”ハリウッド3幕構成”完全攻略ガイド3
3幕構成 第2幕の解説
3幕構成を完全にマスターするための解説記事、第3回です。前回の記事はこちらからどうぞ。
やることが多すぎた地獄の”第1幕”を越え、物語は”正反対の価値観”の世界”=”第2幕”に突入します。
”第2幕”の解説に入る前に、おさらいついでに”第1幕”の性質を以下のようにまとめてみました。
・物語の”前提(世界観・登場人物・ジャンル・スケール)”を受け持つ
・”古い価値観”の世界=時間軸的には”過去”(昨日まで)を担当する
・”前置き”や”自己紹介”に近い性質を持つ
・15のビートのうち6つ(40%)を受け持つにも関わらず、物語分量の27%に過ぎない
・そのため、3幕の中でもっとも”簡潔さ”が求められる
上記の特徴を持つがゆえに、”第1幕”はメインにはなり得ません。コース料理でいえば前菜・主菜・デザートの前菜にあたります。これを受けた”第2幕”の性質は以下の通りです。
・物語の”本題”を受け持つ
・”正反対の価値観”の世界=時間軸的には”現在”(今日)を担当する
・”論の展開”や”体験談”に近い性質を持つ
・15のビートのうち7つ(47%)を受け持ち、物語分量の50%を占める
・3幕の中でもっとも”サービス精神”が求められる
以上の性質から、作品自体の魅力=”第2幕”と言っても過言ではありません。コース料理でいえばもちろん主菜=メインディッシュです。
”第3幕”のネタバレになりますが、3幕構成全体だと以下のようになります(PCの場合は画像クリックで拡大)。
物語のジャンルも”第2幕”の内容で決まりますし、”キャッチコピー”を付ける場合も基本的には”第2幕”を表現したものになります(例外は”衝撃のラスト”系の作品ですが、やはりジャンル自体は”第2幕”で決まります)。
以上を踏まえた上で、”第2幕”を構成する3つのブロックについて順に見ていきましょう。
第3ブロック ”正反対の価値観”(ビート7~9)
上記が第3ブロックを構成する各ビートの模式図です。史上最高に分かりにくいです。
第3ブロックとはつまり、”サブプロット”=”お楽しみ”があり、その最後に”ミッド・ポイント”という物語全体の分岐点が訪れる、という流れになっています。つまり”7”と”8”のビートは、同じものを別々の角度で語っているだけなんですね。”7”=”8”です。
ここは第1ブロックとは違う意味の鬼門で、注意深く読んでいないと完全に「”7”→”8”の順番で書かないといけないのかな…?」と思わされる、原著屈指のトラップゾーンになっています。
それでは、第3ブロック各ビートの解説に入っていきましょう。
【ビート7】サブプロット
「メインプロットをAとした場合のB(サブ)のストーリー」と説明されています。
つまり、メインプロットに直接関係ない話ですね。
ページが無いのにそんなのやってる場合か!?とブチ切れたくなりますが、どうか落ち着いてください。
ここで大切なことは前回の最後でお伝えしたように、”第1幕”で破壊された世界と正反対の”価値観”の世界を描く、ということにあります。
物語中で扱う”価値観”は、その範囲が広いものからピンポイントなものまで無数にあります。たとえば、
・平等社会 → 競争社会(広い)
・集団主義 → 個人主義(やや広い)
・殺し屋の価値観 → 一般人の価値観(とても狭い)
作例に当てはめるならば、・ボーイッシュ→ガーリーでしょうか。
・自分らしい自分→相手に合わせる自分、としても良いかも知れません。
”第1幕”の”古い価値観”のことをテーゼ、”第2幕”の”反対の価値観”のことをアンチテーゼと呼びます。
ここで扱うテーゼは「初めに立てられた命題」という意味です。自動的にアンチテーゼは「初めに立てられたのと相反する命題」という意味になります。
急に新しい言葉が出てきて混乱するかも知れませんが、最後にはこれがむちゃくちゃ大事になってくるのでぜひ覚えておいてください。
テーゼとアンチテーゼは真逆の価値観のため、必ず対立し、そこに矛盾を生みます。この矛盾をいかに解決し、新たな価値観にたどり着くか?
