同じエンジニアでも、働く会社(業界)でまったく違う
もう少しだけ未経験向けの記事を掲載したと思います。
未経験の方からすると、どこの会社であってもITエンジニアは同じ、と思っているかもしれません。しかし、会社(=業界)によって仕事内容は大きく異なります。
そして、多くの未経験は楽天やDeNA、Cygames、LINE、Amazon、Googleといった会社がIT業界と思っているはずです。それは間違いです。
IT業界は非常に大きな区分で、その中には様々な業界を含んでいます。もっとも大きい業界は、これまで何回も登場したSI業界・SESです。それを理解せずに、未経験から就職すると「こんなはずではなかった」と後悔します。
■実はIT業界の範囲は広い
では、IT業界にはどんな業界が含まれているのでしょうか。主要5社の転職サイトの区分を見てみましょう。
■リクナビNEXT
・ソフトウェア・情報処理
・通信
・インターネット関連
・その他IT・通信系
■マイナビ転職
・ソフトウェア・情報処理
・インターネット関連
・ゲーム関連
・通信関連
■エン転職
・ソフトウェア・情報処理
・インターネット関連
・通信関連
■doda
・システムインテグレータ
・ベンダ(ハードウェア・ソフトウェア)
・ITコンサルティング
・通信キャリア・ISP・データセンター
・ITアウトソーシング
■type
・システムインテグレータ
・ベンダ(ハードウェア・ソフトウェア)
・SES・ITアウトソーシング
・通信キャリア・ISP
・データセンター・クラウド
・AI・人工知能関連
・RPA・RPAソリューション
・IoT・M2M・ロボット
・AR(拡張現実)・VR(仮想現実)
以上のように、同じ転職サイトであっても、その区分の仕方はだいぶ異なります。正直、リクナビ・マイナビ・エンは少なすぎと感じますし、ソフトウェアと情報処理(システムインテグレータ)が同じ区分になっているのは変だとも思います。
各社によって区分の仕方が異なり、ゲームは別の業界区分になっているなどは仕方ないものの、「Webサービス・Webメディア」や「Webマーケティング」という業界自体、リクナビ・マイナビ・エンにはないなど、この3社はあまり業界区分にこだわっていないように感じます。
個人的に一番「おいおい」と思っているのは、「技術系アウトソーシング(旧:特派)」がdodaとtypeしかないこと。このあたりはITに強い2社ならではを感じます(詳細は後述)。
もちろん、業界の区分の仕方は人によっても異なるので、これが正しいというものはありません。しかし、一定の合意を得られる区分けはできます。例えば、IT業界は
(1)ベンダー(あるいはメーカー)
(2)システムインテグレーター(SIer)
(3)SES(ITアウトソーシング)
(4)通信・ISP
(5)データセンター
くらいまでは分けるべきです。
場合によっては、「Web・インターネット」「デジタル」も含めても良いかもしれません。
ここでいうWeb・インターネットは「Webメディア・Webサイト」「Webマーケティング」「スマホアプリ」を意味します。また、デジタルは「AI・RPA」「IoT・M2M・ロボット」「VR/AR、MR」を意味します。
大きくIT業界であるものの、成熟した(あるいは成熟し始めた)業界なので、別業界として認識して良いと考えています。
いったん、この2つの業界をIT業界に入れるかという問題はさておき、上記の5つの区分に対し、大きな反対は出ないでしょう。そのくらい、それぞれの業界は認知されています。
■ベンダー(あるいはメーカー)とは
では、それぞれの業界はどんな業界なのか。
(1)のベンダー(あるいはメーカー)は自社開発のソフトウェアかハードウェアを持つ会社です。例えば、「マイクロソフト」「日本オラクル」「サイボウズ」「Cisco」「トレンドマイクロ」といった会社が挙げられます。
後述するSIerにも自社製品を持っている会社があるので、どこまでがベンダーでどこからがSIerかという区分は難しいですが、自社製品の売上比率が最低でも50%を超えていれば、ベンダーと呼んで差し支えないと思います。
■SIer(システムインテグレーター)とは
