アシスタント背景美塾さんのYou Tubeチャンネルが歴史に残るレベルで凄すぎるので紹介する

 表題通り、主に漫画の背景の描き方を教える”塾”、『アシスタント背景美塾』さん(以下『背景美塾』)が開設しているYou Tubeチャンネルが余りにも素晴らしいので、居ても立ってもいられずこの記事を書いている。

 漫画を描こうと思った人が必ずぶつかる「めんどくせぇ!!!」の壁、それが背景である。しかし、漫画は”物語る”媒体であるため、必然的に背景作画=舞台設営を避けて通ることはできない。

 しかしとにかく背景は面白くないのだ。なぜなら私たちが描きたいのは基本的には”キャラクター”だからである。

 しかも一丁前の背景を描くために理解しなければならないことは膨大かつ複雑で、パース(遠近法)、消失点、2点透視、3点透視という単語が出てきた時点で「寝ます😪」という気持ちになった、もしくは実際に寝た漫画家志望者はどんなに少なく見積もっても累積で東京ドーム10杯分はいるはずだ。もちろん私も東京ドームにいる。

 しかし、『背景美塾』の動画、中でも現在精力的に更新されている”#しつもん背景美塾”のカテゴリにある動画は、これを一発で理解させる。質問の内容によってレベルは上下するものの、初歩に近いものはおそらく絵を描いたことがない人でも分かる。住み慣れた東京ドームから家に帰れるのだ。

 例として、以下の動画はもっとも導入に適した動画である。騙されたと思って見てみて欲しい。実際には以下の動画を見たあとはそのまま他の動画を探して見ていただければいいので、この記事に戻ってくる必要はない。

 さて、動画タイトルを付けた方には大変申し訳ないが、この動画はタイトル通りの内容ではない…というか、結果的には”楽しく絵を描く”ことができるようになるのだが、私の感想はタイトルと違う。

 この動画は実際には「パース、消失点、1点透視とは何か?を、模型と解説を使って未経験者にも極めて分かりやすく理解させてくれる動画」である。言い換えるなら、「1点透視の背景を描くために必要なほんとうのスターターキット」である。もしもあなたがまったく絵を描いたことがなくても必ず理解できるし作例を再現できる。

 ここで大切なことは、この動画を理解するのに必要なのは画力ではなく学力、しかもおそらく平均的な小学4年生くらいの学力で充分だということだ。動画の総時間は14分だが、実際に理解するのにかかる時間は8分程度である。倍速で見れば4分だ。見て。見たあとで「背景なんて描く気すら起こらない」から「これならちょっと描けそうかも知れない」という気分になるところまでは保証できる。

 逆にいうと、私たちが背景を「描きたくない!」と思う大きな理由のひとつは、絵を描きたいのに学力を求められるからだ。 #しつもん背景美塾 の動画は、このハードルを凄まじく低くするための教材として群を抜いている。

 これはひとえに出演なさっているMAEDAX塾長の、質問者に対する…というか、背景を描こうと志すすべての人に対する”愛”のある説明の力による。

 MAEDAXさんの超絶技巧については、最近のふたつの動画を参照されたい。

 簡単に説明すると、上は『週刊少年マガジン20号』の白紙広告(「この余白を埋めるのは 漫画家になるキミだ」)ページに、実際に講談社の建物を描いて埋めたもの。下は、残念ながら今年5月は中止になってしまったコミックマーケットの代わりに有志が行っている#エアコミケの一環として、東京ビッグサイトを描いてみたというものである。どちらもシャレが効いているが、問題は両方とも下書きなしの一発直描きだということである。

 これがどれほどの超絶技巧であるかは、一度でも背景を苦心して描いたことがある人なら100%分かる。しかも講談社はパースなしだが、ビッグサイトはパースがついている、しかも複数ついているのだ。それを目だけで判断して描いているのである。意味が分からない人のために武術でたとえると、「達人なのは知っていたが、人間がコンクリートを破壊できたらさすがにダメじゃない?」という域の技術であり、つまり変態である。私たちは『バクマン。』のページを開いたはずなのに、中身が『グラップラー刃牙』だったような気持ちになるのだ。

 私が変態…ではない、MAEDAXさんを知ったのは、2013年にTwitterで回ってきた以下のツイート群がきっかけである。

 いわゆる”スーパーアシスタント”が背景を描くときの萌えポイント、こだわりという趣旨のツイート群で、当時むちゃくちゃバズッたのをよく覚えている。「ああ!あの人か!」と思った人もいるだろう。

 このツイートで一躍知られることとなったスーパーアシスタント前田耕作氏が、直後に立ち上げたのが『アシスタント背景美塾』である。

 私自身は、MAEDAXさんとは漫画業界の飲み会でお会いした際にご挨拶させていただく程度の間柄ではあるが、私ごとき若輩に対しても、いつお会いしても動画そのままの大変腰の低いお人柄である。また、背景美塾が南青山にあった頃には(現在は原宿)、MAEDAXさんが授業中に1時間で描いた背景をずらっと展示するイベントにもお伺いして、その技術の凄まじさを目の当たりにしたりもした(逆に言うとプライベート・仕事含めた付き合いは特にないため、この記事も完全に私が勝手に書いているだけである上に了承も取っていない)。

 何が言いたいかというと、前田耕作さんという、背景がものすごく好きなスーパーアシスタントが、その技術を伝導すべく美塾を立ち上げMAEDAX塾長になり、さらにその経営が7年もの間続いており、現在も拡大路線にいるということである。