これこそが、物語装置としての3幕構成の核心部分になります。
【ビート8】お楽しみ
物語に”キャッチコピー”があるなら、それで”キャッチ”したお客さまに満足していただくための部分です。
「これこれ!これが見たくて来たんだよ!」と思って楽しんでいただくためのおもてなしパートになります。戦争モノなら戦争シーン、コメディだったらコメディシーンです。”キャッチコピー”を作るなら当然ここからですよね。
ちなみに、”キャッチ”するために必要な要素がよく言われる”フック”になります。お客さまという魚を釣り上げるための釣り針です。”ウリ”とも言います。”フック”のシーンは基本的に面白いに決まっているので、そんなに悩むことはないと思います。
逆に、”フック”がどこか悩むくらいなら、悲しいですがその作品は諦めて別の作品を考えましょう。「プロットの段階で気付けて良かった」と思うべきです。
【ビート9】ミッド・ポイント
物語の前半と後半の境目(真ん中=ミッド)。ビートシートにおいて最も重要といわれるビートのひとつです。
何がどう重要かは次のブロックで語るとして、ここではこのビートですべきことだけを簡潔に述べます。
”ミッド・ポイント”で行うこと。それは、必ず主人公を見せかけの絶好調か見せかけの絶不調にする、ということです。絶好調がピンと来ない方は大成功or大失敗、大勝利or大敗という風にしっくり来る言葉に言い換えてください。
ビート”7”と”8”を同時進行させて”9”にたどり着く流れをまとめて説明すると、「主人公に”正反対の価値観”に触れてもらいながら、お客さまにジャンルならではの”お楽しみ”を味わってもらい、流れの最後で主人公は”むちゃくちゃ調子に乗る”か”むちゃくちゃ落ち込む”」ということになります。
”ミッド・ポイント”までの猶予は物語全体の50%、32ページ漫画でいうと16ページ目にあたります。
「今度は8ページもあるじゃん!」と思ったあなた、だんだん慣れてきましたね…!
それでは第3ブロックの作例です。
第3ブロック作例(9~16ページ)
「クラスの可愛い女の子グループに頼んで、彼女たちの感覚で主人公をイメージチェンジしてもらおう、ここでは可愛いもの至上主義、メイクして原宿行って服選んでもらってタピってもらおう!【7】」
「つまりキャッチコピーは素朴なスポーツ女子が原宿系女子に大変身【8】だな!ダサっ!そして可愛くなった主人公は、自分がこういう格好が好きだってことに気付く。」
「一緒にいる女の子たちにも褒められまくり、原宿ではむちゃくちゃナンパされて承認欲求も満たされまくる!これで告ったら絶対いけるっしょ!と女の子たちも太鼓判を押す!主人公は有頂天!無敵!無敵じゃーい!【9】」
以上になります。
自分で書いていて大丈夫か?と思うくらい何も考えてないハイテンションなプロットですね。でもこれでいいんです。さぁ、第1ターニング・ポイントからさらに8ページを使って、ようやくページが半分まで来ました。
残り半分、いきましょう!
第4ブロック ”絶体絶命”(ビート10・11)
第4ブロックの模式図です。”ビート10”の最後に”11”がやって来るという、大変シンプルな構成になっています。
”お楽しみ”はもう終わり。魔の手は”反対の価値観の世界”にまでやって来て、すべてを破壊し尽くします。しかも、もう他に逃げ込める”世界”は存在しません。まさに絶体絶命、”試練”のブロックです。
それでは各ビートの解説です。
【ビート10】迫りくる悪いやつら
ビートの名前に首をひねる人も多いと思うのですが、要は悪人でなくても主人公の障害となるライバルや敵役が復活、または台頭してくるシーンです。
また、主人公の絶好調が終わって陰りが見えてきます。いま敵が攻勢をかけてきたら主人公には対抗する策も、助けを求められる相手もいない。
読者的には「嫌な予感がする」シーンになります。
にも関わらず、主人公はそれにまったく気付くことなく調子に乗りまくっています。志村うしろー!