一方のSIerですが、こちらは他社のソフトウェアやITインフラを開発・構築する会社のことです。開発するものが自社製品か他社製品かが、ベンダーとの一番の違いといえます。「NTTデータ」や「大塚商会」、「野村総合研究所(NRI)」「伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)」などが例に挙げられます。
「NEC」や「富士通」、「日立製作所」などもSIerに挙げられますが、さきほど出したベンダーでもあり、SIerでもある会社なので、いったん脇へ置きます。
■SES(ITアウトソーシング)とは
(3)のSES(ITアウトソーシング)は、技術力の提供を行う会社のことです。「SIerと何が違うの?」「(後述する)技術系アウトソーシング・技術派遣と何が違うの?」と思われるかもしれません。
細かいことを言うと、プロジェクトの契約形態の違いです。しかし、ここではIT業界におけるピンチヒッターや助っ人企業と思ってください。SIerは他社の製品を完成する義務がありますが、SESは助っ人なので完成させる義務はありません。そのため、携わるプロジェクトは短期間(プロジェクトの一部)になりがちです。
■通信キャリア・ISP・データセンターとは
(4)は通信キャリアとISP(プロバイダ)のことです。NTT(東日本・西日本)、NTTデータ、KDDI、Softbank、楽天といった通信をビジネスにする会社と、インターネットに接続する事業を行うプロバイダ(NTTコミュニケーションズ、ぷらら、ソネットなど)を指します。
通信キャリアは巨大な業界でエンジニアも多く属しています。しかし、ISPはマーケットの規模は小さく、求人でもほとんど出てくることはありません。
(5)のデータセンターは、一般の方には馴染みがありませんが、企業のデータを預かる事業のことです。新しいビジネス形態ですが、AWSもデータセンターの一つと言えます。
基本的に企業は、自分たちが取り扱うデータを自社の敷地内に置けないので(配置スペースがないので)、データセンターと契約します。データセンターは複数の企業のデータ(正確にはサーバ)を管理・維持しています。
■技術系アウトソーシング(技術派遣)とは
さて、さきほどから何回か「技術系アウトソーシング」「技術派遣」という言葉が出てきました。SIer・SESの次くらいに、この業界に属しているエンジニアが多いのではないでしょうか。
しかし、この業態はIT業界ではありません。人材サービス業界です。エンジニアを派遣し、業務を代わりに遂行するビジネスです。この業界は労働者派遣法という法律に規定されており、厳しい規制がかかっています。
「エンジニア派遣」という言葉は、この業界のことを指しています。しかし、先述したSESと混同されていることも多く、「IT土方」「IT奴隷」などと揶揄されることも。
しかしながら、法律で規制されているので、多くの企業はまっとうです。もし、本当に「IT土方」や「IT奴隷」という状況で違法状態なら労基署に訴えれば、行政改善・指導を受けます。実際、何社も指導や罰則を受けています。
個人的には、むしろSESのほうが問題だと考えています。なぜなら、労働者派遣法のような法律がなく、派遣と同じようなビジネスを展開しているからです。そのため、中小企業はブラック企業になりがちです。しかも、労働者派遣法のような厳しい法規制がないので、行政が動きづらいという面も。
■未経験がイメージするIT業界
最後に。未経験の方がイメージするIT業界は、Web・インターネット業界のことです。ECやSNS、Webメディア・Webサイト、スマホアプリのことを指し、この業界に属するエンジニアのことを、Webエンジニアと呼称することもあります。
SIerやSES、あるいは技術派遣のエンジニアが、Web・インターネット業界の企業に派遣されることはあります。ただ派遣されるだけで、その会社の社員ではありませんし、待遇も異なります。
プロジェクト(契約)が終了すれば、別のプロジェクト先に行かなければならず、常にWeb・インターネット系の仕事ができるとは限りません。
このように、IT業界と一口に言っても、幅広い業態があり、その業態によって仕事が異なります。イメージだけでIT業界に転職し、後悔する方も少なくありません。新卒時の業界研究と同じように、ITエンジニアになりたい方は業界の違いを理解されることをおすすめします。
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