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”ハリウッド3幕構成”完全攻略ガイド2

3幕構成 第1幕の解説

 3幕構成を完全にマスターするための解説記事、第2回です。前回の記事はこちらからどうぞ。

 前回の記事では、3幕構成の”幕”とは物語世界の”価値観”のことであり、”幕”が切り替わるとは”価値観”が切り替わることだと説明しました。

 今回の記事では、予告通り第1幕を構成する6つのビートを、ふたつのブロックとして解説させていただきます。

第1ブロック ”オープニング”(ビート1~3)

 物語の冒頭、オープニングにあたる部分です。

三幕構成ブロック1模式図

 上記模式図のように、第1ブロックは”ビート3”が”1”と”2”を内包した形になっています(私は原著初読時、この段階ですでに混乱してしまいました)。

 そして前回申し上げた通り、この第1ブロックこそが、ブレイク・スナイダー式ビートシート最大の鬼門です。なぜか?

 それは原著によると、このブロックは物語全体のたった9%。これを32ページの漫画に置き換えた場合、使えるページ数はわずか3ページ。表紙を含めると実質2ページしかないからです。地獄です。

三幕構成9%

 上のように、全体図を見ると”これだけ(9%)”と書いてある文字すらまぁまぁ潰れて読めません。

 しかも、ここで処理しなければならない情報は一見すると膨大で、「無理に決まってる!」と心が折れそうになる人も多いでしょう。

 では具体的に、実際にはどれくらいの情報を処理しなければならないのでしょうか。以下、第1ブロック各ビートの詳細を見ていきましょう。

【ビート1】オープニング・イメージ

 物語のスタイル・雰囲気・ジャンル・スケールを表す象徴的なイメージです。漫画の場合は”世界観”を表すという感じでしょうか。

 主人公を描く場合は、結末が”使用後”だとするなら、ここでは”使用前”の主人公を見せるべきと説明されています。最初からやることが多いです。

【ビート2】テーマの提示

 (登場人物の誰かが主人公に対して)問題を提起したり、テーマに関連したことを口にするシーンとされており、テーマは絶対に冒頭で明示すべき、と原著では主張しています。

 ここで言われているテーマとは、言い換えるならQ&Aの”Q”の部分、または物語のラストで語られる結論の前フリです。

 ラブストーリーなら「主人公の恋は実るのか?」バトルものなら「主人公はなぜ戦うのか?」環境問題を訴える作品なら「なぜ環境を保全しなければならないのか?」などになるでしょう。

【ビート3】セットアップ

 私が「日本語で言ってくれ」と思ったビートです。

 セットアップというのは、おそらく物語全体の設定説明(登場人物含む)くらいの意味で、原著では「読み手が関心を持つか無くすかの境目」と説明されています。シビアです。

 ここでストーリーの目的が提示されていなければならないし、メインプロットに出てくる登場人物の紹介も行わなければならないとされています。

 さらに、

・登場人物の特徴

・後に起こる問題の原因となる行動

・主人公が最後に勝つために、なぜ、どのように変化すべきなのか?

・主人公に必要なもの、欠けているものは何なのか?

 など、見せなければいけないことが山盛りになっています。もうかなり嫌になってきましたね

 ですが、工夫の余地はあります

 ここで重要なのは、”ビート1~3”は順番に行うべきものではなく、まとめてひとつであるということです。

 たとえば、以下のように考えてみます。

分かりやすいタイトルを付けて内容を想像してもらう補助線にしよう」
表紙で世界観をバッチリ表現して本編での説明を節約しよう」
「2ページ以内にメインキャラクターを全員登場させられる数に抑えよう

 これは割と世の中にあふれる他の創作論でも繰り返し言われていることです。特に漫画というのは他の媒体よりもソリッドでシンプルな説明が求められます(例外は絵本と広告くらいでしょう)。
 構成術は節約術でもあります。

 さらにこう考えることもできます。各ビートで求められている内容は、逆に言えば「これをここで済ませてしまおう」と考える補助線として非常に優秀である、ということです。個人的には、時短システムとしてのビートシートの優れた点はここにあります。

 それでは作例を見てみましょう。たとえば、スポーツが大好きな女子高生を主人公にした現代学園ラブコメを考えている漫画原作者の場合、以下のように考えるかも知れません。

第1ブロック(1~3ページ)の作例

世界観と主人公は表紙で分かってもらおう。はい【1】終わり!

「次!現代学園ラブコメだから、2ページ目1コマ目は学校を背景にして、2コマ目で主人公の女の子を見せて、ここから1ページで恋がしたいと思っているけど”自分が女らしくない”ことをコンプレックスに感じていることをモノローグで書こう」

「ということは、テーマはひとまず”女性らしくないと恋愛はできないのか?”にしてみるか。なんか今の時代だとジェンダー規範的にむちゃくちゃ古いな…。でもとりあえずこれで!後々このコンプレックスが高じて相手役に冷たくされるシーンを問題行動として入れてみるといいかも」

「おっと、もう3ページだし、ここで主人公が想いを寄せている男の子(ヒーロー)とぶつかってもらおう。はい、これで【2】と【3】終わり!