当然、このビートの最後でそのツケを利子付きで取り立てられ、すべてを失います。
ハリウッド映画で飽きるほど見てきたあのシーンですね!ハリウッド映画の主人公のほとんどは、共感性羞恥が強い人なら思わず画面から目を逸らしたくなるほど調子に乗ります。
ただ正直、ここでの振る舞いがあまりにも常軌を逸している場合、主人公の好感度が取り返しの付かないほど下がりきってしまう可能性もあります。
調子に乗ってはいるんだけど観客や読者からはギリギリ見離されない程度のさじ加減が求められるかも知れません。
【ビート11】すべてを失って
”ミッド・ポイント”の対になるシーンです。
”ミッド・ポイント”で見せかけの絶好調だった主人公はここで必ず絶不調に、見せかけの絶不調だった場合は必ず絶好調になります。
”ミッド・ポイント”がなぜ重要なのかの答えもここにあります。”ミッド・ポイント”との落差が激しければ激しいほど、観客や読者もまた激しく心動かされるからです。
さらに原著では、ここで「死の気配(死を意識させる状況、モチーフ)」を挿入することを薦めています。
ここまでで物語全体の68%、32ページの漫画では22ページ目まで。6ページの猶予があるわけですね。それでは第4ブロックの作例です。
第4ブロック作例(17~22ページ)
「主人公は意気揚々と可愛くなった自分で登校するが、ヒーローの反応が微妙でおや?と微かに疑念を抱く。」
「さらにお昼休み、髪型やファッションが崩れることを恐れてそれまでのスポーツ仲間を遠ざけ、なんとなく気まずくなる。」
「そんな時、ライバルの女の子は今日、彼に告白しようと思っていると主人公を牽制する【10】。先んじようと慌てて男の子に会いに行った主人公は、告白しようとする寸前で彼から”そんなお前全然良くないよ”、と冷たくあしらわれてしまう。」
「ライバルが現れ、彼を誘ってその場を去る。主人公はひどいショックを受け、結果を聞きに来た可愛い女の子グループにも思わず辛く当たってしまい、孤立無援のひとりになる【11】。」
ありきたりだと分かっていても普通に辛いですね。
特に、主人公が絶対落ちると分かっているナイアガラの滝の前で調子こいてるシーンが入ると思うと、共感性羞恥レベルが高い私にとってキツイものがあります。いや実際にこの漫画を描くわけじゃないのでいいんですが…。
主人公がヒーローの反応の悪さに”おや?”と疑念を抱くシーンは、「これに気付かないほどバカだったら私は愛せないな…」と考えた結果、入れることにしました(ここでさらにアクセルを踏み込む人もいるでしょう)。
では次にいきましょう。ここまで来れば残りは10ページです。意外と残っていると思いましたか?そうなんです。
32ページの漫画で、ここまで表現して残り10ページもあるというのはむちゃくちゃ優秀なんです。
第5ブロック ”光射す夜明け”(ビート12・13)
第5ブロックの模式図もシンプルです。
”心の暗闇”の終わりに”第2ターニング・ポイント”が来るだけ。
第5ブロックは間違いなく物語全体の最重要ブロックであり、作品の”完成度”はここに依存すると言って間違いありません。
なぜなら、ここで初めて主人公の成長が確定し、結末が決定されるからです。
【ビート12】心の暗闇
すべてを失った主人公が何を考えるのかを描くビートです。
著者は「5秒で終わる場合もあるし、5分以上続くときもある。長さはどうあれ、とても重要で絶対に必要なビートだ」と書いています。
なぜ重要で、なぜ絶対に必要なのでしょうか。
それは、このビートは主人公にとって、夜明け前に訪れる最も暗い闇だからです。
このあと必ず朝がやってきて物語の全てはハッピーエンドに収まるのですが、ここで暗闇をしっかり描かなければ、陽光の素晴らしさは読者に伝わらないのです。
そして、このビートの最後に、主人公は自分なりの答えを見付けます(著者はこれを”悟りを開く”と表現しています)。
暗闇が終わり、朝の光が射すのです。
【ビート13】第2ターニング・ポイント
ここまでのビートで、エンディングまでに必要なすべての材料は出揃いました。古い価値観の世界(テーゼ)と反対の価値観の世界(アンチテーゼ)を通り抜け、主人公はついに矛盾が解決された価値観(ジンテーゼ)を見出します。
では作例にいきましょう。
第5ブロック作例(23~25ページ)
「夕闇の空の下、主人公は学校から駅に向かう踏切の前で足を止め、ぼんやりと佇んでいる。」
「何がいけなかったんだろう、私は何を失敗したんだろう。可愛くなってすごくすごく嬉しかったのに。」
「警報機の音がする。遮断器がゆるやかに降り始める。電車が近付いている。」
