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”ハリウッド3幕構成”完全攻略ガイド4(了)

3幕構成 第3幕の解説

 3幕構成を完全にマスターするための解説記事、第4回です。前回の記事はこちらからどうぞ。

これまでの3回の記事で、3幕構成(ビートシート)を形作る15のビートを6つのブロックに分けて順番に解説してきました。

 さぁ、いよいよ最終幕、物語の終わりです。同時にこの解説記事もこれが最終回となります。

 前回の終わりで、主人公は古い価値観と正反対の価値観を融合させ、新たな価値観を手に入れました。ここからラストまでは一気呵成に物語が進みます。それでは、第6ブロックの解説をご覧ください。

第6ブロック ”フィニッシュ”(ビート14・15)

 第6ブロックの模式図も、第4、第5と同じくシンプルです。”フィナーレ”の最後に”ファイナル・イメージ”があって、物語全体の終わりとなります。

 第1幕のカオスさに比べれば、美しく整頓された秩序すら感じます。

 それでは各ビートを解説していきましょう。

【ビート14】フィナーレ

 クライマックスです。

 原著では、「教訓を学び、主人公の直すべき点が直り、メインプロットもサブプロットも主人公が勝利して終わる。」とされています。

 ひと言で言えば、全てにケリがついてハッピー(またはバッド)エンドになるということです。主人公は”第2ターニング・ポイント”(ビート13)で得た気付きを持って、最後の答え合わせに挑みます。

【ビート15】ファイナル・イメージ

 ”オープニング・イメージ”(ビート1)の対になるビートです。主人公がジンテーゼに辿り着いた結果として、世界がどのように変わったかを見せるビートというわけです…が、漫画の場合は「最後のコマ」という程度の認識で問題ないかと思われます。後日談もここに含まれます。

 さて、3幕構成、”第3幕”にあたるビートはこのふたつだけです。

 ”第1幕”が6つ、”第2幕”が7つのビートを含んでいたのに比べて圧倒的に少ないのがお分かりいただけると思います。それはなぜでしょうか。

 「3幕構成の”幕”というのは物語の分量ではなく、世界を覆う”価値観”のことである」という説明は第1回で行いました。

 実は、あそこで説明した”価値観”こそが、第3回で説明した”テーゼ”のことだったのです。改めて確認してみましょう。

・”第1幕”テーゼ初めに立てられた命題)

・”第2幕”アンチテーゼ(テーゼと正反対の命題)

・”第3幕”ジンテーゼ(テーゼとアンチテーゼの矛盾の解決、高次の命題)

 つまり3幕構成とは、「主人公がテーゼを破壊され、アンチテーゼの世界に触れ、最終的にその両方を融合させてジンテーゼに到達する物語形式」ということができます。

 そしてこの形式は、古今東西、あらゆる物語の原型の中に間違いなく含まれています。つまるところビートシートとは、その分量をハリウッド型エンターテイメントとして最適化するための調合法に過ぎません。そして調合法だからこそ、あなたが創作する媒体にもたやすく応用することができるのです。

 では、最後の作例です。

第6ブロック作例(26~32ページ)

「息を切らして校門にたどり着いた主人公は、グラウンドを横切ってこちらに歩いて来るヒーローを見つける」

”◯◯さん(ライバル)はどうしたの?”と訊ねると、”デートに誘われたけど断った”と答える。主人公はグラウンドに落ちていたボールを拾って、ヒーローをサッカーに誘う」