 お分かりになるでしょうか。ビートシートを参照することによって、物語に入れた方が良い要素を無理なく入れるにはどうすればいいのかを、配分するという考え方で物語を組み立てることができます。

 逆に、不要な要素は徹底的に排除する鉄壁のガードシステムとしても機能しています。

「きゅ…窮屈…!ドラえもん、創作はもっと自由にやりたいよ!」

 分かります…!ですが、型というのは一度体に入れてみると、驚くほどその効用を実感することができるものなのです…。ごめんなさい、このブロックだけはどうしても楽をすることができません。

 ですが、先に述べた通り、この第1ブロックが1番キツイので、ここを乗り越えられれば後はむちゃくちゃ楽に感じると思います。騙されたと思って、もう少し先まで(できれば最後まで)我慢してお付き合いいただければ幸いです。

 また、「例として示してるテーマ、あまりにも古くない?この記事大丈夫?」と思った方、さすがです。作品には少なからず時代性が欲しいですよね…!

 そしてご安心ください。ビートシートには「ありきたりだと思っていたテーマが、物語の進行と共に勝手にどんどん塗り替わっていく」というチート機能が備わっています。

 このテーマも3年後はともかくとして、ギリギリ現在(2020年3月)にまでは追い付くことができるでしょう。できるといいな。

第2ブロック ”古い世界の終わり”(ビート4~6)

 では第2ブロックの模式図です。

三幕構成ブロック2模式図

 ”4”ちっっっっっさ!

 第1ブロックにおいて”ビート3”が”1”と”2”を含んでいたのに比べて、第2ブロックでは”4”を含んだ”5”と、その後の”6”で明確にふたつに別れています。早速、各ビートを見ていきましょう。

【ビート4】きっかけ

 上図の面積からは考えれないくらい大切なビートです。

 古い価値観の世界(いまいる世界)の終わり、第1ブロックで示して見せた”使用前”の世界=価値観を壊すシーンです。

 スポーツ特待生だったのに故障してしまった、職場を解雇された、彼氏彼女が既婚者だった、ドルオタのボディガードが要人警護の任務を請けたら相手が推しのアイドルだった、平和な学園生活が突如テロリストによって脅かされた…などなど。

 第1ブロックで紹介された主人公の精神と肉体のどちらか(もしくは両方)が動き出さずにはいられない”きっかけ”です。

 また、「なぜ物語において”価値観”を”破壊”しなければならないのか?」という疑問の答えがここにあります。”価値観が破壊される”ということは、主人公が”このままでは生き残れない”という強烈なメッセージであり、変化=成長を始めるきっかけになるからです。

 世にあふれる創作指南書が、「主人公は最初と最後で”変化”していなければならない」という理由も、これでスッキリ説明できます。

ドラマとは、登場人物の内面の変化と成長だからです。

【ビート5】悩みのとき

 古い価値観の世界は破壊されてしまった。”変化”するためには”行動”するしかない。そんなときに訪れる、「どうしてこんなことに…」「私にやれるだろうか?」という一瞬の嘆き、躊躇、ためらい、葛藤です。

 ここでノータイム即行動だと、世界が破壊されたことの重大さが読者に伝わりにくいかも知れません。

【ビート6】第1ターニング・ポイント

 ここは最も大事とされているビートのひとつで、古い価値観の世界を出て、別の価値観の世界に踏み出すときです。

 ここで大切なのは、ここで主人公がなんとなくではなく、自らの意志でその一歩を踏み出すことだと原著では説いています。

 私は「巻き込まれ型の主人公はどうするんだ…?」という疑問を持っているので100%そうだと言い切れない部分ではありますが、主人公の意志を示すシーンが必要、という意味ではほぼ賛成しています。

 はい、ここまでで何ページだと思いますか?

 第2ブロック終了時点では全体の27%、32ページの漫画で言うと8ページ目に相当します。つまり【ビート4~6】を行うために与えられる猶予は正味5ページです。鬼か?

 このように、”第1幕”にはふたつのブロック、6つのビートがあるというのに、作者は有り得ないほど展開を急かされます。なぜでしょうか?

 それは逆の立場に立って考えてればすぐに分かります。主人公がずっと”古い世界”に留まっている物語など誰も読みたくないからです。

 読者から「本題に入らないなら帰っていい?」と思われた瞬間、エンターテイメントとしての敗北が決定します。第1幕はとにかく全力で駆け抜けましょう。

 では作例です。

第2ブロック(4~8ページ)作例

「ターニング・ポイントまで5ページかぁ…。てことは、この後すぐ主人公の対極みたいなむちゃくちゃ可愛い、THE・女子!って感じのライバルを出そう。そんで主人公の目の前でヒーローと仲良くしてるところを見せる!主人公は、ヒーローは可愛らしい女の子が好きなのでは…?とショックを受ける【4】。」

「主人公は危機感を抱いて落ち込んじゃう【5】けど、次の日には一念発起して可愛い女の子グループに頼み込んで自分を変えてもらおうとする【6】。どや!」

「む…むちゃくちゃ凡庸な話~~~!」と書いてて落ち込んでしまいますがどんどん行きましょう。ビートシートに沿って進めていけば、どうせ最後にはけっこういい話になるのが分かっているのですから。

 さて、ここまでで(ようやく)第1幕が終わりました。本当におつかれさまでした。次回の第3ブロックからは3幕構成の”第2幕”になります。

 ”幕”が切り替わるタイミングでは”価値観”が切り替わる――すなわち、”第1幕”=”古い世界”を覆っていた”価値観”の”幕”が引かれ、”第2幕”=”別の価値観の世界”へ入っていくと説明しました。

 加えて言うならそれは、必ず真逆の、相反する価値観の世界でなければなりません。その理由がなぜなのかについては、次回でお答えできると思います。

 それではまた!

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