「私はどうして彼のことが好きだったんだっけ。どうやって好きになったんだっけ。」
「私はスポーツが好きで、お昼休みにみんなでサッカーをするのが好きだった。その中に彼もいた。いっしょに汗だくになって、笑って、短い休み時間でもサッカーの話で盛り上がって。」
「そうだ、私がコートから出ていくボールを最後まで追い駆ける姿を、彼が褒めてくれたんだっけ。”お前って最後まで諦めねぇのな。そういうところ、すげぇ好き”。そうだ。その笑顔があんまり優しかったから、私は彼を好きになったんだ。」
「遮断器が完全に降りて、特急電車がやってくる。だったら――。主人公は一歩を踏み出す【12】。」
「しかしそれは当然、線路に向かってではなく――。」
「まだ、諦めちゃいけない。主人公は通過列車を背にして、反対方向、夕暮れの学校に向かって走り出した【13】。」
以上です。
ここでは、死の気配(もうすぐ電車が来る踏み切り)からのスタートにしてみました。夕闇、通過列車を背にして走り出す主人公のシーン、けっこうエモいと思うんですがいかがでしょうか。
こんなむちゃくちゃありきたりな話でも、ドン底から一気に反転する主人公を描くことで、ある程度話を引き締めてクライマックスに持っていくことができます。
プロットではモノローグを多めに書いていますが、おそらく実際の漫画ではモノローグに相当するシーンのほとんどを絵だけのダイジェストシーンとして表現することになるでしょう。
小説や映像作品なら、地の文やエピソードでモノローグを補強する感じでしょうか。
ここまで物語全体の77%。漫画32ページ換算だと25ページ目までですから、3ページ使うことができるわけですね。
ここまでのシーンを過不足なく描けるようになっていれば、たった3ページでも無理なく収まる分量の目当てが付いていることと思います。
また漫画に限った話で言うと、エンディングとの兼ね合いで余裕があれば、ここをクライマックスに持ってきてページ分量を増やすというパターンも充分考えられます。
これは漫画という媒体の特殊な性質=時間だけでなく面積のメディアでもある(重要なコマほど大きい)という特性に起因しており、シナリオ上のページ数と実際のページ数が必ずしも一致しない傾向にあります(特にバトルものに顕著に現れます)。
私の作例の場合、通過列車を背に走り出すシーンなどは印象的に見せたいので、少女漫画ならページの半分、少年・青年漫画なら見開き(2ページ)を充てる可能性があります(これ以上は”演出”の話に踏み込んでしまうので、”シナリオ制作”に焦点を絞った当シリーズでは触れません)。
さて、第5ブロックでは主人公が”古い価値観”と”反対の価値観”を振り返り、そこから”新しい価値観”を発見する、というプロセスをたどります(今回の作例では、発見した”新しい価値観”が何かは次のブロックで明かされます)。
私は原著で”悟りを開く”という言葉を読んだとき、「いや…悟る方法を教えてくれよ…それが分からないから毎回話をまとめるのに苦労してんだよ…」と思ったのですが、実際に3幕構成を使った作品を完成させてみて、そのとき抱いた感想が間違いだったことが分かりました。
そして、私が「自分の話がありきたりでつまらない」=「最初から結論ありきになってしまって自分の考えを超えられない」と思っている人にこそ3幕構成をお薦めしたい理由はここにあります。
3幕構成の恐ろしいところは、ここで主人公と一緒に思い悩むことで導き出された結論が、実は作者にとっても未発見で、初めて自覚するものになっているということです。しかも自動的にです。心のどこかで薄々感じていたことが言語化される、という現象に近いかも知れません。
さらに、物語の結論というのは言い換えればテーマですから、作品全体を貫く真のテーマもまた、自動的に言語化されます。
つまり、結論=真のテーマ=ジンテーゼということができるわけです。
以上で、”第2幕”の解説は終了となります。
物語制作の楽しみはすべて”第2幕”に、そしてスリルと醍醐味は第5ブロックの終わり、”第2ターニング・ポイント”に詰まっています。
テーマが言語化され、「あ、この話、きちんと終わらせられる!」と分かったときの感覚は他とは代え難いものがあります。ぜひチャレンジしてみてくださいね。
それにしても、ページ配分まで決め付けられた、窮屈にも思えるシステムがなぜこのような効果を生み出すのでしょうか。
最終回ではこの不思議についても考察し、また、”悟り”を開く方法やパターン、また3幕構成の欠点と注意点、それに対応した作劇法についても解説する予定です。
それでは次回、いよいよ最後のブロックの解説とシリーズ全体のまとめです。