「汗だくになって、グラウンドに寝転ぶふたり」

「”おまえ…可愛い格好して、それ崩したくないんじゃなかったのかよ”」

「”うん、自分がこんな風になれてすごく嬉しかったし、これからもやめたくない。でも、◯◯(ヒーロー)とサッカーするのもやめない”」

「怪訝そうな顔で身体を起こすヒーロー。主人公も、ボールを抱えて起き上がる。ふたりはあぐらをかいて向かい合う」

「”私分かったんだ。可愛い格好も好き。サッカーするのも好き。そして、どっちも好きな自分はもっと好き!”」

「泥だらけのまま、晴れ晴れとした顔で笑う主人公から、ヒーローは目が離せなくなる」

「”そして…そして、私は…◯◯(ヒーロー)のことが…”」

”おまえが好きだ、俺と付き合ってくれ”」

「告白を被せられて驚く主人公」

「”本当は、おまえのことがずっと好きだった。でも、今日はその、俺たちから離れようとしてるんじゃないかって思って…”」

「”ほんとう…?嬉しい…!”」

「主人公、涙を拭おうとしてボールを取り落とす。”あっ…”。ボールを拾おうとするふたりの手が触れ合う。あとはキスしてエンドマーク」

「余裕があったらスポーツ仲間と可愛い女の子グループ、みんなでサッカーしてるシーンも入れられるかな。よし、終わった~!

 以上になります。

 ページ数はもちろん全体の100%、32ページ漫画の32ページ目までになります。”第3幕”に使えるページは7ページ。この内容なら過不足なく入れられそうです。

 ようやくすべてのビートと、それに付随する作例が終わりました。お読みいただいた皆さま、本当におつかれさまでした。

 また、作例でも分かる通り、最後まで書いたあとにはもちろん手直し=推敲の作業が待っています。

 ここまでお読みいただいて、改めて第1ブロックの作例を見ると「最初からサッカーさせとくべきだな、そこで主人公と男の子をぶつける方が自然だな」とか「可愛い女の子たちのグループが教室の窓から主人公たちを見下ろしているコマを小さく入れといた方がいいな」など、手を加える箇所が散見されるのが分かると思います。

 ですがそれもすべて、1度最後まで書いてからです。

まとめと注意事項

 以上、簡単かつ意訳も含んでいますが、ハリウッド型3幕構成、15のビートを使ったビートシートの全貌になります。

 原著『SAVE THE CAT(猫を救え)の法則』にはさらに詳細な、また、名作映画からの引用をふんだんに使った解説が書いてありますので、ご興味持たれた方はぜひご一読をおすすめします。

 ただし、このシリーズ記事はあくまでハリウッド型3幕構成というものの解説記事であり、物語作りの絶対法則ではないことに注意してください。この本が発表された2000年代以前にも、優れた物語は星の数ほどあるのですから。

 そもそも3幕構成には、物語制作においてフォローできない部分が、大きく分けてふたつあります。

1.キャラクター制作能力、および演出能力がそもそも必要
2.群像劇には不向き

 まず1ですが、3幕構成は所詮はシナリオ構成術に過ぎないため、これだけ磨いてOKという制作術ではありません。たとえばハリウッド映画の企画で重視される要素はキャラクター>ストーリー>世界観の順番です。

 ”上手なシナリオ”はこの3つが揃っている状態で初めて評価されるものですから、これを思い付かなければ文字通り話にならないわけです。

 次に、3幕構成は最初から最後まで主人公にフォーカスした、”主人公特化型”とも言える特徴を備えています。3幕構成の世界では、主人公以外の登場人物すべてが、主人公の成長のために存在します

 ”物語”を、”価値観の衝突”と表現する人がいますが、主人公特化型の構成において、”価値観の衝突”は基本的に主人公の中でのみ起こります。

 他の登場人物は主人公が触れる別の価値観を体現している存在であり、その考えに触れることで主人公の中に生まれる葛藤をドラマにしているのです。

 ゆえに、キャラクター重要度の比率が(比較的)平均的な群像劇を構成するには、より高度な応用が必要とされます。

 連続した作品であれば複数の登場人物に3幕構成を繰り返させることで擬似的に群像劇を構成すること自体は可能ですが、やはりこちらも応用編となります。

 以上のことから、3幕構成は、これだけで優れた作品ができるというほどの万能ツールではないということができます。

 ただし、「アイディアはいくらでも思い付くけどいつも話がまとまらない」「ストーリー構成がとにかく苦手」という方には(特にチェックツールとして)絶大な効果を発揮してくれるはずです。