「それの何がすごいの?」と思われるかも知れないので短く3つ説明する。

 まず最初に、塾長であるMAEDAXさんが”背景がものすごく好きな”元スーパーアシスタントである意味。これはつまり、筋金入りの背景オタクがあなたを全力で”沼”に沈めに来ていると考えてもらえれば良い。

 MAEDAXさんがやっている事は、いわばあなたを背景の”沼”に落とすために、引っ掛かりやすいポイントをあらかじめ予測して石をどけながら歩きやすく道を整えてくれていることに等しい。MAEDAXさんはいつもニコニコしているが行き先は沼だ。好きなアニメや漫画や映画を異常に上手く布教する”達人”というものが世の中にはいるが、MAEDAXさんはそれの背景版のような存在である。

 ふたつめ、動画を観て欲しい立場からクオリティについて述べると、7年とは、ノウハウの蓄積において充分な時間である。さらにそのノウハウは、塾経営という資本主義の世界で戦い、磨かれてきた実績のある商品の最新版である。いわば #しつもん背景美塾 の動画群とは、7年間の蓄積(MAEDAXさんのトークスキル含む)がふんだんに活かされた、”背景美塾Stay Home版”とでもいうべきものになっているのだ。しかも無料である。

 みっつめ、漫画界全体の観点から言えば、”塾”というフォーマットで他者に背景の技術を伝導してきた人が動画で発信するということは、MAEDAXさんのスーパーアシスタント時代、さらには塾長になってからの教導者としての蓄積により”背景の理解の仕方”を”技術”として体系化・規格化してきた集大成のアーカイブという意味で計り知れない意義がある。これが広く共有されれば、スタジオ単位、個人単位で車輪の再発明をする必要がまったく無くなる。体系化・規格化されるということは、それを学んだ人たちに共通言語が生まれるということであり、その後の技術体系の発展速度が上がるということだからである。

 さて、noteの趣旨に反するような気もするが、私はとにかく背景美塾のYou Tube動画はもっと広まる必要があるという強い気持ちに突き動かされてこの記事を書いているため、この記事自体はいつ離脱してもらっても構わない。とにかく動画を観て欲しい。ゆえに、以下は特に観て欲しい動画をピックアップして紹介する。

 最初に紹介した動画が超初心者向けとするなら、ここでは中級者以上が見ても”分かりやすい上に深い発見がある動画”を選んでいる。

『MAEDAXが【問題ない絵】に【もうひと仕上げ】してみた』&『「アスファルト&砂のタッチ、描くコツを教えて!」』は、画面内の”空間”というものを理解するのにきわめて役立つ。背景のクオリティアップに寄与する”足し算”はもちろん、やみくもに描き込むのではない”引き算”も含めた「説得力と見やすさを両立した画面構成とは何か」の手がかりとして非常に頼りになるだろう。

『MAEDAXの解釈!【アイレベルは水平線か!?】これをみたら解る!!』は、本当にこれを観たら分かるのでぜひ観て欲しい一本である。アイレベルおよび地平線・水平線問題は、いくつか背景を描いた経験のある中級者であっても確信の持てない大きなモヤモヤのひとつだが、それについて明快に説明してくれる。さらにこの動画では表題だけにとどまらず、地球が丸いことを意識して考えた場合の背景の解釈についても説明してくれている。私はこの動画を観たので、二度とこの問題に悩むことはない。

『✨MAEDAXの大発明✨これで解消‼️球体パースわかり器💡』は、この記事の執筆時点での最新の動画である。これは「直線以外で構成されている背景」を描くための考え方として最も理解しやすい動画のひとつであり、技法書だけでは直感的に分からない部分がひと目見て分かるようになっている。

 このままではすべての動画の見どころを紹介してしまうためこのへんで止めておくが、どの動画にも共通しているのは、映像内で繰り返される「”絵を描く”は”哲学” 人によって描き方や考え方が違うもの」という大前提と、MAEDAXさんが悩める質問者に対して投げかける「あなたが悩んでいるのは、あなたには本当はパースが”観えている”からです(だから解決できます)」という、一貫した愛のある姿勢である。

 何度も繰り返すが、私は『背景美塾』の動画を、背景の描き方に悩むすべての人に観て欲しい。必ず得るものがあるし、おそらくこれまで出てきたどんな背景指南よりも分かりやすい。これらの動画群が広く観られることによって、”背景”というものの理解レベルが絶対に上がることを確信している。

 動画をご覧になってさらに興味が湧いた方は、『アシスタント背景美塾』で実際に初級講座を受けてみたり(2020年5月からはオンライン講座も開始される)、近日発売される初級講座のDVDを購入してみるのもいいだろう。もっとも手軽なのはアシスタント背景美塾が出している書籍『背景萌え!』であるが、どちらかといえば中級者以上向けの内容なので、個人的にはひととおり動画を観て、ある程度理解を深めてからがおすすめである。

 完全に回し者のようになってしまっているが、重ねて言うが私は誰からも一銭ももらっていないし、何より午前中にこれを書くことを思い付いて誰の了解も取らずにこのnoteを書いて投稿しているので安心である(なので万が一の可能性として誰かに怒られる可能性がある)。

 そもそも、私の…というか公共の利益の最大化を考えるならばいっそ『アシスタント背景美塾』のYou Tubeチャンネルが収益化され、#しつもん背景美塾が常設化されることが望みである。

 少しでも興味をお持ちになった方はぜひご覧になって、めくるめく背景の世界を、驚くほどの分かりやすさで堪能して欲しい。それではまた。


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