(呼吸障害でエネルギー使うから?)輸液しないと低血糖になるでしょ、という答えでした。産科病棟の新生児の話を例に挙げてみたところ、確かにそうだねぇ、の一言で終わってしまいました。血糖を維持できる輸液量が必要輸液量だと私は考えます。それに少し上乗せして過剰輸液にならない程度に設定できれば安全な輸液が行えるということになります。生後すぐに起こる一過性低血糖に対してはボーラス投与で血糖を上げておき、以降は輸液を絞り気味で早期に経腸栄養を開始しておけば、実際ほとんどの場合低血糖はみられません。これまで0.5mL/Hで輸液をキープ、または1.2mL/kg/Hで維持している子たちで血糖測定をしながら多くの症例で確かめてきました。また早期経腸栄養の開始というのも血糖の安定に重要です。輸液だけで維持をしようとするとどうしても輸液量が多くなってしまいます。低血糖はリスク因子の有無にかかわらずどの子にも起こる可能性があり、予測不可能です。安全に管理するのであれば、入院初日は何度か血糖測定をしながら血糖の低めの子に対しては輸液量をすこし増やしておくという対応をすることが望ましいと考えます。

生理的体重減少はなぜ起こるのか?

 新生児の水分管理には一般小児にはない特殊な点が一つあります。それは生理的体重減少が起こるということです。生理的体重減少がなぜ起こるかという疑問に対しては心房由来のナトリウム利尿ペプチドがヒントをくれます。BNPは呼吸障害のない新生児では出生後早期から上昇しており、呼吸障害のある新生児では最初は低く、呼吸が落ち着いたころには上昇しているというデータがあります。生まれた新生児は呼吸を開始します。そうすると一気に肺が拡張し肺血流が増えます。その結果、左房に還流する血液量が増加し、左房の急激な伸展刺激がナトリウム利尿ペプチドの分泌を促し、結果利尿がつき生理的体重減少につながります。呼吸障害のある児では左房の伸展刺激が少ないため、ナトリウム利尿ペプチドの分泌が遅れます。呼吸が落ち着くか、呼吸補助等の治療で肺が拡張し肺血流が増加、肺高血圧が改善すると一気に利尿がついてきます。さらに細かく言うと、RDSやMASの子は治療をしても利尿が遅れることが多く、感染症による軽度の呼吸障害の場合には出生直後に肺がしっかり拡張しているため利尿は遅れない傾向があります。TTNの場合には数時間で呼吸が落ち着くと利尿がつきます。今度呼吸障害で入院したお子さんの経過表を確認してみてください。出生直後の尿量は腎血流が保たれていても、呼吸が悪ければ増えてこないのです。
 もう一つ生理的体重減少を遅らせる要因は強い分娩ストレスです。前述したとおり、翌日にCKが上昇するような胎児徐脈を経験していた場合、生後数時間でなんとなく覇気がなくて飲みが悪くなったり、利尿が遅れたりすることがあります。これはおそらく分娩中のストレスにより低血圧、低酸素の影響で脳の軽い浮腫が起こっていたり、腎血流の変化で軽い腎障害が起こっていたり、軽い呼吸障害があったりすることの影響ではないかと推測しています。こういうお子さんの中には24時間以上排尿がみられないこともあります。
 生理的体重減少につながる利尿の開始時期は児の状況によって本当に様々です。それに加えて生理的体重減少の程度も児によりさまざまです。一般的に週数が若い方が体内の水分量が多いため、体重減少が大きくなります。体重減少が7%以上は脱水、とか10%以上はまずい、など教科書に書かれていますが、そんな単純な話ではありません。42週近くの子が10%減少すればかなり干からびていると考えていいでしょう。一方で36週の子が7%や10%減ったとしても許容範囲であることがほとんどです。34-35週のようなLate pretermの場合だと10%以上体重減少することが多く、輸液をしておかなければ高Na血症になります。つまり生理的体重減少の範囲はその子がどのくらいの成熟度をもち、余分な水分を体に蓄えて生まれてきたかで全く変わってくる話なのです。ですから出生時の成熟度判定というのは非常に重要なわけです。40週と言われていても出生時の成熟度が37週だったら体重減少が多くて当たり前だからです。だからこそローテートしてきた若手には日ごろから見た目で週数判定をできるように、よく新生児を観察しなさい、と言ってます。経験に基づく直感的な右脳的週数判定をしておくだけでもその後の経過の予想が立ちます。
 そして、生理的体重減少の結果、喪失した水分量に依存して血清Na値は上昇します。体重減少の少ない場合はNaはあまり上がりませんが、37-38週のEarly termでは体重減少が多いため140台前半あたりになります。Late retermでは水分喪失が多く145mEq/Lを超えるような高Na血症に陥ることもあります。新生児の輸液は最初は糖液で開始しますのでNaを含んでいません。ですから翌日の血清Na値が130mEq/L台後半~140mEq/L台前半で収まっていれば喪失した水分を適切に補充できているということになります。輸液量が適正であったかどうかは、Naを含む輸液を行わない限り、翌日の血清Na値で判断することができるのです。もしNaを含む輸液をしていた場合には血清Na値だけでは判断できません。昔22週台の子の初日の輸液をブドウ糖液で維持していた時期がありましたが、Naを目標値に保つように調整することで適切な水分量を維持することができました。現在は初日からEarly aggressive nutritionとして高カロリー輸液(TPN)を開始しますのでこの目安は使えなくなりましたが、Naの含まれていない輸液で開始した場合には週数にかかわらず適用できます。ただ、週数が若い場合には利尿がついた後の尿細管でのNa再吸収が少ないため翌日以降はNa入りの輸液にしておかなければなりません。通常そのような週数ではTPNが行われているでしょうから、これはLate preterm以降での適正輸液量の目安だと考えておいてください。
 生理的体重減少の開始時期も程度も個人差がある以上、新生児の輸液は生理的体重減少が始まる=利尿が付くまでは維持程度で、利尿が付いたら尿量と成熟度に合わせて輸液を増やすのが最適な方法と考えられます。しかしながら、現実的には児に張り付いて観察しながら、尿が出始めたら輸液を増やすというようなテイラーメイド対応はできません。ですので、24時間以内に利尿が付くことを前提として30-45mL/kg/day(1.2-1.8mL/kg/H)くらいで開始しておくことで翌日にはおおむね適正な血清Na値を保つことができます。予定日近くであれば少な目、Late pretermであれば多目で開始し、翌日まで続けておくと、途中で利尿がつき始め、概ね血清Na値は目標の範囲に収まっていることがほとんどです。高Na血症も低Na血症もどちらも脳神経細胞にとって良い影響を与えない可能性がありますので、適切な電解質濃度を保つように調整することが大事です。

【極論かましてよかですか】
 初日に60mL/kg/dayの輸液を行うのは過剰輸液である。過剰輸液をして翌日利尿剤を使うような管理は避けるべきである。
 ルーチンは本当に適切かどうか適宜見直されなければならない。
 輸液は低血糖を避けることとNa値を適正に保つことを考えよ。早期の経腸栄養の開始も重要である。
 生理的体重減少の程度も利尿の開始時期も人それぞれである。成熟度判定を行い、児の推定週数から経過を予想することはとても役に立つ。
 



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