補足と蛇足(”テーマ”とは何か)

 さて、ここからは補足と余談を少々付け加えて終わりにしたいと思います。

 ここまで読んでくださったあなたは、第1ブロックの作例で最初に示したテーマ、”女性らしくないと恋愛はできないのか?”が、ラストに向かうにつれて変化していったことにお気づきになったでしょうか。

 主人公が手に入れたジンテーゼが”楽しい、好きだと思うことは全部諦めない。私は我慢する必要はない”というものだったため、物語全体のテーマもこれにシフトしました。

 第1回で述べたように、物語制作に困っている人が口にする代表的な疑問のひとつに「テーマって必要なんですか?」「テーマって何か分かりません」というものがあります。

 実は、作例を書いている最中は私も「…この作例のテーマって何だろう…。たどり着けなかったらどうしよう…」と思いながら書いており、この記事の加筆修正時にも作例には適宜改行を加えた以外、一切手を触れていません。

 それでも最後には、”心の暗闇”のビートで主人公が必死に考えてくれた結果として、書き出した時点では全く考えていなかったジンテーゼ=真のテーマに着地することができました。

 このように、3幕構成が必ずジンテーゼにたどり着く不思議な仕組みを備えているのには、以下のような理由があると私は考えています。

「ふたつの相反する価値観に触れた主人公が、最後にたどり着く新たな価値観とは何でしょう?」

 3幕構成というのは、言ってしまえば上記1行で表現できるクイズに過ぎません。

さらに、導き出されたジンテーゼ=真のテーマが”正解”や”模範解答”である必要がまったくありません(そもそも矛盾の上に成り立っているジンテーゼは、”主張”以上のものにはなり得ません)。

 ゆえに、クイズの条件=ふたつの相反する価値観を知った上で主人公が選択した行動を描けば、それはすべて自動的に真のテーマになるわけです(作品自体の完成度・評価とは別)。

 さらに、ハリウッド映画の”面白さ”の正体、その片鱗もここから推理することができます。

 「”面白さ”とは”他と異なっていること”であり、理屈を極め、”正解”を求めるとひとつに収斂して他と同じになる=つまらなくなる」という説があります。他とは異なる主人公独自の価値観=ジンテーゼとは、”価値観の衝突”の中で獲得され、それによって初めて作中における唯一無二性を得るのです。

 このように、矛盾するふたつの価値観を融合させ、高次のものに到達させるジンテーゼのことを、日本語では”昇華”といいます。

 作者が作品を作り始めた段階で”高次の価値観”を言語化できていることは稀ですから、ジンテーゼというのはクリエイター自身が心の中に無意識に抱えた矛盾に答えを見付け、それを昇華させた結晶と言えるのかも知れません。

 さらに蛇足になりますが、私はこれで「優れた映画監督が別々の作品でも繰り返し同じテーマを語ってしまう」こと、また、「若い頃には書けた作品が年齢を重ねると書けなくなる」という現象の説明ができると思っています。

 人がその人生を通して心に抱え続けられる矛盾=生涯挑み続けられる謎の数はそう多くはないはずです。ですが、その矛盾を語るための自分や周囲の価値観は、優れたクリエイターであればあるほど、時代や年齢とともに常に変化していくはずだからです。

 ですから、心に創作の炎を持っている人たちにはできるだけ、思い付いたタイミングで、たくさんの物語を紡いで欲しいと願っています(そうすれば、私がたくさんの優れた創作物を摂取できます)。

 自分の中の矛盾と向き合うことによって、きっとあなたにしか書けない、あなただけのテーマが見付かるはずです。

 もしもこの記事がその制作の一助となったなら、それ以上に嬉しいことはありません。

 長々とお読みいただき、本当にありがとうございました。

 あなたに(できれば私にも)素敵な物語が降りてきますように。

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